6 猫のいる公園
その後も何件か周辺の店を聞きまわってみたものの、目撃談はそれほどなく、あったとしても似たり寄ったりでほとんど収穫はなかった。
公園にも来てみたが、偶然通りかかった人間に話を聞いてみても、それらしい目撃者は一人もいなかった。
「まぁそうですよねぇ……公園ってそんなに毎日通うような場所じゃないですし。ガーデンさんもここから先は追えていないみたいですね」
「絵描きでもいないかと思って来てはみたが、そううまくはいかないか」
「通りすがりに一息つくぐらいはあるかなと思いましたが、僕たち以外いなさそうですね」
公園の中央にある蒸気駆動の時計塔がカチカチ……プシューと、独特の音を刻む。
平日の昼すぎの公園はがらんとしており、その音が人の声に埋もれることはなかった。
ざっと見まわしてみても、街路樹に囲まれた公園内は外側からの視界は悪く、噴水の周りに石造りのモニュメントなどがぽつぽつと佇んでいるだけだ。
「僕も公園は久々に来ました。あ、これ美味しい。はい、先生もどうぞ」
「うむ。ありがとう」
休憩がてら、ベンチに座って聞き込みの途中にユールがいつの間にか買い込んでいた焼き菓子を頬張る。
いつものことだが、気がつけばユールの腕に紙袋が増えているのだ。聞き込みをした店のどこかで買ったに違いない。
とはいえ、事務所からそれなりに歩いてきたこともあって、疲れ始めた脳と体にはバニラの香りと砂糖の甘さがしみるのだった。
「ん?」
足元がくすぐったい感じがしてレティが下を見やると、猫が何匹かまとわりついている。
公園内には人間はほとんどいなかったが、猫は先ほどから入れ代わり立ち代わり何匹も見かけていた。
猫も匂いにつられるのか、そのうち白い猫一匹が、前足を出しながらにゃあにゃあとユールに向かってアピールしている。
「ああ、すみません猫のお嬢さん。差し上げたいのはやまやまなのですが、このお菓子がお嬢さんでも食べられるものかどうかわからないので、差し上げられないのです。何かあったら困りますからね」
ユールが丁寧にお辞儀をすると、白い猫はにゃあと鳴いてふいと横を向き、ふさふさとした尻尾を揺らしながら去っていった。舌打ちでも聞こえそうな顔ぶりだ。
「猫とのコミュニケーションもできるんだな、君は」
「たいていの動物は敬意をもってお話すれば割と分かってくれますよ。それとも、こちらの言葉はわかってるのかな?」
ユールは猫に手を振る。猫はもう興味がないとばかりに無視を決めたようだ。
「まぁ、人間よりもよっぽど。言葉が通じないことがあるのは人間と変わらないはずなんですけどね。人間だと言葉が通じないとあんなに大変なのに」
「言葉が通じても話が通じない人間もいるしね。それを考えれば、よほど意思疎通がしやすい。話ができてもこちらに嘘をついたり隠したりする人間だっているしね。それこそ……今回の依頼人のように、ね」
言動を思い返してみると、意図して隠されている点がいくつかありそうだった。
「おそらく、彼は本来の仕事で来ているわけではない。のだと思う」
「そうなんですか?」
「彼が来ていたあのローブ、生地はもちろん東側の人間らしい素材だが、公機関の人間が好んでよく着ているものなんだ。最近は地域をまたいで商談をするような商会の人間はもっとカジュアルな服装をしているし、貴族はもっと仰々しい服ばかりだからね」
依頼人の職業に関して、捜索に必要でなければ積極的には聞かないようにしている。
詳しく聞こうとするとかえって自分の身が危なくなることもあるためだ。だが、レティはたいていすぐにある程度見切っているようだった。
服装や持ち物をよく観察しろとレティは言うが、ユールはいつも依頼人との話に集中してしまい、思い出すのは依頼人が帰った後なのである。
ユールとしては、もうそういう役割分担でいいんじゃないかと思っているが、これも口には出さないようにしている。
「なるほど。まぁでも、服装の好みは人それぞれではありますからね」
「その線もあるとは思うが……商談のことを聞こうとしたら急に話をそらしたのが少し気になってね」
「言われてみれば確かに」
基本的にはこちらの話は遮らずにしっかりと聞いてくれていたが、その時だけ急に食い気味で話を切り出していた。
守秘義務などがあったとしても、そこまで急に話を切り替えられたのは違和感があった。
「ほかにも気になる点はいくつかあるが……いずれにせよ、何かこちらに隠しているだろうということは確実だろうね」
「依頼人の信用をすぐさま得られればいいんですけど。まぁ、正直僕たちも怪しいのでしょうがないか」
「それはまぁ……」
否定ができないレティだった。
捜索事務所自体は先代から引き継いで営業しているものではあるが、魔術師も捜索業も探偵も、知らない人からすれば怪しい職業であり、信用を簡単には得られない。
一度恩恵を受ければ重宝してくれる顧客も多いが、新規顧客はなかなか寄り付かないのが現状だ。
既存客からの口コミのおかげで概ねなんとかなっているが、そろそろどこかに営業をかけていったほうがいいか。
先ほど離れていった白い猫を目で追いかけると、今度は猫同士で話をしているようであった。猫のコミュニティー内でも口コミが広げられているのかもしれない。
「猫さんたちの間で嫌なやつだって噂されていないといいんですが……」
ユールは眉を下げ、不安げな表情で猫たちを見つめる。叶うことならどこででも前向きな評価を得ていたい。
「あ」
隣でベンチに背を預け、腕を組みながら同様に猫を見つめていたレティだったが、ユールの言葉を聞いて急に動きが固まる。
「あぁあ……うん、そうか」
顔を右手で覆い、悩ましそうな声でそうつぶやいた。
「先生?」
ユールが驚いて隣を見やると、少し苦そうな顔を一瞬した後、口の端がわずかに上がるのが見えた。何度か見たことがある表情だった。
「何か思いついた顔ですね?」
「ああ。猫に話を聞きに行こう」
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