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悪役令嬢のスローライフ計画! 〜実家がまさかのブラック領地だったので、物理(魔法)とM&Aで国ごとホワイト企業に作り替えました〜  作者: 仁科異邦


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初めての「新卒一括採用」と、常識外れのモンスター新人 その2



入社から一週間後。

新人研修(OJT)を任せていたヴィンスとリリィが、幽鬼のような顔で執務室に駆け込んできた。


「しゃ、社長……助けてください……私、もう胃に穴が開きそうです……」

「新卒の子たち……優秀なんです。魔法の成績も剣術もトップクラスなんです。でも……でも……!」


二人の悲痛な叫びに、クリスティアは眉をひそめた。

「どうしたの? 分からない仕事があるなら、優しく教えてあげればいいじゃない」

「それが……『仕事以前の問題』なのです……!」


ヴィンスが震える手で、一枚の報告書を差し出した。

そこには、各部署に配属された新入社員たちの「信じられない行動記録」が記されていた。


【ケース1:プライド高すぎ貴族令息】

• 状況: コピー(魔法複写機)と、お茶出しをお願いした。

• 新人の言い分: 「は? 私は由緒正しき伯爵家の三男だぞ! なぜ私が紙の複製や、他人に茶を淹れるような下働きをしなければならないのだ! これは私の『本来のポテンシャル』を活かせる業務ではない! もっと国を動かすような大きなプロジェクトを任せろ!」


• 結果: 一日中デスクで腕を組んでふんぞり返り、何もしていない。


【ケース2:タイパ至上主義の勇者候補】

•状況: 顧客管理の台帳入力の基礎を教えようとした。

• 新人の言い分: 「先輩、その説明ってマニュアル読めば分かりますよね? 聞く時間タイムパフォーマンス悪いんで、要点だけ三行でまとめて送ってもらえます?

あと、僕のスキル構成的に事務作業はバフがかからないんで、午後から魔物討伐(営業)に行ってきまーす!」


• 結果: 基礎をすっ飛ばして現場に飛び出し、顧客のクレーム対応でいきなり剣を抜こうとして大問題に。


【ケース3:権利主張の鬼(ホワイト企業ガチ勢)】


• 状況: 業務時間中に緊急のトラブル(魔獣の脱走)が発生した。

• 新人の言い分: 「あ、もう17時なんで定時っすね。お疲れ様でーす! 明日は飼ってるペットの誕生日なんで有給取りまーす!」


• 結果: 先輩たちが血相を変えて魔獣を捕獲している横を、爽やかな笑顔でタイムカードを切って帰宅した。



「………………」

クリスティアの顔面が、スゥッと無表情になった。

「なるほど。前世でもよく見た光景ですわ。能力値ステータスは高いけれど、社会人としての『常識ビジネスマナー』が完全に欠如したモンスターたちね」


「どうすればいいのでしょう社長! 強く叱れば『パワハラだ! 労基署に駆け込むぞ!』と逆に脅してくるんです! うちの会社、労基署ルシアンたちが最強の武力を持っているので、本当に首を刎ねられそうで怖くて……っ!」


リリィが泣きべそをかいている。

「権利ばかりを主張して、義務を果たさない。……我が社の『ホワイト』という理念を、ただの『甘え』と勘違いしているようですわね」


クリスティアはギリッと扇子を握りしめ、ゆっくりと立ち上がった。

「私が甘かったですわ。新卒というものは、真っ白なキャンバス。だからこそ、最初に『社会の厳しさ』と『本当のプロフェッショナルとは何か』を、骨の髄まで叩き込まなければならなかった!」


クリスティアの目に、悪役令嬢としてのドス黒い炎が宿る。

「ルシアンを呼びなさい! 明日から三日間、全業務をストップして、私が直々に新人たちを『ビジネスマナー合宿』という名の地獄のブートキャンプに放り込みますわ!!」


翌日。ローズウッド領の奥深くにある、修験者のための霊山。

「な、なんだここは!? 私は本社で華やかなデスクワークをするはずでは……っ!」


「おいおい、こんな山奥に連れてくるなんて、聞いてないっすよ。労基違反で訴えますよ?」


文句を垂れる数十人の新入社員たちの前に、迷彩服(のような動きやすい狩猟服)に身を包んだクリスティアが、巨大なハリセン(※痛いだけで怪我はしない魔導具)を持って立っていた。


その後ろには、鬼の形相をしたルシアンとレオンハルトが控えている。

「皆様、入社おめでとうございます。本日から三日間、わたくし自らが皆様の『社会人基礎力』を鍛え直して差し上げますわ」


クリスティアがニッコリと微笑む。

「まずは挨拶の訓練です! 山の頂上にいるワイバーンに向かって、声が枯れるまで『おはようございます!』『お疲れ様です!』を叫んできなさい! 声が小さければルシアンが物理的に背中を押しますわよ!」


「は、はあ!? なんでそんな非効率な……痛ぁっ!?」

文句を言おうとしたタイパ至上主義の勇者候補の尻を、ルシアンが容赦なく蹴り飛ばした。


「上司の指示に『はあ?』じゃねえ! 『はい、喜んで!』だろ!! さっさと走れ新人ども!!」


「ひぃぃぃぃっ!!」

「いいですか!? どんなに強大な魔法が使えようと、コピー取りとお茶出し(基礎)ができない人間に、国を動かす仕事など任せられませんわ!

そして、権利(有給や定時)を主張したければ、まずは与えられた義務タスクを完璧にこなしてからになさい!!」


クリスティアの拡声魔法による怒号が、霊山に響き渡る。

「挨拶! 報・連・相! 電話(通信魔導具)はワンコールで取る!! 基本中の基本を身体に叩き込むまで、帰れると思わないことですわーーっ!!」


「「「イエッサーーーッ!!(涙)」」」

かくして、ファンタジー世界に「旧時代の鬼の新人研修」が爆誕した。


三日後。

ボロボロになりながらも、見違えるようにキビキビと動き、完璧な角度で「お疲れ様です!」とお辞儀をするようになった新入社員たちが本社に配属された。


これでようやく、彼らも一人前の戦力として会社に貢献してくれるだろう。

しかし、CEO執務室では。


「……あ、あはは……。声が、出ない……」

クリスティアが、枯れ果てた声でソファーに倒れ込んでいた。

三日間、山奥で大声を出し続け、新人たちのメンタルケアと指導(OJT)を全力で行った結果、彼女の体力は完全にマイナスに振り切れていた。


「お疲れ様でした社長! 新人たち、見違えるように立派になりました!」

「ええ! これで数ヶ月もすれば、彼らが立派に実務を回してくれるようになりますね!」


ヴィンスとリリィが嬉しそうに報告するが、クリスティアは虚ろな目で天井を見上げた。

(新人を一人前に育てるのって……自分が仕事をするより、何倍も、何十倍も体力と時間がかかるのね……!)


「教育コスト」という、企業にとって最も重く、避けられない負担。

未来の自分が楽をする(スローライフを送る)ためには、今の自分が血反吐を吐いて新人を育てなければならない。それが「組織を作る」という事なのだ。


「……来年の新卒採用の時期には、私、絶対に一ヶ月の長期休暇をもらいますわ……」

掠れた声でそう呟きながら、元社畜令嬢は泥のように眠りに落ちた。


「人に仕事を教える難しさ」を痛感した彼女が、何もしない日々を手に入れるのは、どうやらまだまだ先の話になりそうである。

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