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からくり競馬  作者: 水前寺鯉太郎
銀河の舞踏(ワルツ) 〜世界を駆ける、泥のステップ〜

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一分三十秒の銀河! マイルCS、女王と怪物の再会  秋、十一月の京都サーキット

第32話:一分三十秒の銀河! マイルCS、女王と怪物の再会


 伝統のマイル王決定戦、マイルチャンピオンシップ。一分三十秒の間にすべてを燃やし尽くす、電撃の銀河。

 淀の三千二百メートルを制した「盾の王者」が、再びこのターフに現れた。

 ウラヌス2。

 その巨体は、春よりもさらに絞り込まれ、一秒を争う電撃戦に対応するための「瞬間冷却システム」が、サイドポンツーンから鋭い高周波の排気音を鳴らしている。

「……三千二百を勝った後に、一千六百に来るなんて。あんた、本当にバカね、守」

 パドックで隣に並んだのは、須崎渚の《ウエストリカー》だ。

 重厚ながらも一切の無駄を削ぎ落とした、マイルの芸術品。

「褒め言葉として受け取っておくよ、渚。……でも、世界フランスへ行く前に、このスピードの激流を切り裂いておかないと、納得がいかないんだ」

「ふん、言うわね。……でも、ここは私の庭よ。一分三十秒の間、あんたに私の影さえ踏ませないから!!」


『――マイル王決定戦、今スタート! ……ジェットボーイ、やはり速い! 今井優太がハナを奪って、一気にマイルの殺人的なラップに持ち込む!』

 ゲートが開いた瞬間、空気の密度が変わった。

 長距離戦のような優雅な牽制けんせい微塵みじんもない。今井のジェットボーイが、光の矢となって淀の三コーナーへと消えていく。その後ろを、スカーレットノヴァとウエストリカーが、火花を散らすような超高速ピッチで追走する。

 ウラヌス2は、中団。

 いや、マイルのスペシャリストたちの「ゼロ発進」の瞬発力に、一瞬だけ後手を踏んだ!

(……速いッ! 瞬き一つが、致命的な遅れになるのか……!)

 守は、ウラヌス2のメインコンソールを必死に叩いた。

 長距離用の重厚なピストンが、マイルの超高速回転に追いつこうとして、オーバーヒート寸前の悲鳴を上げる。

「凛! 『プレッシャー・ブースト』を、スプリント・モードに切り替えろ!!」

「無茶言わないで! 圧縮比が限界よ、エンジンが粉砕するわ! ……でも、あんたがやると言ったらやるしかないわね。リミッター解除、一〇秒間だけよ!!」


 第四コーナー。京都の平坦な直線。

 逃げ粘るジェットボーイを、最内からウエストリカーが、剃刀かみそりのような瞬発力で射抜く。

「――これが、私のマイルよ!!」

 渚の絶叫と共に、ウエストリカーが漆黒の旋風となって、先頭へと躍り出た。その加速、まさに女王。一千六百メートルのためにすべてを削ぎ落とした、究極の機能美。

 だが、その背後に、場違いな「地響き」を伴う重低音が迫る。

 ドゴォォォォンッ!!

 ウラヌス2の排気口から、黒煙を突き破って、青白いアフターバーナーが噴き出した!

 長距離走者の無尽蔵のスタミナを、強引に「爆発的推力」へと変換する、禁忌のブースト。

「……嘘でしょ、あの重戦車が、マイルのトップスピードに食らいついてくるなんて!」

 渚がバックミラーを見て、目を見開く。

 大外から、泥と熱風を撒き散らし、衝撃波で大気を震わせながら、黒鉄の怪物が一歩、また一歩と、女王の領域を力ずくで侵食していく。


 残り百メートル。

 内からウエストリカー、外からウラヌス2。

 そして、その二機の間を縫うように、山県裕次郎のシュバルツジャーニーが、ワープするような極小ピッチで強襲してくる!

「――日本のマイル王の座、ガラクタに渡すわけにはいかないわ!!」

「――最強を名乗るなら、距離なんて関係ない!! 行けぇ、ウラヌス2!!」

 京都の短い直線。

 マイルの女王の意地と、盾を獲った怪物の執念。

 一分三十秒の銀河を切り裂いて、三機の機体が互いの装甲を火花で焼きながら、一団となってゴール板へと雪崩れ込んだ!!

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