それぞれの基点
「整理しましょう」
仕事の出来る女風にシズカは仕切りだした。
さっきまでの激怒はなんだったんだとばかりの変貌ぶり。
「根本をどこにおくかよね」
つまり?
「愛情か、大倉さんの卒業か、よ」
どういうことだ?
「3人それぞれの愛情よ」
「わたしは…この人よりこの人との年月が惜しいの」
身も蓋もない言い方だな。
「あなたは?」
なぜか俺ではなくヤヨイを向く。
「志水だもん…」
まだ抗議の声を小さくあげながらもヤヨイは考えている。どうやらシズカのペースに乗ってしまったらしい。
まだシズカ初心者だもんな。
つむった目を開け
「タケルくんより片思いの6年がちょっと大きいかな」
もうルビコン川を越えたのに。
「タケルくんは?」
「シズカへの執着とヤヨイの体」
「あんたサイテーっ…ね」
おまえらが俺のやわい心をえぐったんだぞ。
・・・
「分かった?誰も純粋な気持ちを持ち合わせていないわよね」
俺の主義に反するがな。
「黙れ、二股」
えー…。
「ここを基点とするとまあ…収集つかないわよ」
確かに。
ヤヨイも頷いている。
「なら、卒業を目的とするなら?」
あー、ヤヨイのSOSはおそらくソレの解決。
そっちの方が生産的かつ建設的だ。
後付だけどヤヨイとの結婚に意味があるなら目的はそれでいいんじゃないか?
「その後はわたしと一緒になるのよね?」
やはり俺を向かずヤヨイを向くシズカ。
それじゃまるでヤヨイに求婚してるみたいだぞ。
「えっ…」
なに照れてるんだ、ヤヨイ?
「この軽はずみな餡まん野郎のおかげで」
「肉まんの方が美味しい」
「餡まんでしょ」
いや餡まんでしょ。
「愛人顔だもんね」
「どういうこと?」
こら、新妻。いくら多数派だからって。
「あたしたち夫婦だよ。だからシズカさんは愛人」
どうやらヤヨイなりにこの面倒事を消化しようとしているようだ。
「なんですって!」
シズカは怒る。
・・・
また余計な時間を使った。
「余計な時間?」
そう怒るな。美人が台無しだぞ。
「昔から愛人から顔をとったら何も残らないって決まってるものね」
ヤヨイ、煽るな。せっかくおまえのために考えてくれてるんだぞ。
「「誰のせい?」」
あー…俺だな、うん。
・・・
話はあちこちに脱線しながらなんとかまとまった。基本、シズカ案の採用。
「そうなれば、次の件ね」
まだあるのか?
「タケルくん、家族に報告は?」
いや、まだ。
「それを解決させないと」
黙って一年くらいならなんとかなるだろ。
「嫌よ。一年後はわたしがあなたの妻よ。ちゃんとしてくれないとわたしが困るもの」
だからってこんな複雑な関係をどうしろと。
「なんとかしなさい。元はと言えばあなたが軽はずみだからでしょ?」
ヤヨイは縋るような視線で俺を見ている。
「とりあえず…予定を聞いてみる」
そうやって自宅の固定電話にかけると…。
「あっタケル?どこにいるの?」
よりにもよって姉が出た。
「なんでいるんだ?」
「実家に帰ったらいけないの?」
今日じゃなければ関係ない。
どうやらいきなりラスボス決戦になりそうな…雲行きだった。




