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3 捜索依頼

 依頼人の男はソファに腰かけると、恐る恐る話し出した。


 「私はシャル・ガーデン……と言います」


 おどおどとした雰囲気から小柄な印象を受けるが、そこまで体躯は小さいほうではない。背の高いユールと比べても、差は頭1つ分もないぐらいだ。

 汗をかいているのか少しよれてはいたものの、ウールのしっかりとした上質な生地でできたローブを羽織っている。

 窓から差し込む光が反射したのか、何かがキラリと光った。胸元の猫を模した形のピンバッジだ。

 荷物は鞄と水筒のような形の紐のついた大きめの筒と紙袋だ。


 「探してほしいのは魔法生物の……赤い首輪をしている……トカゲです。あ、ペットのトカゲ……です」


 ガーデン氏は次々と差し出されるクッキーを控えめに口に運びながら、捜索品の詳細を話し出した。


「トカゲ……ね。使い魔の契約はしていなかったんですか。警察に捜索届は?」


 爬虫類は魔法や魔術との相性がいいため、ペットよりも使い魔として飼われているほうが多い。使い魔の契約者であれば、だいたいの位置はわかると聞く。


「い、いえ……私は魔法使いではないので。」


 ガーデン氏は大きく手を振りながら強く否定する。


「……そうなんですね」

「その……友人から預かっていて、あ……友人も魔法使いではなくて。明日の夜までにどうにかして見つけ出さないといけなくて困って。で、でも大事にはしたくないので、捜索届は出していないです。とにかく早く何とかしたくて……」

「そのご友人に正直に話したほうがいいんじゃないですか?……痛っ」


 ユールはレティに肘で小突かれわき腹を抑える。

 レティは呆れた顔でユールを少し睨みつつ、ガーデン氏には手で続きを促した。


「いや……えっと、そう! 怒ると怖いタイプの友人で。どうにか見つけて穏便にすませたいんですよ……はは……」

「まぁ……そういう困ったときの捜索屋なのでぜひご活用くださいってところではあるんですけどね。早めに謝ったほうが絶対いいですよ。僕の友人もこの前――」

「見た目や大きさは?」

「赤めの濃いオレンジ色の鱗で、赤い首輪をしています。全長は……このぐらいです」


 手で肩幅程度のサイズを示す。トカゲにしては比較的大きいようだ。


「名前は?」

「え?えーっと、何だったかな……確かこのケージに……そう!ラキです、ラキ」


 水筒のような筒は、ケージだったようだ。

 側面には氷のような模様と温度の表示があり、上蓋には名前が彫ってあった。


「ラキちゃん!いい名前ですね。あ、ラキくんですか?」

「メスです。」

「いなくなったとわかったのはいつ、どこで?」

「いなくなったと気づいたのは昨日の夕方で……地図の、このあたりです」


 喫茶店でも広げていた地図をテーブルに出すと、指さした場所に丸印がつけられていた。事務所の近くにある、最近できた料理店の前だ。

 そのほかにもいくつか印がつけられている。


「ケージの閉まりが甘かったのか、突然飛び出してしまって」

「それは困りましたね。」

「ええ……本当に……」


 ガーデン氏はその時のことを思い出したのか、悔しそうな表情を見せる。

 


「この他の印は目撃地点?」


 レティは地図を一通り眺めると、地図の丸印を指さし、詳細を促した。

 ガーデン氏もそれに応じて印を指で辿りながら伝える。


「はい。ここから、……ここまでは周辺の人に聞いてみたりして追えたんですが、そこからどうにも」

「なるほど。こちら、写させていただきますね」

「も、もちろんどうぞ」



 レティは近くの籠から地図を取り出すと、同じ位置に印とメモを書き込んでいった。

 捜索範囲は繁華街から少し外れた通りが中心になりそうだ。


「この街には来たばかり?」

「え、ええ。……さっきその人、いや、ユールさんにも言われたんですが……この格好、そんなにすぐ東部の人間だとわかる格好ですか?」

「まぁ、この辺ではあまり見ない服装ですからね。アルディアはどちらかというと西部に近いし……蒸気パイプがたくさんあるから、暑さの調節がしやすい薄手の服装ばかり着ている」


 蒸気を動力とした機械が多いアルディアでは、工場地域以外でも蒸気を通すためのパイプがそこら中にある。

 レティたちも含めて、住人たちは薄手でつるんとした触り心地の生地や、綿麻の風通しのよい服装がほとんどだった。


「だから、クラシックな厚手のローブを着てる人は東側からきた人だろうな、と感じる。私も元は東の生まれだが、ここに来たばかりの頃はよく言われましたよ。」

「なるほど……」

「私たち以外に誰かに依頼したり、相談されましたか?」

「いいえ。自分ひとりでどうにかできればと思って」

「ちなみにこの後のご予定は? お仕事ですか?」

「え? ああ、ちょっと、……まぁ商談で。」

「それは何の——」

「あ、あの、それで、お値段は……」

「こちらです。」


 ユールがいつの間に用意したのか、スッと料金表の紙を差し出す。『生き物』『急ぎ』などのオプション欄には既にいくつか丸が付けられている。


「最優先コースがおすすめですね。お急ぎですし、生き物ですから、ちょっと他よりオプション料金が高くなりますけど。前金で半分、残り半分は成功報酬です。」


 ガーデン氏は目を細めて料金表をじっくりと読み込む。躊躇する金額ではあるが、払えなくはない。とはいえ、つい頭を傾けて悩むほどの金額だ。

 ユールはガーデン氏が眉根を寄せて逡巡しているのを見ると、すかさずレティに話しかける。


「あ、一応ジョー君のお店の紹介ではあるし、ちょっと値引きしてもいいですか? 先生」

「構わないよ」

「よかったですね! それでもこのぐらいのお値段にはなっちゃうんですけど、どうします?」


 料金表の横のオプション欄の丸にいくらか斜線が入り、合計金額も訂正される。ガーデン氏の顔の眉間のしわも少しは伸ばされた。


 と思いきや、また眉間のしわが深くなる。

 いいのか、本当に――?

 反芻すれど、答えはなかなか出ない。

 


「金額以外に何か――迷っている点でも?」


 レティの鋭い言葉が突き刺さる。


「あまり……人に知られたくないんです。バレたらと思うと、恐ろしくて」

「もちろん、依頼人については非公開とすることも可能です。聞き込みの際や、調査協力者へ開示の必要がある場合は操作に必要な範囲のみ伝えます。一部例外もありますが……詳しいことは料金表の下部をご確認ください」


 渡された書面を改めてよく見ると、そういった情報面についても記載があった。


「それに……もし、万が一……誰かの手に渡って何か起こってしまったらと思うと……!」


 ガーデン氏は爪が食い込むほど強く拳を握りしめたかと思うと、ダンッと勢いよく膝に打ち付ける。

 ユールはつい、ごくりと唾を飲み込んだ。レティも思わず身じろぎ凝視してしまう。

 二人の視線が集中していることに気づき、ガーデン氏はハッとした顔をする。


「……そ、そう思うと気が気ではなくて……」

「心配ですよね」

「ええ……」

「早期解決を願うのであれば、我々にお任せいただくことをおすすめいたします」


 レティは姿勢を正すと、冷静に言葉を運ぶ。


「早期、解決……」


 ガーデン氏は噛み締めるようにつぶやくと、俯いて自分に言い聞かせるように何度か頷く。

 深く息を吸うと、覚悟を決めたのかしっかりと前を向いて口を開いた。


「……可能性があるなら、お願いします。」

「ありがとうございます。注意事項もあるのでその上で——」


 ユールが契約内容と注意事項を、記載箇所と照らし合わせながら、丁寧に説明する。

 が、実際のところ、ガーデン氏の頭はこの後どうするかで頭がいっぱいで、耳には半分ほども届いていなかった。


「——それでは、問題なければこちらにサインをお願いいたしますね。」


 ユールがペンを差し出す。

 

 ガーデン氏は受け取ると、勢いよくサインを記した。

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