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15 奇妙な旅人たち

「……で?どうなんだ」

 

 アイヴスは腕を組み、呆れた表情で二人を見やる。

 

「情報源は明かせないが、工場地域で住人ではなさそうな人間が多数見受けられたのは事実だ。駅で確認した限り、ここ数日にこの街で降りた客が普段と比べてかなり多いことを確認している。……ここに聞き取りをした人間について大まかにメモしてあるから、裏を取ると良い」

 

 レティはポケットからさらに紙片をいくつかを取り出すと、いくつかの商店名と名前を写し書き、アイヴスに手渡した。

 

「確認する」

 

 アイヴスは一読すると、他の書類と共にファイルにしまい込んだ。

 

「僕が働いてる間、先生は駅に行ってきたんですね?」

「ああ。依頼人についての調査のために行ってきたよ。依頼時の情報に引っかかるところがあったからね」

「それはまぁ……確かに」

 

 単純な捜索だけで済む案件の方が多いが、依頼人が何かを隠している場合はその限りではない。

 早期解決のために、依頼人自身について調べるのはそう珍しいことではなかった。

 

「それで、どこから何の目的でアルディアに来たのか、駅で調べてみたんだが……依頼人も含めて、ほとんどが東側からの乗客だった」

「まぁ……それ自体はそう珍しいことでもないだろう」

「普通はね。だが、人数がかなり多いらしい。聞いたところによると、平日でここまで多いことはめったにないそうだよ」

 

 アルディアはそこまで大きな都市ではない。

 交易目的や、東西へ移動途中の旅人が羽休めをする場所としてはそれなりに人気があるが、観光客が一度にどっと押し寄せるような目玉はない。

 

 「何か大きな催しの予定ってありましたっけ?」

 

 蚤の市や収穫祭などの催しが開かれることもあるにはあるが、ユールがスケジュール帳を開いてみても、少なくとも先の1週間にはそのような記載はない。

 普段あまり見かけないような屋台——主に食べ物の——が出店する機会の多いイベントはほとんど日程を記してあるため、少なくともここ数日でそのような予定はないはずである。

 食べ物の屋台が出ないようなものを除いても、ほかの都市からわざわざたくさんの人が来るほどのイベントについては、ユールは心当たりがなかった。

 

「直近でそのような予定は見当たらなかった」

「……とすると、もしやそれが?」

「持ち主のわからない品物の大規模取引が……あったりするかもしれない」

「なるほどな」

「それと、少し……妙な様子の客が多かったとも言っていたな」

「妙な様子、ですか?」

「ずっと伏し目がちでため息をついていたり、目が血走っていてずっときょろきょろしていたり。かと思えば急に笑い出して饒舌に捲し立てたりだとか。あまり、旅人では見ないような表情らしい」

 「旅行で気が落ち着かない、というのであればわかりますけど……。同じところから来た客が皆そのような状態だと聞くと、怪しいですね」

 

 ユールは眉をひそめる。あまり積極的には関わりたくはないな。

 

「言われてみれば今回の依頼人さんもちょっと落ち着きはありませんでしたね。……でも、僕らに依頼するような方ってだいたい落ち着いてないですからねぇ」

 

 捜索の依頼者といえば、ほとんどが非常に急いでいるか、長期で見つからず困って依頼するかのどちらかだ。

 どちらの場合も、焦っていたり悩んでいるような表情を浮かべていることが多い。そう考えると、似たような表情はしていたかもしれない。

 ユールは様子を思い出そうとメモのページをめくっては見たものの、そこまで詳しい描写はない。過去の自分を問い詰めたくなる。

 レティはもう言いたいことは言い切ったとばかりにメモ帳を閉じ、伸びをし始めた。

 一方アイヴスはといえば、その話を聞いて何かに思い至ったのか、腕を組んで考え込んでいる。

 

「どう、何か参考になりそうかな」

「まぁ、な。詳しくは調べてみるよ。ありがとう」

「それはよかった。何かまた情報が入れば連絡するよ」

「助かる」

「ええと、もう帰っても?」

「ああ、悪いな。また何か聞きたいことがあれば事務所に行く」

「そうしてください。あ、いなかったら1階の喫茶店に言づけておいてくださると助かります。」

「そうするよ。」

 

 アイヴス捜査官は手を振りながら足早に同僚のもとへ向かうと、さっそくレティから受け取ったメモをもとに情報共有をしている様子だった。

 

「先生は何かほかに気になることとか、ないですか?」

「ああ、概ね材料は揃った……かな」

「それは何よりです」

「まぁでも、その前に君の夕食が先かな」

「それは本当に助かります」

 

 ユールはいつになく真剣な面持ちで頷いた。

 夕食が早く食べたいというのは方便の1つではあったが、先ほどからユールの腹の虫が何度か鳴いているのもレティの耳に届いていた。

 

「あ、ちょっと僕離れる前に挨拶してきますね」

「ああ、いってらっしゃい」

 

 ユールはパタパタと走ってゆき、 周囲にいた工房の人間に話しかける。

 簡単に事務所に戻ることを伝えてすぐその場を去ろうとするが、呼び止められたようだった。

 長くなりそうだなと思ったレティはポケットのメモを取り出して整理を始める。

 目線を戻したときには、気づけばユールの腕は食べ物でいっぱいになっていた。


「先生、お待たせしました」

「かまわない。荷物が増えたな」

 

 レティは自分のカバンから薄手の布袋を取り出すと、ユールの腕からお菓子を移し入れていく。

 

「あ、ありがとうございます。さすが先生、用意がいいですね。休憩中に美味しかったお菓子が美味しかったのでどこで買えるのかお伺いしたら、おすそ分けをたくさんいただきました」

「いつもながら、君は他人の懐に潜り込むのが早いな」

「いいえ、皆さんがお優しいからですよ。僕のは普段よりちょっとにこやかにして、普段よりちょっといい子ぶってただけです」

「それがすごいと言っているんだ。私には到底できないだろう」

 

 今にも溜息が出そうな顔のレティとは反対に、ユールは満面の笑みである。

 

「ふふ、先生にお褒めいただけるならいつでもやりますよ、僕は」

「今後とも頼んだよ」

「もちろんです」

 

 ユールの足取りは軽く、足元に伸びる影ですら心なしか跳ねているようだった。


 トカゲの鱗と同じ朱い夕暮れの陽が、二人の帰路を照らしていた。

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