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からくり競馬  作者: 水前寺鯉太郎
銀河の舞踏(ワルツ) 〜世界を駆ける、泥のステップ〜

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黄金の不沈艦! 仁川に吼える、一九九九メートルの境界線

第31話:黄金の不沈艦! 仁川に吼える、一九九九メートルの境界線


 六月、阪神サーキット。

 春のグランプリ、宝塚記念。距離、二千二百メートル。

 天皇賞・春を制し、日本のからくり競馬の頂点に立った守とウラヌス2。

 パリへの世界遠征を前に、壮行レースとして選んだこの舞台で、パドックを埋め尽くす十万人の観衆は、一機の「黄金の問題児」に釘付けになっていた。

「――おいおい、何だあの金色の機体は。真っ直ぐ歩いてないぞ!」

 観客が指さす先。

 特殊耐熱合金の、歪な金色に輝くフレームを持つ機体、ステイストライク。

 パドックの誘導線を無視し、カニ歩きのような不気味なステップを踏み、時折、背後の他機に向かって排気音の威嚇いかくを浴びせている。ハッチから顔を出している操縦者の山県昌太郎は、あくびを噛み殺しながら、重力に逆らうように逆立った髪を掻いていた。

「……あれが、裕次郎さんの弟、昌太郎の機体か」

 ウラヌス2のカクピットで、守は息を呑んだ。

 兄のシュバルツジャーニーのような冷徹な殺気はない。だが、底が知れない。からくり馬としての「最適解」をあざ笑うような、ネジの外れた、狂気的なまでの「自由」をそのフレームから感じるのだ。

「気をつけなさいよ、守」

 無線から、凛の呆れたような、それでいて警戒を解かない声。

「あの機体のAI、通常の演算システムをバイパスして、ジョッキーの生体脳波をダイレクトに足回りに直結させてるわ。熱効率もクソもない、ただ『走りたい時に、走りたいだけ走る』。物理法則のバグそのものよ。二千メートルを過ぎたあたりで、そのバグが『正気』に戻るか『狂気』に加速するか……誰にも予測できないわ」

「……物理法則のバグか。面白そうじゃないか、凛!」

『――春のグランプリ宝塚記念! ……おっと、大外のステイストライク、ゲート入りを嫌がって係員を蹴散らしている! 五人がかりで押し込んで、ようやく……今、ゲートが開いた!』

 ガツン! と電磁ゲートが開く。

 好スタートを切ったのは、やはり快速機たちだ。

 ウラヌス2は、前回の大阪杯の経験を活かし、中団の好位。ハイセイコー型エンジンを低く唸らせ、淀みのない完璧なラップを刻む。

 だが、最後方。

 金色のステイストライクは、スタート直後から、まるでやる気がないように一機だけ立ち止まりそうになりながら、ぽつんと置かれていた。

「ハハ、今日も機嫌が悪いね、ストライク。……でも、いいよ。ここからなら、みんなの背中が、よく見えるからさ」

 昌太郎は、目を細めて笑った。

 一千メートル、一千五百メートル。レースが第三コーナーの勝負所に差し掛かっても、ステイストライクは最後方のまま動かない。観客席から「ステイ、何やってるんだ!」と野次が飛ぶ。

 だが。

 阪神の第四コーナー。距離にして、ちょうど「一九九九メートル」を消化しようとした、その刹那だった。


「――さあ、境界線を超えたよ。……お前の、大好きな時間だ。踊ろうぜ、ストライク!」

 昌太郎の脳波が、一〇〇パーセント、ダイレクトにステイストライクの内燃機関へと叩き込まれた。

 キィィィィンッ!!! という、鼓膜を引き裂くようなロータリーエンジンの超高周波。

 これまで死んだように眠っていた金色の機体が、突如として、猛獣の目覚めのような禍々しい赤い光をメインカメラに放った。

「な……ッ!?」

 先行する機体のジョッキーたちが、バックミラーを見て絶句した。

 最後方にいたはずの金色の影が、物理的な助走距離を無視し、大外から一陣の金色の竜巻となって弾け飛んだのだ。

「嘘……! 加速の演算、物理的限界値を突破してるわ! 一瞬でトップスピードを超えてる!?」

 無線から、凛の悲鳴。

 大外から、真空を切り裂くような速度で、快速機たちを次々とゴミのように置き去りにしていく。「黄金の暴走ゴールド・ラッシュ」!


 残り百メートル。阪神の急坂。

 先行して粘るウラヌス2の真横に、突如として、激しく火花を散らす金色の歪なフレームが並びかけた。

「――西守くん! 日本の三冠馬の力、僕のストライクと、どっちが『壊れてる』か、試してみようよ!」

 昌太郎の、初めて見せる、歯を剥き出しにした狂気の笑み。

 接触。ガキン、ガキンと、金色のフレームと黒鉄の装甲が火花を散らす。

 AIの計算も、効率も、データの辻褄も、すべてをあざ笑うように、ただ「前へ、一歩でも前へ」と脚を弾ませる、小さな金色の機体。

 守は、その姿に、激しい恐怖と共に、どうしようもない「敬意」と「愛着」を抱いていた。

(不格好で、言うことを聞かなくて、でも、最後の直線にすべてを懸けて、小さな身体を力いっぱい弾ませている……!)

「ウラヌス2!! 負けるな、俺たちの、ガラクタの意地を見せてやれ!!」

 ドゴォォォォンッ!!

 ウラヌス2のハイセイコー型エンジンが、最大過給で吼えた。

 泥臭い黒鉄の怪物と、計算をあざ笑う黄金の破壊獣。

 二つの、歪で、美しきバグ機体が、阪神の坂の上で、互いの装甲を削り合いながら最後の直線を捩じり合う!!

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