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からくり競馬  作者: 水前寺鯉太郎
銀河の舞踏(ワルツ) 〜世界を駆ける、泥のステップ〜

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王者の咆哮! 淀の空に響く、錆びた怪物の歌(後編・写真判定)

第29話:王者の咆哮! 淀の空に響く、錆びた怪物の歌(後編・写真判定)


 

 京都サーキットを埋め尽くす十万人の観衆が、ただただ、電子判定板の一点を見つめていた。

 十八機。

 日本全国から集結した、からくり競馬の歴史のすべて。

 そのすべての機体が、ボロボロになり、火花を散らし、オイルを漏らしながら、限界を超えた同調リンクの果てに、一丸となってゴール板を駆け抜けたのだ。

 ウラヌス2のカクピット。

 守は、両手を膝に置いたまま、動けずにいた。

 全身の血管が沸騰するような同調の熱が、じわじわと冷めていく。ウラヌス2のハイセイコー型エンジンが、限界を超えた過給の果てに、チリチリと金属の冷却音を立てていた。

『……守。大丈夫?』

 無線から、凛の震える声が響く。

 ピットで見守る凛、そしてドバイから凱旋した北斗茜。すべてのメカニック、すべてのファンが、祈るように電光掲示板を見つめていた。

「……ああ。ウラヌス2は、最後まで、最高に走ってくれたよ、凛」

 守は、煤けたウラヌス2のメインコンソールに、そっと手を添えた。

 負けても、勝っても、悔いはない。大阪杯の激闘から一ヶ月。三千二百メートルの長距離の罠を、この錆びついた機体と一緒に、全力で突破したのだから。

 隣には、同じように白煙を吹く《ブラックライス》の米田太一。

 さらにその隣には、《シュバルツジャーニー》の山県裕次郎、桜色の《ブライトホーク》の桜本うらら。

 誰も喋らない。ただ、三千二百mを戦い抜いた互いの愛機に、深い敬意リスペクトを抱きながら、判定の瞬間を待っていた。


 電光掲示板の『写真判定』の文字が、激しく点滅する。

 十万人の観衆が、息を呑んだ。

 カシャッ、という静かな電子シャッター音と共に、上位数機の鼻先が超拡大された静止画が、スタジアムの巨大モニターに映し出される。

 ウラヌス2の、不格好な、泥だらけの黒鉄のノーズ。

 ブラックライスの、洗練された漆黒の耐熱特殊装甲。

 ブライトホークの、桜色のバイザー。

 シュバルツジャーニーの、カーボンフレーム。

 複数の機体の最前線のピクセルが、赤い判定ラインの上に、一ミリの狂いもなく重なり合っている。

 一秒、二秒。スタジアムの時が止まる。

 超精密画像解析が、一ピクセル単位の差を検出し、ライン上の色彩を識別していく。

 そして。文字が、カチカチと音を立てて切り替わった。

『――一着、ウラヌス2!』

 ワァァァァァァッ!!

 スタジアムの天蓋が吹き飛ぶような、大爆発の歓声が淀の空を揺らした。

「やった……やったわ、守! 天皇賞、春の盾を獲ったのよ!!」

 無線から、凛の泣き笑いの絶叫が鼓膜を震わせる。

「……勝った。俺たちが、春の盾の王者だ!」

 守は、熱いものがこみ上げてくるのを堪えきれず、カクピットの中で拳を天へと突き上げた。

 ドガァァァァンッ!!

 ウラヌス2が、勝利の咆哮を上げた。排気ダクトから火花混じりの黒煙を夜空へと豪快にブチ上げる。電子的な美しいファンファーレではない、地べたから這い上がってきた錆びついた怪物の、泥臭い勝利の歌だ。


 熱狂の中、ウラヌス2はパドックへと凱旋した。

 そこには、うらら、太一、裕次郎、そして岡部や優太、すべてのライバルたちが機体から降りて待っていた。

「参ったよ、守くん。淀の三千二百メートルで、僕のブラックライスを真っ向から力技でねじ伏せるなんてね」

 米田太一が、いつものおっとりした笑顔で拍手を送る。

「ウラヌス2、本当に怖かった! でも、すっごく格好良かったよー!」

 桜本うららが、ツインテールを揺らしながら無邪気に笑う。

 守は、ライバルたち一人一人と、ガッチリと握手を交わした。

 日本の頂点。泥の底から、ついにここまで辿り着いたのだ。

 だが、その誰もが笑顔に包まれるパドックの光の陰で。

 凛の持つ解析端末に、一通の正体不明のログが、音もなくロードされていた。

【――警告。ウラヌス2、深層基盤:アルティメット・バロン。プロトコル、フェーズ3へ移行。世界サーバーへのアクセスを開始します】

「……え? 何これ、親父の遺した隠しファイルが……勝手に開いてる?」

 凛が端末を見つめ、顔面を蒼白にさせたのだった。

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