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からくり競馬  作者: 水前寺鯉太郎
銀河の舞踏(ワルツ) 〜世界を駆ける、泥のステップ〜

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淀の盾、全員集結! 三二〇〇メートルの銀河

第二十八話:淀の盾、全員集結! 三二〇〇メートルの銀河


 二〇五一年、五月。京都サーキット。

 伝統の国際G1、天皇賞・春。距離、三千二百メートル。

 大阪杯の写真判定を乗り越え、内をワープしたシュバルツジャーニーと、外から地力でねじ伏せに行ったウラヌス2の肉弾戦は、写真判定の末、ウラヌス2が「鼻差」で勝利をもぎ取っていた。地力トルクで、超高速ピッチをねじ伏せたのだ。

 だが、その勝利の余韻に浸る暇はない。

 パドックに並ぶ十八機の熱気が、淀の空気を十度も引き上げているかのように錯覚させる。

「……壮観ね。からくり競馬の、日本の歴史のすべてが、ここに集まっているわ」

 ピットエリアで、凛がモニターを見つめながら呟いた。

 隣には、ドバイから世界一の称号を提げて凱旋したばかりの北斗茜の姿もある。車輪を再び強靭な四肢へと戻し、真の砂漠の女王の威厳を纏った《ノースベガ》。

 そして。

 守のウラヌス2の左右には、漆黒の《ブラックライス》の米田太一、桜色の《ブライトホーク》の桜本うらら、そして青き光の《ジェットボーイ》を駆る今井優太。

 さらには大竹野姉妹、岡部太陽、御厨兄弟に須崎姉妹、安藤亮平まで。

 かつて地方の泥の中で削り合い、お互いの装甲を火花で焼き合ってきたジョッキーたちが、一言も喋らず、ただ静かに、互いの「魂(からくり馬)」の鼓動を聴き合っていた。

「――お前たち全員を、まとめてねじ伏せて、俺が真の『盾の覇者』になる」

 守は、ウラヌス2のメインコンソールを握りしめた。

 初代から続く、ガラクタの星の旅路。ジャパンカップの敗北、有馬記念の挫折、ドバイの朗報、そして大阪杯の執念。

 そのすべてのドラマが、ウラヌス2のハイセイコー型エンジンの中で、静かに、そして烈火のごとく燃え上がっている。

『――伝統の春の盾! 今、ゲートが開いた!』

 ガツン! と十八枚の電磁ゲートが一斉に開いた。

 三千二百メートルという、超長距離の迷宮。

 真っ先に飛び出したのは、ジェットボーイとブライトホークの快速機二機だ。しかし、今回はいつものハイペースではない。三千二百メートルを走り切るための、計算され尽くした「静かなる超高速巡航」。

 その後ろを、シュバルツルドルフ、ウエストリカー、スカーレットノヴァがガッチリとマークする。ウラヌス2は、馬群のど真ん中。

 そのすぐ後ろに、漆黒の刺客ブラックライスと、沈黙の長距離ハンター・グリーンクロウが、鎌を研ぐ死神のように張り付いている。

 一千メートル、二千メートル。

 京都の淀の坂を二度登り、二度下る。

 超高速の風圧の壁の中で、各機の排気音だけがハミングのように不気味に共鳴し、水温異常の警告アラートがコンソールに静かに明滅する。誰も仕掛けない。誰もミスをしない。一ミリの出力ミスが即座にオーバーヒート(死)を意味する、息の詰まるようなサスペンス!

 一度目の坂を越えた時、すでに安藤のフェザーダイクや、御厨兄弟の機体の冷却ファンが、激しい悲鳴を上げ始めていた。

「ハァ……ハァ……! なんだ、この息の詰まるような、静かな殺気は……!」

 御厨鉄雄が、コクピットの中で歯噛みする。日本の最高峰の十八機が、一糸乱れぬ超高速のラップを、三千二百メートルに渡って刻み続けている。

 二周目の第三コーナー。京都の淀の坂、二回目。

 ついに、限界が訪れた。

「――サァ、お仕事の時間だよ、ブラックライス」

 米田太一のブラックライスが、坂の上りで音もなくギアを上げた。

 周りの機体が、坂の重力に負けて呼吸を乱す中、ブラックライスだけが重力と完全に同期し、下り坂の位置エネルギーをそのまま加速へと変換して坂を駆け下りる。菊花賞の悪夢の再臨!

「――流星の追撃メテオ・チェイス、点火!」

 さらに大竹野智美のテンジャックが、ジェットボーイの風の道を蹴り飛ばし、大外から一気にまくり上げる!

 坂を下り、最終直線、四百メートル。

 十八機の怪物たちが、一塊の巨大な「鋼鉄の津波」となって、京都の直線へと雪崩れ込んだ!

「う、おおおおおっ!!」

 守は、全身の血管が焼き切れるような同調リンクの熱に耐えながら、ウラヌス2のスロットルを押し込んだ。

 ハイセイコー型エンジンの、爆発的な重低音。

 内からブラックライス、外からテンジャックとグリーンクロウ。前には逃げるブライトホークとジェットボーイ、そして猛追するノースベガとシュバルツジャーニー!

 誰が勝ってもおかしくない。からくり競馬の、すべての歴史を凝縮したような、火花と黒煙、そして青白いアフターバーナーの銀河が、京都の直線を埋め尽くす!

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