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悪役令嬢のスローライフ計画! 〜実家がまさかのブラック領地だったので、物理(魔法)とM&Aで国ごとホワイト企業に作り替えました〜  作者: 仁科異邦


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20/35

王城事変(M&A)、あるいは無能貴族たちの大量解雇(大リストラ)


宰相との『王宮完全買収(TOB)』の合意から数日後。


かつてクリスティアが過労死寸前で逃げ出した王都の正門に、ローズウッド・グループの紋章を掲げた馬車隊が堂々たる行軍で乗り込んできた。


先導するのは、ピカピカに磨き上げられた鎧を纏い、「安全運転第一!」と爽やかな笑顔で沿道の民衆に手を振る第一騎士団(※専属運送警備員)。


そして中央の最も豪華な馬車から降り立ったのは、純白のドレスに身を包んだクリスティアと、分厚いファイルの山を抱えたヴィンス&リリィの『最強監査チーム』である。


「……戻ってきてしまいましたわね、このブラックの巣窟スラムに」

クリスティアは扇子で鼻を覆い、巨大な王城を見上げた。


外見こそ華やかな城だが、前世の社畜スキルを持つ彼女の目には、城全体から立ち上る『未決裁書類の怨念』と『経営破綻の腐臭』がハッキリと視認できた。


「お嬢様、王宮内の全ての帳簿と各派閥の裏金リスト、すでに独自ルートで掌握済みです」

「クリスティア様! いつでも解雇通知書(リストラ辞令)を出せるよう、宛名書きは済ませてあります!」


ヴィンスとリリィが、冷酷なマシーンのような目で報告する。

かつてのヒロインすらも、今や完全に『血も涙もない監査法人』の顔つきになっていた。


「上出来ですわ。さあ、大掃除を始めますわよ」

王城の最奥、本来ならば国王や重鎮たちのみが入ることを許される『最高評議会室』。


そこには、王宮が機能停止に陥っているのにも関わらず、自分たちの保身と権力闘争ばかりを繰り返している無能な高位貴族たちが集まっていた。


「ええい、宰相め! 一介の伯爵家風情に国を売り渡すなどと、狂ったか!」

「あの悪役令嬢が乗り込んでくる前に、我々の私兵で取り押さえ──」

バンッ!!


重厚な扉が蹴り破られ、評議会室の空気が凍りついた。

「お静かに。業務時間中(会議中)ですわよ、無能ども」

悠然と足を踏み入れたのは、扇子を広げたクリスティアだった。


背後にはルシアンが抜身の剣を肩に担いで立ち、ヴィンスとリリィが書類の束をドンッと会議テーブルのど真ん中に叩きつけた。


「き、貴様! クリスティア・フォン・ローズウッド! 謀反のつもりか!」

「近衛兵! この女を捕らえろ!」


貴族たちが口々に叫ぶが、扉の外に控えているはずの近衛兵たちは誰も入ってこない。彼らはすでに、ルシアン達によって物理的に「お昼寝(気絶)」させられていた。


「謀反? 人聞きの悪いことを言わないでちょうだい。これは正当な『敵対的買収(M&A)』の事後処理ですわ」

クリスティアは上座に歩み寄り、そこに座っていた大貴族を「どきなさい」と扇子で払いのけ、自らが深く腰を下ろした。


「本日を以て、この王国の行政・財政の全権は我がローズウッド・グループが掌握しました。それに伴い、経営の合理化を図るため、大規模な『組織再編リストラクチャリング』を実施いたします」


「な、何を馬鹿な……我々は先祖代々王家に仕える由緒正しき──」

「ヴィンス!」

クリスティアの合図で、ヴィンスが冷徹な声で書類を読み上げ始めた。


「マルコ侯爵。貴殿が管理する東部防衛予算の使途不明金、過去五年で金貨三万枚。これは全額、貴殿の隠し口座に流れております。続いて、ルンド伯爵。関税の不正操作による脱税の証拠がこちらに──」


次々と読み上げられる、一桁の狂いもない完璧な『不正の証拠(横領・脱税・賄賂)』。

貴族たちの顔面から急速に血の気が引き、ブルブルと震え始めた。


「あ、あり得ん! そのような機密情報、なぜ貴様らが!」

「オーホッホ! 殿下が政務を放棄して放置していた未決裁書類の中に、貴方たちの杜撰な裏工作の痕跡が山のように紛れ込んでいましたのよ!」

クリスティアは高らかに笑い飛ばした。


無能な上司(王子)が仕事を溜め込んでいたおかげで、皮肉にも彼らの不正の証拠が手付かずのまま「保存」されていたのだ。


「言い逃れはさせませんわ。貴方たち全員、本日付けで懲戒解雇クビです。資産は全て没収の上、国庫の補填に回させていただきます」


「ふ、ふざけるな! 我々がいなくなれば、国政を動かす者が誰もいなくなるぞ!」

最後の悪あがきとばかりに、一人の貴族が吠えた。

だが、クリスティアはリリィへと視線を向けた。


「リリィ。我がグループの精鋭文官たちを、王宮の各部署に配置するのにどれくらいかかりますか?」

「はっ! 温泉リゾートで英気を養った『ローズウッド式マニュアル習熟済みの特務文官』百名が、すでに王城の各執務室にて業務の引き継ぎ(強制執行)を開始しております! 今日の夕刻には、王宮の全機能が通常稼働に移行する見込みです!」


「……は?」

貴族たちは絶望に口をパクパクとさせた。

もはや彼らの居場所(人質にできる業務)は、この城のどこにも残されていなかった。


「ルシアン。このゴミどもを城の外へつまみ出しなさい。彼らの再就職先は……そうですね、北部の岩山での『手掘り温泉発掘作業(強制労働)』あたりが妥当ですわ」


「了解だ、お嬢。ほら、お前ら。仲良く一列に並んで退勤しょっぴかれの時間だぜ」

ルシアンの凶悪な笑顔と圧倒的な暴力の前に、貴族たちは涙と鼻水を流しながら引きずり出されていった。


大掃除が終わり、静けさを取り戻した評議会室。

「……終わりましたわね」

「はい。これで王宮内の『不良債権』は完全に一掃されました」


「クリスティア様! 残るは、王族の方々の処遇のみです!」

クリスティアは小さく息を吐き、立ち上がった。


向かう先は、この王城の最奥にして、すべての元凶が眠る場所。第一王子・エドワードの寝室である。


豪華な扉を開けると、そこには点滴(回復魔法)を受けながら、ベッドでゲッソリと横たわるエドワードの姿があった。

「……ク、クリスティア……」


扉の音に気づいたエドワードが、虚ろな目を開けた。

そして、純白のドレスを着たクリスティアの姿を認めるなり、その目にパッと縋るような光を宿した。


「ああ……来てくれたのか、クリスティア! お前なら、俺のピンチを救ってくれると信じていた! すまなかった、俺が馬鹿だった! 今すぐお前を王太子妃として迎え入れ──」


「寝言は寝て言いなさい、ポンコツ」

クリスティアは、エドワードの頭の横に、分厚い契約書の束をドサッと落とした。


「な、なんだこれは……」

「王家の全権委譲に関する契約書です。国王陛下にはすでにサインをいただきましたわ。貴方は本日を以て、王太子の座を退き、我がグループの『名誉顧問(ただの飾り)』となります」


「め、名誉……顧問……?」

「ええ。権限は一切ありません。政治に関わることも許しません。その代わり、一生涯、温かいベッドで寝て、決められた食事を与えられる権利だけは保証して差し上げますわ」


それはつまり、国政からの「完全なる追放」であり、合法的な「飼い殺し」の宣告だった。


「そ、そんな……俺は、俺は次期国王だぞ! こんなことが許されるはずが……っ!」


「許されるも何も、貴方が仕事を全て他人に丸投げし、国を破綻させた結果ですわ。自業自得という言葉を、その辞書のない頭に刻み込みなさい」


クリスティアは扇子を広げ、氷のような目で見下ろした。

「安心なさい。貴方が大嫌いだった『書類仕事』は、もう二度とやらなくていいのです。……そう、永遠にね」


その言葉に、エドワードは完全に心が折れたのか、ヒィッと短い悲鳴を上げて布団を被り、ガタガタと震え始めた。


もはや彼に、クリスティアに逆らう気力は一ミリも残っていなかった。

「さて、ヴィンス、リリィ」

クリスティアは振り返り、有能な部下たちを見た。


「王城の制圧は完了しました。しかし、本当の地獄はここからですわ」

「……はい。この腐りきった国全体のシステムを『ローズウッド・マニュアル』に書き換え、全国規模で週休二日制を定着させる……途方もない業務量です」


ヴィンスが眼鏡を押し上げ、武者震いをする。

「お嬢様! 私、すでに国全体の業務フロー見直し案を徹夜で作成してまいりました!」


リリィが目をキラキラさせて分厚いバインダーを掲げる。

(あああああっ!! 分かってた! 分かってたけど、また私の仕事(チェック作業)が増えるぅぅぅっ!!)


表面上は完璧な「冷酷なる新支配者(CEO)」の笑みを浮かべながら。


クリスティアは心の中で、遠ざかるスローライフに向けて盛大に血の涙を流すのであった。


彼女の「全国民定時退社プロジェクト」は、今まさに、最悪のデスマーチと共に幕を開けたのだ。


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