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悪役令嬢のスローライフ計画! 〜実家がまさかのブラック領地だったので、物理(魔法)とM&Aで国ごとホワイト企業に作り替えました〜  作者: 仁科異邦


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実家(スローライフ予定地)がまさかのブラック企業だった件


王都からの長旅を終え、クリスティアを乗せた馬車はついにローズウッド伯爵領へと足を踏み入れた。

窓から吹き込む風は心地よく、青々とした木々が揺れている。


王宮の冷たい石壁と、山積みの未決裁書類に囲まれていた日々とは大違いだ。

(ああ……空気が美味しい。それに、誰も私に「明日までにこの予算案を」なんて言ってこない!)


クリスティアは馬車のふかふかな座席に深く身を沈め、恍惚としたため息を漏らした。

慰謝料という名の退職金は、すでに王家の使いを通じて伯爵家の口座に振り込まれているはずだ。

これからの人生は、病気療養中の両親を見守りながら、領地の豊かな税収で不労所得のスローライフを送るだけである。

(まずは三日間くらい、死んだように眠ろう。その後は美味しいお茶を飲んで、昼寝して、また寝るのよ!)


完璧な人生計画に、クリスティアの口元はだらしなく緩みそうになる。

だが、馬車が領都のメインストリートに入った途端、彼女のその甘い妄想は急速に冷や水を浴びせられることになった。


「……ちょっと待って。何、このどんよりした空気」

窓から見える領民たちの姿は、活気とは程遠いものだった。


すれ違う人々の服は汚れ、痩せこけ、その目は一切の希望を失ったように濁っている。


前世の記憶を持つクリスティアには、その顔にひどく見覚えがあった。

(これ、月曜日の朝の満員電車に乗ってる時の私(社畜)の顔じゃない……!)

嫌な予感が背筋を駆け上がる。


領主の館に到着すると、その予感は確信へと変わった。

「おや、クリスティア様。王都を追い出された……ゲフン、ご帰還されたとのこと、お労しや」

出迎えたのは、丸々と肥え太った初老の男だった。


伯爵領の代官を務める男であり、病弱な両親に代わって長年この領地の『実務』を取り仕切っている人物だ。

顔には恭しい笑みを浮かべているが、その目は完全にクリスティアを「世間知らずで役立たずの小娘」として見下していた。


「旦那様と奥様は現在、離れの療養所でお休みになられています。我々優秀な文官たちが領地を完璧にお守りしておりますゆえ、クリスティア様はどうぞ、ご自室でゆっくりと傷を癒やしてくださいませ」


要するに「お前は引っ込んでろ、何も口出しするな」という牽制だった。


だが、前世で酸いも甘いも(主に激辛ばかりを)噛み分けてきた元社畜であり、つい数日前まで王宮の裏ボスとして実務を取り仕切っていたクリスティアには、男の全身から漂う『腐敗(横領)』の臭いがプンプンと嗅ぎ取れた。


「左様でございますか。ええ、わたくしは王太子殿下に見捨てられた哀れな令嬢。しばらくは大人しくしておりますわ」


クリスティアは扇子で口元を隠し、完璧な「悲劇の令嬢」の笑みを浮かべた。

「つきましては、暇つぶしに過去三年分の領地の帳簿を全てわたくしの部屋にお持ちなさい。あんなことがあった後ですから、数字でも眺めて心を落ち着かせたいのです」


「は……? ち、帳簿、でございますか? しかし、あのような退屈な数字の羅列など、令嬢が見ても──」

「お持ちなさいと言いましたのよ? オーホッホッホ!」


有無を言わさぬ高飛車な圧力プレッシャーに、代官は嫌そうな顔をしつつも「どうせ読めまい」と高を括ったのか、渋々了承した。


数時間後。

自室の机に山積みにされた帳簿を開き、ページをめくった瞬間。

クリスティアの額に、ピキリと青筋が浮かんだ。


「……何よ、このガバガバな粉飾決算は」

ドンッ!と、机を叩く音が部屋に響く。

経費の異常な流用、架空の治水事業への投資、市場価格から大きく逸脱した仕入れ値、そして領民への異常な重税。


素人が見てもおかしいと気づくレベルの、ずさん極まりない裏工作のオンパレードだった。


スローライフを送るための「安住の地」が、シロアリに食い荒らされた欠陥住宅だったと気づき、彼女の社畜魂……否、改革者としての血が沸騰し始めた。


「ヴィンス! ヴィンス・リードはどこにいますの!?」

クリスティアが屋敷のメイドに命じて呼び出したのは、地下の薄暗い資料室で書類の山に埋もれていた若き文官だった。


「は、はい! クリスティアお嬢様、何か御用でしょうか……。ひっ、その机の上の帳簿は……!?」

ボサボサの髪に、分厚い眼鏡。


震えるヴィンスの顔色は土気色で、明らかに過労と心労で胃を病んでいる顔だった。彼こそが、この腐敗した領地で唯一真面目に働こうとし、結果として悪徳上司たちから全ての雑務を押し付けられている不遇の苦労人である。


「ヴィンス。この三年間の治水事業の予算、不自然に膨れ上がっていますわね。業者の選定基準が不明瞭ですわ」


「えっ……!?」

ヴィンスは目を丸くした。世間知らずのはずの令嬢が、一瞥しただけで核心を突いてきたからだ。


「お、お嬢様、それは……代官の親族が経営しているダミー会社です。表向きは正当な入札が行われたことになっていますが、全ては代官が私腹を肥やすためでして……っ」


「形式上の書類だけ整えて、中身はザル。前世の──いえ、王宮でもよく見た手口ですわ。私を舐めるのも大概にしてほしいものですわね」

クリスティアの冷ややかな笑みに、ヴィンスは背筋を凍らせた。


「ヴィンス、明日までにこの数字の不整合を全て整理し、リストアップしなさい。法的に彼らを追い詰める告発状の準備をしますわよ」


「あ、明日……!? で、ですがお嬢様、そんなことをすれば代官の私兵や息のかかった者たちが、物理的な妨害に出るに決まっています! 証拠の裏帳簿だって、厳重な隠し金庫の中に──」


「オーホッホ! 邪魔な障害物ゴミは、私が掃除して差し上げますわ」

クリスティアが高らかに笑うと、背後の窓から音もなく一人の男が舞い降りた。


「お嬢、お呼びかな」

銀髪を無造作に縛り、長剣を腰に帯びた男、ルシアンだった。

元・裏社会の「掃除屋」であり、クリスティアが王都から自分の専属護衛として連れてきた、最強の武力枠である。


「ルシアン。今夜、代官の屋敷に『不法侵入』して、隠し金庫から本物の裏帳簿を回収してきなさい。ついでに、夜逃げされないように代官の足の腱でも切っておいて構いませんわ」


「合点承知だ。お嬢の命令とありゃ、地獄の果てまで掃除してやるよ。俺ぁ、お嬢のその容赦のないところが大好きなんでね」


ニヤリと凶悪な笑みを浮かべるルシアンを見て、ヴィンスは「ひぃっ」と短い悲鳴を上げて胃の辺りを押さえた。


「お、お嬢様! 証拠能力が問われます! いくらなんでも非合法すぎます!」

「寝言は寝てから言いなさいヴィンス。寝不足は美容の敵ですが、ホワイトなスローライフを手に入れるためには、多少の血と涙(※悪人のみ)は必要な犠牲ですわ!」

(私の定時退社とスローライフを邪魔する奴は、たとえ神様でもリストラ(物理)してやるんだから!)



こうして、悪役令嬢(中身は元社畜)と、胃弱な法務担当(文官)、そして冷酷な実行部隊(暗殺者)による、「ブラック領地・血のホワイト化計画」の幕が上がったのだった。


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