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からくり競馬  作者: 水前寺鯉太郎
鋼鉄の三冠 〜限界突破の同調率と、黒き刺客〜

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漆黒の刺客、ヒールの再臨! 菊花賞の静寂

第15話:漆黒の刺客、ヒールの再臨! 菊花賞の静寂


 西暦二〇五〇年、十月。京都サーキット。

 三歳クラシックの最終戦、菊花賞。距離、三千メートル。

『――ウラヌス、無敗の三冠へ! 歴史の証人になれ!』

 超巨大スタジアムを埋め尽くす十万人の大観衆。地鳴りのような「ウラヌス・コール」が、秋の京都の空へと響き渡る。

 皐月賞のスピード、ダービーの運を制したガラクタのウラヌスと西守。彼らが三つ目の盾、「最も強いウマが勝つ」菊花賞を獲れば、歴史にその名を刻む無敗の三冠馬が誕生する。

 誰もが、その美しき偉業の誕生を祝福していた。

 ただ、一機を除いて。

「……すごい人気だね、守くん」

 パドックの喧騒の中、おっとりとした笑顔を浮かべる米田太一が、黒い機体ブラックライスの手綱を引いていた。

 ブラックライスの漆黒の耐熱装甲は、夏の北海道合宿を経て、より一層、光を吸い込む深い闇の色を帯びている。

「みんな、君が勝つところを見に来ている。三冠の偉業を、キラキラした光の中で祝福したいんだ。でもね、守くん」

 米田はブラックライスの煤けた首筋を、愛おしそうに撫でた。

「光が強ければ強いほど、影もまた濃くなる。……今日は、僕たちがその『影』になる。十万人の歓声を、一瞬で凍りつかせる悪役ヒールにね」

 米田の瞳の最奥で、静かで、冷徹な黒い炎が揺らめいた。

 ファンファーレが高らかに鳴り響く。

 秋の京都、三千メートル。スタミナと、知略と、精神力のすべてを削り取る長距離の迷宮。

『――一生に一度の栄光、そして無敗の三冠へ! 菊花賞、今、ゲートが開いた!』

 ガツン! と油圧ゲートが開いた。

 ウラヌスは夏の合宿で培った、無駄な力みのない「全天候型走法」を芝に応用し、抜群のスタートを切る。

 だが、そのウラヌスの真ん前を、淡々と、そして狂気的な正確さのピッチで刻んでいく影があった。

 ブラックライスだ。

(……やっぱり、このラップタイムか!)

 守は奥歯を噛み締めた。

 ブラックライスの走りは、春の初戦よりもさらに洗練されていた。バイオ燃料併用の超高効率ハイブリッド内燃機関が、不気味な重低音を響かせ、一千メートル、二千メートルと、寸分狂わぬタイムを刻み続ける。

「ダメよ、守! ブラックライスのペースに引きずり込まれたら、三千メートルを走り切る前にウラヌスのシリンダーが焼き付くわ!」

 無線から、凛の焦った声が響く。

 スタンドの観客たちは、ウラヌスの三冠を信じて疑わない。だが、コースの上では、ブラックライスという「黒い太陽」が、ウラヌスの体力を、じわじわと、静かに削り取っていた。

 二周目の第三コーナー。京都名物、淀の坂。

 上り坂でスタミナを削り、下り坂で一気に加速する最大の難所。通常、ここは息を抜く場所だ。

「――行くよ、ブラックライス。収穫のハーベスト・タイムだ」

 米田の静かな呟きと共に、ブラックライスのバイオ・ドライブが真の牙を剥いた。

 坂を上りながら、速度が全く落ちない。むしろ、他の機体が坂の重力に負けて失速する中、ブラックライスだけが「最初と同じ最高速」で、坂の頂上へと駆け上がっていく!

「な……坂を登りながら、ラップタイムが上がっている!? 物理的にありえないわ!」

 凛の悲鳴。

 これこそが、ブラックライスの真骨頂。周りが疲れて止まっていく中、自分だけが最初と同じ速度で走り抜ける「絶対的スタミナの暴力」。

「う、ああああっ……!」

 ウラヌスの心臓(古代式シリンダー)が、オーバーヒートの警告音アラートを鳴らし始める。

 夏の北海道合宿で、脚腰は確かに強くなった。だが、ブラックライスの淀みない冷徹なペースは、ウラヌスの限界を、じわじわと、冷酷に超えようとしていた。

 第四コーナーを抜け、最終直線。残り四百メートル。

 先頭を快走するブラックライス。十万人の観衆が、息を呑んだ。

 三冠の夢が、ガラクタの星の偉業が、黒い影に飲み込まれようとしている。華やかなスタジアムに、不気味な「静寂」が広がり始めていた。

(……静かだ。十万人の歓声が、消えた)

 守の視界が白濁する。ニューラルリンクを通じて、ウラヌスの痛みが、疲労が、そのまま守の脳髄を焼く。

 だが、その静寂の中で。

 守の胸の奥にある「錆びついた誇り」が、激しく燃え上がった。

(お前たちが悪役ヒールなら、上等だ。俺たちは、地べたから這い上がってきたガラクタだ。綺麗なお祭り騒ぎなんて、最初から似合っちゃいないんだよ……!)

 守は、朦朧とする意識に、怒りとプライドという名の劇薬を叩き込んだ。

(同調率、一〇八パーセント突破……!! ウラヌス、お前の『本当の強さ』を、世界に見せつけてやれ!!)

 ごぅぅぅぅぅん!

 ウラヌスが最終直線で、バースト機構を限界点火させた。

 これまでのバーストは、ただの瞬間的加速だった。だが今は違う。夏の合宿で鍛え上げられた強靭なフレームが、バーストの強烈な反動を逃さずにガッチリと受け止め、持続的な「暴力的な末脚」へと変換している!

「なっ……! 最後の二百メートルで、その加速は……化け物か!!」

 逃げる米田太一の、驚愕に歪んだ叫び。

「俺たちが、ガラクタの星だ!!」

 守の咆哮と共に、錆びた鉄屑が、漆黒の刺客の真横に、火花と黒煙を散らして並びかけた。

 十万人の絶望の静寂を、ウラヌスの爆轟音が、力ずくで切り裂いていく。

 残り百メートル。

 悪役の黒き刺客と、這い上がってきたガラクタの星。

 二つの異なる「強さの魂」が、京都の直線を、火花を散らして並んで駆け抜ける!

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