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からくり競馬  作者: 水前寺鯉太郎
銀河の舞踏(ワルツ) 〜世界を駆ける、泥のステップ〜

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「砂塵の女王、ドバイへ! 星の降る夜の誓い」

 第24話:砂塵の女王、ドバイへ! 星の降る夜の誓い


二〇五一年、三月。

 ウラヌス2が大阪杯に向けて、スピードの限界を突破するプログラムを煮詰めていた、その頃。

 広島の造船所近くにある守のガレージに、一台の大型トランスポーターが止まった。

「――よっ。西、凛。ちょっと、挨拶に来たわよ」

 真っ赤なライダースジャケットを羽織り、不敵に笑うのは、日本のダートの絶対女王・北斗茜ほくと・あかねだ。

 その背後には、重厚な砂塵用装甲を纏った愛機ノースベガが、搬送用のシールドポッドに静かに収まっていた。

「茜さん……。その重装備、まさか」

「うん。招待状が届いたのよ。……世界最高峰のダートレース、ドバイワールドカップ」

 中東、ドバイ。

 かつて、多くの日本の名馬たちが挑み、世界の砂に跳ね返され、そして……悲劇の舞台となった、砂漠の魔境。

「……行くのね、茜。ドバイのダートは、日本のサラサラした海砂とは粘土質も重さも違う。前の馬が跳ね上げるキックバック(砂塊)は、装甲を凹ませるほどの弾丸になるわ。それに、あそこは……」

 凛の言葉が、僅かに詰まる。

「あはは、何よ、二人してそんな暗い顔しちゃって!」

 茜はあっけらかんと笑い、守の肩をバシバシと叩いた。

「わかってるわよ。私のノースベガのベース機が、昔、あっちの砂の上でどうなったかなんて。……でもね、だからこそ、私が行かなきゃいけないのよ」

 茜の瞳から、一瞬で笑みが消えた。

 真剣な、一人の超一流ジョッキーとしての、誇りと覚悟がそこにあった。

「砂塵を巻き上げて、泥を掴んで、地べたから這い上がってきたのが私とノースベガ。……あの星の降る夜の続きを、私が、世界の砂漠の上で証明してあげる。女王は、決して倒れないってね」

 茜は、ノースベガの黒い重装甲に、愛おしそうに触れた。

「茜さん」

 守が、歩み寄った。

 手には、ウラヌス2のメンテナンスで使っていた、煤だらけのカートリッジがある。

「ウラヌス2用に試作した『自動修復ナノ・グリス』だ。……これを持って行ってくれ。廃材チップをかき集めて作ったガラクタの技術だけど、フレームの致命的な亀裂を、十秒間だけ強制的に癒着させて繋ぎ止めることができる」

 守は、そのグリスのシリンダーを、茜の手に握らせた。

「俺は大阪杯があるから、ドバイには行けない。……だから、ウラヌス2の、俺たちの『ガラクタの意地』を、そこに込めた。……絶対に、生きて、勝って帰ってきてくれ」

 茜は、手渡されたグリスの鈍い輝きを見つめ、ふっと柔らかく微笑んだ。

「……ありがと、西。あんたのガラクタの意地、ドバイの砂漠に、ガッチリと刻み込んでくるわ!」

 茜はグリスを真っ赤なジャケットのポケットに仕舞うと、トランスポーターのハッチを跳ね上げた。砂塵の女王が、世界の魔境へと旅立つ。

 数日後。

 ドバイ、メイダン・サーキット。

 漆黒の砂漠の夜空に、色とりどりのレーザー光線が交差し、アラブの大富豪たちが、世界一を決めるレースに熱狂していた。

 パドックに立つ、茜とノースベガ。

 周囲には、世界各国のダートモンスターたちが、バイオ燃料の煙を吐き散らし、巨体を震わせて威嚇し合っている。

 だが、茜の心は、信じられないほど静かだった。

(……聞こえるわ。あの星の降る夜の風が。……ホクトベガ。あんたが見たかった世界の頂点の景色を、今、私が、この子の目で見せてあげる)

 茜はノースベガのコクピットに滑り込み、ハッチを密閉した。

 ニューラルリンクが接続され、砂漠の熱風のシミュレートが、ノースベガのセンサーを通じて茜の脳へと流れ込む。

『――世界最高峰のダート戦、ドバイワールドカップ。各機、ゲートイン。スタート!』

 ガツン! と油圧ゲートが跳ね上がった。

 ノースベガの重機関が咆哮し、砂漠の砂を、力強く蹴り上げる。

 かつて、一人の女王が、星になったあの砂の上を。

 二〇五一年の今、新たなる砂塵の女王が、黒煙を吹き上げながら、世界一のスピードで駆け抜けていく。

「――行くわよ、ノースベガッ!! 私たちが、ダートの、真の頂点よ!!」

 茜の絶叫が、メイダンの夜空へとこだました。

 歴史の因縁を、運命の理不尽を、砂塵の女王が、今、力ずくで蹴散らそうとしていた。

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