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悪役令嬢のスローライフ計画! 〜実家がまさかのブラック領地だったので、物理(魔法)とM&Aで国ごとホワイト企業に作り替えました〜  作者: 仁科異邦


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意識高い系「外部コンサルタント」の襲来と、横文字の恐怖


「パスワード忘れ」によるデジタル化(DX)の崩壊から数日。


ローズウッド・グループ本社は、再び高くそびえ立つ「紙とハンコの山脈」に支配されていた。


「……手が、右手がもげそうですわ。このままでは私のスローライフが物理的な過労死(二度目)によって断たれてしまいますわよ…」


右手に湿布を貼りながら、クリスティアは絶望の表情で書類の山を睨みつけていた。


システムに頼るのがダメなら、どうすればいいのか。自社の人材ヴィンスやリリィはすでに限界まで働いている。


その時、クリスティアの目に、一枚の豪奢なチラシが飛び込んできた。


『貴社の業務を半分に! 王都で話題沸騰の「経営錬金術師ビジネス・コンサルタント」が、究極の効率化をお約束します!』


「……これだわ!!」

クリスティアは勢いよく立ち上がった。

「自社で解決できないなら、外部のプロ(コンサル)に丸投げすればいいのよ! 高い報酬を払ってでも、この地獄の業務フローを改善してもらうのですわ!」


数日後。

CEO執務室に、異常にパリッとした細身のスーツを着て、前髪を不自然に流した男が現れた。彼こそが、高額な契約金で呼び寄せた外部コンサルタント・ルーカスである。


「お初にお目にかかります、クリスティアCEO。

本日から貴社の『コアコンピタンス』を最大化し、『パラダイムシフト』を起こすお手伝いをさせていただきます」


「……はぁ」

ルーカスの第一声に、クリスティアは一抹の嫌な予感を覚えた。

(出たわね……前世でもよく見た『横文字バズワード』をやたらと使いたがる意識高い系……!)


「まずは現状の『アジェンダ』を『シェア』しましょう。

貴社の業務フローは少々『レガシー』すぎます。

もっと『アジャイル』に『タスク』を回し、全員が『KPI』に『コミット』できる『スキーム』を『ブラッシュアップ』する必要がありますね!」


ルーカスがドヤ顔で言い放った謎の呪文に、ヴィンスとリリィは目を白黒させていた。

「け、けーぴーあい……?」


「あじゃいる……? な、なんだかよく分かりませんが、すごく賢そうな魔法の言葉ですね……!」


真面目でピュアな二人は、圧倒的な横文字の圧力に気圧され、すっかり感心してしまっていた。


「よし、では本日から毎日三時間の『ブレインストーミング(会議)』を行い、業務の『シナジー効果』を高めましょう!」

かくして、外部コンサルタントによる「意識の高い業務改善」がスタートした。


一週間後。

クリスティアは、執務室で頭を抱えていた。

「……おかしい。コンサルを入れてから、さらに仕事が回らなくなっている気がするのだけれど」


そこに、ヴィンスとリリィが疲れ切った顔で入ってきた。

「社長……先ほどの『ミーティング』で決まった『スキーム』ですが、現場の『コンセンサス』を取るために、さらに別の『ミーティング』が必要だとルーカス殿が……」


「私、今日も朝からずっと『ブレスト』ばかりで、本来の書類整理の『タスク』が全く進んでいません……」


二人の言葉に、クリスティアはギリッと奥歯を噛んだ。

「ちょっと待ちなさい。ルーカス本人は今、何をしているの?」


「はい。『次回の会議のための、美しい魔法スライド資料』を徹夜で作っています」

「…………」


クリスティアの脳内で、完全に過去のトラウマがフラッシュバックした。

(…思い出したわ! 実務を一切やらずに、会議ばかり増やして『美しいだけの抽象的なスライド資料』を作り、現場を混乱させるだけのクソコンサル!!)


「呼んできなさい! 今すぐあのエセ錬金術師をここに!!」

「お呼びでしょうか、CEO。何か『クリティカル』な『イシュー』でも発生しましたか?」


相変わらず涼しい顔で現れたルーカスに、クリスティアは彼が作った百枚以上の「魔法スライド資料」をバサッと叩きつけた。


「ルーカス。貴方がこの一週間で作ったこの資料……『効率化の概念図』ばかりで、具体的に『誰が、いつ、何をするか』という実務的な改善案が一つも書かれていませんわね?」


「ふっ、CEOは分かっていらっしゃらない。我々コンサルの仕事はあくまで『ソリューションの枠組み(フレームワーク)』を提示することです。

それを『エビデンス』に基づき『エグゼキューション(実行)』するのは、現場の皆様の『タスク』ですよ」


つまり「俺は口と綺麗な資料を出すだけ。実際の面倒な作業はお前らがやれ」という、コンサルティングの最悪のテンプレである。


「……ヴィンス。この一週間の、我が社の決裁処理件数は?」

「ルーカス殿の会議に時間を取られたため、通常の『半分以下』に激減しております。未決裁の書類が廊下まで溢れそうです」


「……」

クリスティアは静かに立ち上がり、執務室の奥に向かって声をかけた。

「…ルシアン。出番よ」


「おう。ずっと待ってたぜ」

ソファーの陰から、黒コートのルシアンが長剣を肩に担いで現れた。

「な、なんだ君は。私は外部の人間だぞ! こんな非合理的な暴力ハラスメントは『コンプライアンス』違反……っ!」


「うるせえな。俺の『コアコンピタンス(物理)』で、てめえをこの窓から『アサップ(ASAP:なる早)』で『アウトソーシング(放り出す)』してやるよ!!」


ルシアンがルーカスの首根っこを掴み、文字通り窓の外へと放り投げた。

「アグリーーーーーッ!!」という謎の悲鳴と共に、意識高い系コンサルタントは空の彼方へ消えていった。

静けさを取り戻した執務室。


「……申し訳ありません、社長。私たち、横文字に踊らされて時間を無駄にしました」

ヴィンスとリリィが深く頭を下げる。


「いいえ、外部の甘い言葉コンサルにすがろうとした私の責任ですわ。……結局のところ、現場の業務を一番分かっているのは現場の人間。

魔法の言葉や、外部の人間による特効薬なんて存在しないのですわね」


クリスティアは深くため息をつき、廊下まで溢れかえった「処理待ちの書類の山」を見つめた。


「さあ! 会議ばかりして遅れた分のリカバリー(残業)を始めますわよ! 今日は帰れませんわーーっ!!」


「「はいぃぃぃっ!!(涙)」」

仕事を楽にしようと外部の人間を頼れば、余計な会議と横文字が増えて実務が止まる。


元社畜令嬢の「定時退社」への道は、現代のビジネス病に阻まれ、またしても遠のいていくのであった。


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