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悪役令嬢のスローライフ計画! 〜実家がまさかのブラック領地だったので、物理(魔法)とM&Aで国ごとホワイト企業に作り替えました〜  作者: 仁科異邦


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閑話 第一騎士団、ホワイトの光に屈する


王都を守護する最強の盾、第一騎士団。

その団長であるレオンハルトは、かつてないほどの『危機』に直面していた。


ただし、それは魔物の大群でもなければ、隣国からの侵攻でもなかった。


「……信じられん。これが、人の食うメシか」

ローズウッド領、騎士団専用宿舎の食堂。


レオンハルトの目の前に置かれたのは、湯気を立てる厚切りのローストビーフ、採れたて野菜の具沢山スープ、そして白く輝く焼き立てのパンだった。


数週間前まで、王都で「靴の裏より硬い乾パン」を齧り、薄めた塩水のようなスープを啜りながら三徹していた彼らにとって、それはもはや神の供物に見えた。


「団長、失礼します! 本日の『福利厚生枠』、スパ&リゾートの入浴許可証を拝領してまいりました!」


部下の騎士が、まるで国家機密の重要書類でも扱うような手つきで、一枚のチケットを差し出してきた。

彼の顔は、王都にいた頃の土気色が嘘のように消え去り、今やツヤツヤと輝いている。


「……そうか。本日の警備任務に落ち度はなかったな?」

「はっ! 街道の魔物はルシアン殿が九割方片付けてくださったので、我々は荷馬車の車輪が泥にハマるのを防ぐ『物理的なレッカー作業』に従事いたしました!」


「よし。……行くぞ、野郎ども。定時退社ミッション・コンプリートだ」

「「「おおおおおっ!!」」」

屈強な騎士たちが、戦場へ向かうよりも遥かに凄まじい気迫で、温泉へと向かって駆け出していった。


彼らはもはや、王宮直属の精鋭ではない。

クリスティアという名の「ホワイトな神」に魂を売った、ローズウッド・グループの『専属セキュリティ・スタッフ』であった。


一方、その頃。領主邸の会議室。

そこでは、クリスティアによる「第一騎士団・接客マナー研修」が行われていた。


「いいですわね、貴方たち。これからはただ強ければいいという時代ではありませんわ」

クリスティアは扇子をビシッと黒板(石板)に叩きつけた。


「我が領の物流を支えるエスコート部隊は、領民や観光客にとって『安心の象徴』でなければなりません。魔物を切り捨てた後、返り血を浴びたままの顔で『死にたい奴は前に出ろ』などと宣うのは、コンプライアンス違反ですわよ!」


「……し、しかし伯爵閣下。我らは戦士であって、愛想を振りまくのは……」

一人の騎士が恐る恐る挙手する。


「オーホッホ! 勘違いしないでちょうだい! 貴方たちのその鍛え上げられた筋肉と威圧感は、我がグループの『ブランドイメージ』そのものですのよ! 笑顔で『本日も安全運転で失礼します』と言いなさい。それができない者は、明日のフルーツ牛乳の支給を停止しますわ!」


「「「本日も安全運転で失礼します!!」」」

五十人の精鋭騎士たちが、地鳴りのような声で接客用語を復唱した。


その光景を、部屋の隅でヴィンスとリリィが温かい(あるいは引き気味の)目で見守っていた。


「クリスティア様……。あの誇り高き第一騎士団を、わずか数日で『笑顔で挨拶ができる屈強な運送員』に作り替えてしまうなんて。やはり、教育の天才ですね」


リリィが感極まった様子でメモを取る。

「リリィ君、あれは教育というより……『衣食住を握られた人間の、生存本能に基づく順応』と言ったほうが正しいですよ」


ヴィンスが胃の辺りを押さえながら、冷静にツッコミを入れた。


その夜。

温泉リゾートの巨大露天風呂では、レオンハルト団長が月を見上げながら、だらしなく顔を綻ばせていた。


「……天国だ。ここには、終わらない書類の山も、王子の理不尽な怒号もない……。ただ、温かい湯と、明日への希望があるだけだ」

「おいおい、団長サマ。そんなに骨抜きになっていいのかよ」

湯けむりの向こうから、ルシアンが冷えたフルーツ牛乳の瓶を持って現れた。


彼はクリスティアの右腕として、この騎士団の「実技指導(という名の大掃除)」を任されている。

「ルシアンか。……貴殿の主、クリスティア伯爵は、一体何者なのだ。あの御仁の指示に従っていると、なぜか全ての業務が恐ろしいほど効率化され、余った時間で飯が旨くなる」


「ハッ、そりゃあ『お嬢』は元・地獄ブラックの生き残りだからな。地獄を効率的に潰して、自分だけがラクをする方法を誰よりも知ってるのさ」


ルシアンは瓶の蓋を指で弾き飛ばし、一気に飲み干した。

「ま、あんたらにとっても、王都で干からびるよりは、ここで牛車トラックの護衛をしながら温泉に浸かってるほうが、よっぽど『人間らしい生活』だろ?」


「……否定できんのが、悔しいところだな」

レオンハルトは、心地よい湯の熱に身を任せ、静かに目を閉じた。


彼らの心の中からは、もはや「王都に帰りたい」という文字は完全に消滅していた。

むしろ、「どうすればこの『期間限定出向契約』を『無期限雇用』に切り替えてもらえるか」という、高度なキャリアプランの構築に思考が割かれていた。



その頃、王都の第一王子執務室。

「……レオンハルトたちは、まだ戻らないのか!? クリスティアを捕縛して、食糧を持ってくるだけの任務に、一体何日かかっているんだ!」


エドワード第一王子は、山積みの未決裁書類(さらに高さが増している)の前で、狂ったように叫んだ。


彼の手元には、数日前にレオンハルトから届いた『中間報告書』が握られている。


『現在、ローズウッド領にて敵情視察(温泉巡り)ならびに、物流拠点の防衛実地訓練(荷馬車の護衛)に従事中。

なお、現地の食糧事情は極めて良好であり、我々も「健康的な肉体管理」の重要性を再認識している。帰還時期は……未定である』


「健康的な肉体管理だと……!? ふざけるな、俺はこんなに不健康ボロボロなのに!!」

エドワードの絶叫に答える者はいない。


有能な婚約者を追い出し、有能なヒロインに逃げられ、最強の騎士団をホワイトの光で「寝返らせて」しまったポンコツ王子。


彼の周りにあるのは、もはや「締め切り」という名の絶望的な沈黙だけであった。

(よし、これで 騎士団の皆さんも、すっかりクリスティア教の信者になりましたわね。オーホッホッホ!)


領主邸のバルコニーで、クリスティアは遠く王都の空を見つめ、高らかに勝利の笑みを浮かべるのであった。


もちろん、翌日の「定時スローライフ」を守るために。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

面白いと思われた方は是非評価の程よろしくお願いします。

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