初めての「新卒一括採用」と、常識外れのモンスター新人 その1
外部コンサルタントの撃退から数ヶ月。
ローズウッド・グループは着実に業績を伸ばしていたが、本社は慢性的な「人手不足」に陥っていた。
「……中途採用の限界ですわ」
CEO執務室で、クリスティアは深くため息をついた。
帝国や他国からヘッドハンティングした「中途組」は確かに優秀だが、彼らは前のブラック職場の癖が抜けず、勝手に徹夜したり、効率化を履き違えて暴走したりと、トップの目が行き届かないところでトラブルを起こしがちだった。
「ヴィンス。やはり、他の企業(国家)の悪習に染まっていない、純白無垢な人材が必要ですわ。我が社の『ホワイトな理念』をゼロから叩き込める存在が。……というわけで」
クリスティアは扇子をバシッと開いた。
「『新卒一括採用』を開始しますわ!!」
「新卒、ですか?」
「ええ! 王立学園や魔法学校を今年卒業する、若くて優秀な学生たちを大量に採用するのです!
彼らを我が社の完璧なマニュアルで教育(OJT)し、生え抜きの最強ホワイト社員に育て上げる! そうすれば、数年後には私は完全に仕事を彼らに丸投げして、優雅なスローライフを送れるはずですわ!!」
「未来への投資ですね! 素晴らしいです社長! すぐに学園に求人票を出してきます!」
リリィが目を輝かせて飛び出していった。
超絶ホワイト企業(初任給三倍・完全週休二日制)の噂は学生たちの間で大バズりし、数日後には、本社の廊下を埋め尽くすほどの「履歴書の山」が築き上げられた。
「では、次の候補者の方、どうぞ」
本社の特設面接会場。
クリスティアは、ヴィンスとリリィを左右に従え、面接官として座っていた。
目の前には、緊張でガタガタと震える学生たちが並んでいる。
(……懐かしいわね、この空気。前世で何度も味わった、あの『圧迫面接』の緊張感……ッ!)
クリスティアの中で、前世の社畜魂が疼いた。
彼女はわざと冷酷な悪役令嬢としての威圧感を全開にし、冷たい視線で学生たちを見下ろした。
「……貴方。志望動機に『貴社の理念に共感した』とありますが、具体的に我が社のどのマニュアルの、どの項目に、どう共感したのですの?
三十秒で、簡潔に、私を納得させるように述べてみなさい」
「ひ、ひぃぃっ……! その、えっと、完全週休二日で、温泉が……っ」
「……次。貴方の自己PRにある『魔法の成績トップ』というのは、実務でどう活かせますの? 我が社は学園ではありませんわ。貴方の魔法が、一時間でどれほどの利益を生むか、具体的な数字でプレゼンしてくださいな」
「あ、あうあう……っ」
(……ふふっ、楽しい。面接って、こんなに楽しいものだったのね! 圧迫する側って最高だわ!)
クリスティアは心の中で悪魔的な笑みを浮かべていたが、彼女が求めていたのは、ただのイエスマンではなかった。
彼女は、この厳しい質問(圧迫)を、圧倒的な「能力」と「自信」で跳ね返してくる、最強の人材を探していたのだ。
そして。
『私の魔法は、既存の複写魔法を独自に改良したものです。一時間で一万枚の書類を、魔力をほぼ消費せずに複写できます。これにより、貴社の事務コストを大幅に削減できますわ(ドヤ顔)』
『僕の剣術は、ただ敵を倒すだけじゃありません。正確無比な太刀筋で、魔獣を一切傷つけずに捕獲できます。これにより、高級な魔獣素材を無傷で入手し、利益を最大化できます(爽やか笑顔)』
『定時退社は当然の権利です。私は、与えられたタスクを業務時間内に完璧に終わらせ、十七時にはタイムカードを切って、そのまま温泉で英気を養い、翌日も最高のパフォーマンスを発揮します(自信満々)』
「……決まりましたわ」
クリスティアは扇子をパチンと閉じた。
「ヴィンス。今、このえげつない質問を笑顔で切り返した彼ら……学園トップクラスの魔法と剣術を持ち、かつ、我が社の理念(定時退社)を完璧に理解している金の卵たち!
彼ら全員に『内定(Offer)』を出しなさい! 倍率数百倍の難関を突破した、最強の新卒集団の誕生ですわ!!」
(ふふふ……ピカピカの新人たち。彼らこそが私の定時退社を約束する完璧な後継者よ!)
──しかし。
クリスティアは前世の記憶からすっかり抜け落ちていた。「新卒」という生き物が、時に経営者の想像を絶する「モンスター新人」に化けるリスクを孕んでいることを。
そして、面接での「自信」が、そのまま「根拠のないプライド」へと直結していることに……。




