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悪役令嬢のスローライフ計画! 〜実家がまさかのブラック領地だったので、物理(魔法)とM&Aで国ごとホワイト企業に作り替えました〜  作者: 仁科異邦


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夢の在宅勤務(テレワーク)導入と、見えない「常時接続」の恐怖


事業縮小(フランチャイズ大量閉鎖)に伴う地獄の事後処理デスマーチから数週間。


ローズウッド・グループ本社は、ようやく以前の平穏(※あくまで当社比の激務)を取り戻しつつあった。


しかし、最高経営責任者であるクリスティアのライフ(精神力)は、すでに赤ゲージの点滅状態だった。


「……もう、一歩も歩きたくない。ベッドから出たくない。通勤という概念そのものを消し去りたい」


領主邸の豪華な天蓋付きベッドにくるまり、クリスティアはミノムシのように丸まっていた。


彼女の脳内に、前世の記憶から一つの画期的なシステムが閃いた。

社畜時代、一時的に導入されて「通勤ラッシュからの解放」と持て囃された、あの魔法の労働形態。

(そうだわ! 『在宅勤務テレワーク』よ!! これなら、私はベッドから一歩も出ずに仕事ができる!!)


クリスティアは勢いよく布団を跳ね除けた。

翌日。CEO執務室に幹部たちを集めたクリスティアは、得意げに一枚の鏡(魔導具)を掲げた。


「皆様! 本日より、我が本社において『フルリモートワーク(完全在宅勤務)制度』を試験導入いたしますわ!」


「りもーとわーく……ですか?」

首を傾げるヴィンスとリリィに、クリスティアは魔導具の仕組みを説明した。


「これは帝国から吸収した技術で作られた『通信魔鏡タブレット』です! これを使えば、お互いの顔を見ながら会話ができ、書類のデータも一瞬で送受信できます。つまり……貴方たちはもう、わざわざ本社に出社する必要はありません!」


クリスティアは扇子をバシッと開いた。

「通勤時間をゼロにし、自宅のリラックスした環境で業務を行う! これぞ新時代のホワイト労働の極みですわ! もちろん、定時の鐘が鳴ったら通信を切って業務終了です!」

(そして私は、パジャマのままベッドの上で『承認』とだけ口にして、あとはシロの作ったお菓子を食べながらゴロゴロするのよ! 完璧な計画だわ!)


「おおおっ……! それは素晴らしい!」

ヴィンスが感嘆の声を上げた。

「通勤の往復一時間が削減されれば、その分を睡眠や読書に充てられます! 社長、さすがの先見の明です!」


「はいっ! 自宅のデスクなら、さらに集中して書類作成ができそうです!」

リリィも目を輝かせている。


かくして、ファンタジー世界初の「魔法テレワーク制度」がスタートした。

導入初日。

クリスティアの目論見は、完璧に成功したかに見えた。


ふかふかのベッドの上でパジャマ姿のまま、通信魔鏡越しにヴィンスからの報告を受け、サイン(魔力承認)を送るだけ。疲れたらそのまま横になれる。


「最高……っ! やはり在宅勤務こそ人類の至宝!」と、クリスティアは歓喜の涙を流した。

──だが、真の地獄(罠)は、導入から三日目の夜にやってきた。


深夜一時。

クリスティアが心地よい眠りについていたその時。

『ピロリンッ♪』

枕元に置いた通信魔鏡から、軽快な通知音が鳴り響いた。


「……んん? 何よこんな時間に……」

眠い目をこすりながら魔鏡を覗き込むと、画面の向こうには、なぜか真昼のように目をギラギラと輝かせたヴィンスの顔があった。


『あ、社長! 夜分遅くに申し訳ありません! 自宅でリラックスしてお茶を飲んでいたら、突然「旧皇国領の関税に関する画期的な改善案」を思いつきまして! 忘れないうちにデータを送付いたしました!』


「……は? ヴィンス、今何時だと……」

『ピロリンッ♪』

今度はリリィからの着信が割り込んできた。

『社長! ヴィンス先輩の案、拝見しました! 素晴らしいです! 私、今から関連する過去の法律データをすべて洗い出して、明日の朝までに添付資料を完成させますね!』


画面の向こうのリリィは、完全にゾーンに入った仕事人間のハイテンションになっていた。

「ちょっと待ちなさい! 貴方たち、定時の鐘はとうの昔に鳴ったはずですわよ! なぜ働いているの!?」


クリスティアの叱責に、二人は不思議そうな顔をした。

『いえ、これは「仕事」というより、ただの思いつきのメモと言いますか……』


『そうですよ社長! 自宅にいるので、これは趣味の延長みたいなものです! まったく苦ではありません!』


そう言い残し、二人は通信を切った。

しかし、その後も『ピロリンッ♪』『ピロリンッ♪』と、絶え間なく書類が送信されてくる通知音が、クリスティアの寝室に鳴り響き続けた。


「………………」

クリスティアは、前世の忌まわしい記憶をありありと思い出していた。

(テレワークの最大の罠……! それは、職場とプライベートの『物理的な境界線』が消滅すること!!)


会社にいれば、「帰宅」という行為で強制的に仕事はリセットされる。


しかし、家が職場になってしまうと、優秀で真面目な人間ワークカホリックほど、「いつでも仕事ができる」状態に陥り、結果的に四六時中仕事のことを考え、際限なく働き続けてしまうのだ。

(しかも、これじゃあ私のベッドルームが『24時間営業のオフィス』と同じじゃないのよぉぉぉっ!!)


ピロリンッ♪ ピロリンッ♪

深夜の寝室に鳴り響く、部下たちからの無邪気な「これ承認お願いします!」の通知音。

逃げ場のないデジタル・デスマーチの始まりであった。


翌朝。

ルシアンがクリスティアの寝室を訪れると、そこには一睡もできず、魔鏡を抱えたまま白目を剥いているクリスティアの姿があった。


「……お嬢、すげえ顔してんな。死体かと思ったぜ」

「ルシアン……」

クリスティアは、幽鬼のようにゆらりと立ち上がった。


「労基署の出番よ。……今すぐ、ヴィンスとリリィの家に強制捜査カチコミをかけなさい」

「は? あいつら、今日は家で仕事してんだろ?」


「ええ。家で、徹夜で、際限なく狂ったように仕事をしているわ。あの子たちから『通信機器ルーター』を物理的に没収してきなさい……ッ!!」


数十分後。

ヴィンスの自宅(高級マンションの一室)。

「ふふふ……この条項をこう修正すれば、さらに効率が……!」

パジャマ姿のまま、無精髭を生やし、大量の羊皮紙と魔鏡に囲まれて狂ったようにペンを走らせるヴィンス。


ドゴォォォォンッ!!

「な、なんだ!?」

玄関のドアが物理的に吹き飛ばされ、黒コートのルシアンが踏み込んできた。

「王立・労働基準監督署だ! 貴様、自宅を隠れ蓑にした『違法な深夜の自主残業』だな!!」


「ル、ルシアン!? 違う、これは仕事じゃない、ただの知的な遊戯で──」

「言い訳は聞かねえ。物理的ログアウト(没収)だ!」


ルシアンが長剣の鞘で、ヴィンスの目の前にあった通信魔鏡をガシャンと叩き割った。

「ああっ!? 僕の画期的なアイデアがぁぁっ!!」


同じ頃、リリィの自宅でも、レオンハルト率いる実働部隊が窓から突入し、「趣味の延長です!」と叫ぶリリィから魔鏡を没収し、強制的にベッドに縛り付けて睡眠をとらせていた。


翌日。

ローズウッド・グループ本社、CEO執務室。

クリスティアの目の前には、通信魔鏡を没収され、しょんぼりと肩を落とすヴィンスとリリィが立っていた。


「……本日を以て、我が社におけるフルリモートワーク制度は『完全撤廃』いたします」


クリスティアは、目の下に深いクマを作りながら、冷酷に宣告した。


「貴方たちのような仕事狂い(ワーカーホリック)には、物理的なオフィスと、物理的な定時の鐘、そして『物理的に職場から追い出す労基署の存在』が絶対に必要だと分かりましたわ」


「し、しかし社長……通勤の無駄が……」

「無駄ではありません! 『今から家に帰る』というあの移動時間こそが、脳を仕事モードから休息モードへ切り替えるための重要な『儀式』だったのです!!」


クリスティアの魂の叫びに、二人は反論できず黙り込んだ。

(結局……監視の目がないと部下が暴走するから、トップは絶対にオフィスにいなきゃいけないのね……。私の「ベッドの上でゴロゴロしながら社長業」の夢は、完全に潰えたわ……)


「さあ! 在宅勤務は終わり! 全員、自席に戻って通常業務を開始しなさい! そして十七時になったら、意地でも家に帰るのですわよ!!」


「「はっ!」」

クリスティアの号令で、オフィスに再びいつもの活気(とペンの走る音)が戻ってきた。


結局のところ、物理的なオフィスこそが「定時退社」を守るための最後の砦だったのだ。

通信技術の発達という甘い蜜に釣られ、危うく24時間労働の罠に落ちかけた元社畜令嬢。


彼女のスローライフへの道程には、まだまだ数多くの「現代的ビジネストラブル」が待ち受けているのであった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


さて、今回のエピソードでは「テレワーク(在宅勤務)=24時間労働の罠」というお話を描き、最終的にクリスティア社長に制度を完全撤廃させてしまいました。


ですが、ここで筆者から一つだけ弁明させてください。

決して、テレワークそのものが「悪」だと言いたいわけではありません。


むしろ、満員電車のストレスや無駄な通勤時間を削減し、自分のペースで柔軟な働き方を実現できるテレワークは、現代の労働環境において非常に有効で素晴らしい手段であり、筆者自身も大賛成の立場です。


作中でテレワークが地獄のデスマーチと化してしまったのは、システムのせいではありません。


ひとえに、ヴィンスやリリィのような「仕事が趣味の優秀すぎるワーカホリック」が揃っていたことと、彼らに「オンとオフの切り替え」という概念が備わっていなかったからです(笑)。


現実世界のテレワークにおいて一番大切なのは、まさにあのエピソードの通り「仕事とプライベートの境界線を自分でしっかり引くこと」に他なりません。


現実世界でテレワークを活用されている皆様におかれましては、どうか定時のアラームが鳴ったら速やかにパソコンを閉じ、通知をオフにして、良きスローライフをお送りくださいね!


筆者みたいに仕事のチャットツールを深夜まで見つめないこと……クリスティアとの約束ですわよ!

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