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悪役令嬢のスローライフ計画! 〜実家がまさかのブラック領地だったので、物理(魔法)とM&Aで国ごとホワイト企業に作り替えました〜  作者: 仁科異邦


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完璧な新人研修(マニュアル化)と崩壊する王宮


領主邸の大広間に、緊張した面持ちの新人文官二十名が整列していた。


彼らは皆、昨日の「合同企業説明会」でクリスティアの掲げた狂気の沙汰(超絶ホワイトな労働条件)に惹かれ、厳しい採用試験(筆記と面接)を突破した精鋭たちだった。


その彼らの前に、クリスティアは分厚い紙の束をドンッと積み上げた。


「よく集まりましたわね、新人ども。今日から貴方たちには、我がローズウッド領を支える歯車として、粉骨砕身、定時まで働いてもらいますわ」


クリスティアが扇子を広げると、新人たちはゴクリと息を飲んだ。

「まず、全員にこれを配りなさい」

指示を受けたヴィンスが、新人たちに分厚い紙の束を配って回る。


表紙には『ローズウッド領・標準業務手順書マニュアル』とデカデカと書かれていた。

「それは、私が昨夜徹夜で……ゴホン、私が考案した絶対のルールブックですわ。税の徴収から経費の精算、他領との交渉手順に至るまで、すべてのフローが網羅されています」


新人たちが恐る恐るページをめくると、そこには彼らが今まで見たこともないほど洗練された書式フォーマットが並んでいた。


「複式簿記」による金銭管理、申請書類の定型化、そして「誰が、いつまでに、何を承認するのか」が一目でわかるチャート図。


前世の近代的なオフィス業務を、ファンタジー世界に力技で落とし込んだ魔の教典である。


「仕事は見て盗むなどという野蛮な真似は許しませんわ。わからないことがあれば、まずはそのマニュアルの目次を引きなさい。

それでもわからなければ、ヴィンスに聞きなさい。

私に直接質問するのは、領地が滅びるか、予算が底を尽きた時だけにすること!」

(完璧よ! これで完全に業務の属人化を防げる! 誰が休んでも仕事が回るシステムこそが、私のスローライフの礎となるのだから!)


内心で高笑いするクリスティアの思惑など露知らず、新人たちはその緻密すぎるマニュアルに圧倒され、震え上がっていた。


「そして……本日の終業時間は夕方の鐘が鳴るまでです」

クリスティアは氷のような視線を新人たちに向けた。


「鐘が鳴った後、一秒でも机にしがみついている者がいれば……」

背後の壁に寄りかかっていたルシアンが、チャキッ、と長剣を鞘から少しだけ抜いて見せた。

「俺が物理的に『退勤』させてやるから、そのつもりでな」


「ひぃっ!?」

「定時で終わらせるために、脳みそに汗をかいて効率化を考えなさい! さあ、業務開始ですわ!」


こうして、ローズウッド領の新人研修(という名の、定時退社を至上命題としたスパルタ業務改善)が幕を開けた。


数日後には、新人たちは誰もがマニュアルを丸暗記し、定時の鐘が鳴る五分前には机の上を完全に片付けるという「超優秀な社畜ホワイト軍団」へと変貌を遂げることになるのだが、それはまた別の話である。



一方、その頃。

ローズウッド領から遠く離れた、王都の第一王子執務室。

「……なんだ、この書類の山は!!」

エドワード第一王子の怒号が、豪奢な部屋に空しく響き渡っていた。


彼の目の前には、かつてクリスティアの机を埋め尽くしていたのと同じ、いや、それ以上の高さに積み上げられた未決裁書類の山がそびえ立っていた。


「殿下、落ち着いてくださいませ。しかし、これらは全て今日中にサインをいただかねばならない急ぎの案件でして……」


宰相がハンカチで額の汗を拭いながら、恨めしそうな声で言う。

「ふざけるな! なぜ俺がこんな雑務をやらねばならない! クリスティアはどうした! あいつを呼んでこい!」


「クリスティア様は、先日殿下がご自身で婚約破棄なされたではありませんか……!」


「あ……っ」

エドワードの顔から、さぁっと血の気が引いた。


そうだった。彼は「嫉妬に狂った悪役令嬢」を断罪し、真実の愛を貫いてリリィ・フィールド男爵令嬢を選んだのだ。


「そ、そうだ、リリィがいる! リリィ、お前ならクリスティアの仕事を引き継げるだろう!?」

エドワードがすがるような目を向けると、ソファーでお茶を飲んでいたリリィがビクッと肩を震わせた。


「えっ……あ、あの、エドワード様。私、クリスティア様からは『王宮法典の第一章の暗記』と、『過去三年分の経理書類の仕分け』までは教わったのですが……」


「よし! ならばこの治水事業の予算案の決済もできるな!?」

「わ、わかりません……! クリスティア様、いつも『ここから先は平民上がりの貴女にはまだ早いですわ!』って、重要な書類は全部ご自身で処理されてしまっていたので……っ!」


リリィはポロポロと涙をこぼし始めた。

クリスティアの行った「嫌がらせ(新人研修)」は、あくまで王太子妃としての基礎教養を叩き込むものであり、エドワードが本来やるべき高度な政務判断(丸投げされていた仕事)までは引き継いでいなかったのだ。


「そ、そんな馬鹿な……。あいつはただの嫌な女で、仕事なんか大してしていなかったはずでは……!?」

エドワードは震える手で、一番上の書類を手に取った。


それは、隣国との関税に関する複雑な条約の更新案だった。

専門用語が羅列され、どこにサインすればいいのかすらわからない。

「殿下。クリスティア様が去られてからわずか数日で、王宮内の事務処理は完全に麻痺しております。各領地からの予算申請は滞り、騎士団からは給与の遅配に不満が噴出しております」


宰相の冷ややかな言葉が、エドワードの胸に深く突き刺さった。

「早急に、殿下ご自身でこれらを処理していただくか……さもなくば、頭を下げてでもクリスティア様を呼び戻すしかありませんぞ」


「俺が、あの女に頭を下げるだと……!?」

ギリッ、とエドワードは奥歯を噛み締めた。

だが、山積みの書類は待ってくれない。

彼が現実逃避している間にも、文官たちが次々と新たな書類の束を運んでくる。


「殿下、こちら魔法省からの緊急の決済が──」

「殿下、南部の魔物討伐部隊から増援の要請が──」

「ああああああっ!! うるさい、少し黙れ!!」


かつて彼がクリスティアに押し付けていた「無休・無給のブラック労働」が、特大のブーメランとなって自身の首を絞め始めていた。



王都の中枢が書類の雪崩に飲み込まれ、ゆっくりと崩壊の足音を響かせていることなど、遠く離れた領地でスローライフ(の準備)を満喫しているクリスティアが知る由もなかった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

続きが気になる方はブックマークを、

面白いと思われた方は評価を是非お願いします。

作者のモチベーションが爆上りして残業(執筆)頑張っちゃいます。

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