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からくり競馬  作者: 水前寺鯉太郎
銀河の舞踏(ワルツ) 〜世界を駆ける、泥のステップ〜

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33/40

二階建ての怪物! 淀の奇跡、マイルの女王を射落とせ

第33話:二階建ての怪物! 淀の奇跡、マイルの女王を射落とせ


京都サーキットの巨大モニターに、確定の文字が踊る。

【一着:ウラヌス2】

【二着:ウエストリカー(ハナ差)】

 その瞬間、スタンドを埋め尽くした観衆の叫びは、歓声というよりは「悲鳴」に近かった。

 三千二百メートルの王者が、一千六百メートルの女王を、その「聖域」でねじ伏せた。あり得ない。物理法則が、からくり競馬の常識が、今、黒鉄の蹄によって粉砕されたのだ。

「……嘘。……嘘でしょ、これ」

 ウエストリカーのカクピットで、須崎渚は呆然とモニターを見つめていた。

 完璧だった。スタートから道中の折り合い、そして直線での弾けるような末脚。すべてが「マイルの女王」としての理想の計算値だった。

 なのに、最後の一歩。

 外から、死に物狂いで泥を撥ね上げ、装甲を軋ませ、文字通り「命を削るような咆哮」を上げて突っ込んできた不格好な影に、私の最適解が、鼻先一ミリでさらわれた。

「……渚」

 横に並んだウラヌス2のハッチが開き、守が顔を出した。

 その顔は、極限の同調リンクによるオーバーロードで真っ白になり、鼻からは一筋の血が流れていた。

「……言ったろ。最強を名乗るなら、距離なんて関係ないって」

「……バカ。あんた、本当にバカよ……! 私のマイルが……こんなガラクタに……っ!!」

 渚は、ハンドルを握る拳を震わせ、悔し涙をボロボロと零した。負けたのだ。自分の聖域で、専門外の男に。計算式をすべて力ずくで破綻させる、その「執念」だけに。

◆ 第一節 ガラクタの証明

 パドックへと戻るウラヌス2の足取りは、もはや満身創痍だった。

 マイルの超高速回転に耐え抜いたハイセイコー型エンジンからは、真っ黒な煙が上がり、熱で歪んだサイドの冷却パネルがチリチリと断末魔を上げている。

「守! すぐにリンクを切って! 脳波のフィードバックが危険域レッドラインよ!」

 ピットから駆け寄ってきた凛が、叫びながら外部ハッチをこじ開ける。守は凛の肩を借りて機体から降りると、地面に膝をついた。

「……凛。見たか……。ウラヌス2は、速かったろ……」

「ええ、ええ! 速かったわよ、世界一のバカ速さだったわよ!!」

 凛は怒鳴りながらも、その手は優しく守の背中を叩いていた。

 三千二百メートルを勝つ持久力スタミナの上に、一千六百メートルを差し切る瞬発力を無理やり増築した「二階建ての心臓」。

 それを両立させたのは、最新のAIでも、高級なパーツでもない。広島のガレージで、廃材を弄り、オイルにまみれ、ただひたすらに「もっと先へ」と願い続けた二人の、そしてウラヌス2の**「地力の執念」**だった。

◆ 第二節 世界からの咆哮

 その日の夜。

 祝杯を挙げる間もなく、広島のガレージに戻った彼らの元に、一通の暗号化された電子メールが届いた。

 差出人は、フランス・ロンシャン。

『――拝啓、日本の怪物。

 春の盾を獲り、秋のマイルをも飲み込んだ君たちの走りは、海を越えてパリの空まで届いている。

 準備はいいか。ロンシャンのターフは、君たちが知る「庭」とは違う。名馬の脚を飲み込み、夢を砕く底なしの泥だ。世界最高峰の芸術品たちが、君という「泥だらけの侵略者」を待っている。』

 メールの最後には、ミルコ・スミス、そしてあの白銀の機体ホワイトヴァルキリーのエンブレムが添えられていた。

「……来たわね。凱旋門賞への、正式招待状よ」

 凛が、モニターを指さした。守は、その画面を見つめ、静かに、だが熱く拳を握りしめた。

「ああ。……待ってろよ、ミルコ。世界中のエリートたちを、俺たちのガラクタの足で、まとめて踏み荒らしてやる!」

 二〇五一年、冬。

 日本の全ての因縁を断ち切り、怪物はついに、世界ロンシャンへとその翼を広げる――。

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