府中の悪夢を撃て! ジャパンカップ、白い翼との再会
第34話:府中の悪夢を撃て! ジャパンカップ、白い翼との再会
十一月下旬、東京サーキット。
世界から強豪が集う国際G1、ジャパンカップ。パドックに漂う緊張感は、これまでのどのレースとも違っていた。
観衆の視線は、二機の「白と黒」に注がれている。
三千二百と一千六百を制し、距離の概念を破壊した日本の「変異体」ウラヌス2。そして、フランスから凱旋した、白銀の芸術品。
「――久しぶりだね、マモル。君が『直して』戻ってくるのを、信じていたよ」
ホワイトヴァルキリーのハッチから、ミルコ・スミスが優雅に微笑みかけた。一年前、この場所でウラヌスを完膚なきまでに叩き潰した男。その瞳には、侮蔑ではなく、対等な強者への純粋な「悦び」が宿っていた。
「……ミルコ。あんたに負けたあの日から、俺はこの瞬間のために、ウラヌス2を組み上げてきたんだ」
守は、ウラヌス2の黒鉄のシートに深く腰を下ろした。窓の外に見える、府中の巨大なターフ。あの日、火花を散らして崩れ落ち、夢がバラバラになった場所。
「凛。……行けるか」
「当たり前でしょ。あんたの背中、ウラヌス2の装甲、私が世界一の強度に仕上げてあるわ。……粉々になるのは、あっちの白い方よ!」
『――ジャパンカップ、今スタート! ……速い、速すぎる! ミルコ・スミスのホワイトヴァルキリー、一ミリの無駄もない加速で好位を確保!』
ゲートが開いた瞬間、守は再び「本物」を突きつけられた。
ホワイトヴァルキリーの動きは、もはや「走る」というより「滑る」に近い。空気抵抗を完璧に遮断した姿勢制御。日本のどの快速機よりも速く、それでいて音もなく、ミルコはレースの主導権を支配した。
ウラヌス2は、その直後にぴたりと張り付く。
ミルコが切り裂いた空気の跡――「真空の道」を奪い取り、ハイセイコー型エンジンの重厚なトルクで強引に追走する。
「……去年とは違う。機体の重心が、全くぶれていないね」
バックミラー越しに守を見つめ、ミルコが感嘆の声を漏らす。
泥臭い、不格好な機体。だが、その一歩一歩が、大地のエネルギーを全て推進力に変えている。ガラクタだった怪物は今、世界最高峰の芸術品と「同じ次元」で並走していた。
第四コーナーを回り、府中の長い、長い直線。五百二十五メートルの、真実の坂が待ち受ける。
「――サァ、マモル。ロンシャンの風を見せてあげよう!」
ホワイトヴァルキリーが、白銀の放熱フィンを翼のように広げた。超高効率の電磁モーターが、キィィィィンと天を突くような高音を鳴らす。一瞬で加速のギアが上がり、白い残像となって守を引き離しにかかる。
「逃がすかぁぁぁ!! 凛、プレッシャー・ブースト全開!!」
「ブースト圧、最大! ピストン、焼き切れるまで回しなさい!!」
ドゴォォォォンッ!!
ウラヌス2の背部から、真っ赤なアフターバーナーの炎が噴き出した。重戦車のパワーを、そのまま直線スピードへと無理やり変換する。
去年、装甲が弾け飛んだ地点を通過する。一瞬、右脚のサーボモーターが震えた気がした。だが、守の脳裏には凛がオイルまみれで磨き上げたボルトの輝きが浮かぶ。
「……壊れない。今のウラヌスは、絶対に壊れないッ!!」
残り二百メートル。
白銀の芸術品と、黒鉄の怪物。二機が後続を十馬身以上引き離し、文字通り「二機だけの世界」で火花を散らした。
ガリッ!! と、金属の接触音が響く。
ミルコの精密な進路取りに、守は「地力」で割り込む。一ミリも譲らない。一秒も引かない。去年のジャパンカップで止まった時計が、今、猛烈な勢いで動き出していた。
「ミルコォォォ!! 世界へ行くのは、俺たちだぁぁぁ!!」
「来い、マモル!! この瞬間のために、僕は日本へ来たんだ!!」
冬の府中の空を、白と黒の光が切り裂く。
エンジンの絶叫とモーターの鳴動が重なり、一つの銀河となる。
二機の鼻先が、全く同時に、ゴール板へと飛び込んだ――!!




