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からくり競馬  作者: 水前寺鯉太郎
銀河の舞踏(ワルツ) 〜世界を駆ける、泥のステップ〜

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光速を喰らえ! 大阪杯、怪物VS漆黒の弾丸

第二十七話:光速を喰らえ! 大阪杯、怪物VS漆黒の弾丸


 四月、阪神サーキット。

 春の古馬中距離ナンバーワンを決める、国際G1大阪杯。距離、二千メートル。

 パドックには、有馬記念の覇者・桜本うららの《ブライトホーク》、光速の《ジェットボーイ》、そして復活の黒き皇帝シュバルツルドルフ。その錚々たるエリート機たちの中心で、ひときわ異彩を放つ「小柄な漆黒」が静止していた。

 機体名シュバルツジャーニー

 超軽量・超高剛性カーボンフレーム。他の大型機と比べると一回り小さい。だが、そのフレームの奥底からは、超小型パルスモーターが発する、まるで猛獣が唸っているかのような不気味な高周波が響いていた。

(……あれが、山県裕次郎のシュバルツジャーニー)

 ウラヌス2のカクピットで、守は息を呑んだ。

 ハッチから顔を出している裕次郎は、冷徹なまでに静かだ。だが、その静寂の奥底には、からくり馬のAIすら狂わせる、剥き出しの闘争本能が隠されている。

「気をつけなさいよ、守」

 無線から、凛の鋭い声。

「あの機体、超高回転ピッチ走法のバケモノよ。しかも、他機が接近するとAIが防衛本能で『攻撃的な威嚇挙動』を起こす。接触すれば、こっちのフレームもただじゃ済まないわ。……まさに、走る狂犬よ」

「……上等だ。俺たちのハイセイコー型エンジンも、大人しくお行儀よく走るつもりはないからな!」

『――春の仁川、中距離の頂上決戦! 大阪杯、今、ゲートが開いた!』

 ガツン! と電磁ゲートが開く。

 好スタートを切ったのは、やはりジェットボーイとブライトホークだ。二機がハイスピードでレースを引っ張り、一気に淀みのない高速ラップが刻まれる。

 ウラヌス2は中団の外目を追走。

 そして、その馬群の最内、大型機たちの足元を縫うように、漆黒の影が不気味に滑り込んでいた。

「――そこ、どけ」

 裕次郎の冷徹な呟きと共に、シュバルツジャーニーの超小型パルスモーターが限界回転数で火を吹いた。

 大型機同士が牽制し合い、一瞬だけ生まれた数十センチの隙間。

 シュバルツジャーニーは、ピストンが目視不可能なほどの超高頻度ピッチで脚を回転させ、物理的に通過不可能なその隙間にワープするように飛び込んだ。「一閃の黒点ブラック・ディメンション」!

「なっ、いつの間に内側に!? 接触する、危ない!」

 他機のジョッキーが悲鳴を上げる。

 シュバルツジャーニーのAIが、他機の接近を感知し、装甲を逆立てて威嚇プログラムを起動させたのだ。並走する機体のセンサーをジャミング・ノイズで狂わせ、恐怖心ごと力ずくで進路をこじ開ける狂気のイン突き!

(……とんでもない機動力だ。だけど、俺たちは外から行く!)

 守はウラヌス2の操縦桿をガッチリと握りしめた。

 阪神の内回り。第三コーナーから第四コーナー。短い最終直線が目前に迫る。

「凛! 『プレッシャー・ブースト』、解放しろ!!」

「わかってるわよ! 油圧シリンダー、緊急過給! フレームを軋ませてでも、ねじ伏せなさい!」

 ドゴォォォォンッ!!

 ウラヌス2の胸部から、火の粉混じりの黒煙が吹き上がった。

 ハイセイコー型エンジンに瞬間的な超高圧をかけ、トルクを倍増させる新機能。

 重戦車のような巨体が、急激なコーナーリングのG(遠心力)に軋む。守はすかさず、北海道の砂浜で培った「脱力いなし」をシンクロさせ、各関節の油圧をミリ秒単位で抜き、自壊の衝撃を逃がした。

 綺麗なスピードではない。大地を削り、泥を撒き散らしながら、内側の快速馬たちをまとめて地力ちからで圧殺しに行く、怪物のまくり進撃!

 残り二百メートル。阪神の急坂。

 逃げるジェットボーイ、追うブライトホーク。

 そこへ、外からウラヌス2が並びかけ、さらに内側のラチ沿いから、ワープしてきたシュバルツジャーニーが牙を剥いた!

「――無敗の三冠馬。その錆びた鉄屑、俺のジャーニーが噛み砕いてやる」

 裕次郎の瞳に、ついに剥き出しの猛獣の光が宿った。

 内からシュバルツジャーニー。外からウラヌス2。

 二機が、逃げる快速馬たちを坂の途中で抜き去り、急坂の上で一線に並びかけた。

 ガキンッ!! と、凄まじい火花と共に、金属の激突音がサーキットに響く。

 ウラヌス2の廃材装甲と、シュバルツジャーニーのカーボンフレームが、時速数百キロの領域で接触したのだ。

「う、おおおおおっ……!!」

 ジャーニーの威嚇プログラムが作動し、ウラヌス2の自動姿勢制御システム(ジャイロ)に強烈なノイズが走る。システムが「転倒」を誤認し、機体が大きく右に傾ぐ。

(AIの姿勢制御が狂わされたなら――マニュアル(手動)で立て直すだけだ!)

 守はAIのジャイロを強制遮断。ニューラルリンクの接続端子が熱で焼き切れるほどの負荷を無視し、自らの三半規管と同調させて、力ずくでウラヌス2の巨体を正面へと引き戻した!

(お前の狂気が猛獣なら、俺たちの執念は、地べたから這い上がってきた怪物だ!! 弾き飛ばされて、たまるかぁぁ!!)

 ウラヌス2の排気口から、黒煙が爆発的に噴き上がった。

 小柄な漆黒の弾丸と、黒鉄の怪物が、火花を散らし、互いの装甲を物理的に削り合いながら、最終ゴール板へと雪崩れ込んだ!

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