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連載版:10個の約束  作者: カラー
第1章:ひとつ目の約束

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6/11

一年限定夫婦

 大倉の母ヒトミさんはぎこちなく俺に頭を深々と下げた。


「この度は窮状にあるにも関わらず、娘を選んでいただいて…」


 ありがとうございます、と。




 どういうことだ?と目でヤヨイを見る。


 先ほどまでとはうってかわって、感情のない視線でヤヨイは俺に向かう。




 なにか事情があるらしい。




 ……仕方ない。新妻だからな。


「あまり詳しくお聞きしていないので、差し支えなければお聞かせいただけませんか?」


 初対面の礼儀正しさはこういう時に活きる。




「…ところでこちらは?」


 とヒトミさんはシズカを見やる。こういう気遣いをおまえらは学んでほしいよ。




「相談相手なんです、彼・の」


 空気を読んでか、シズカはぼかした表現で済ませた。


 曖昧に頷いたヒトミさんはヤヨイの横に座り…話し始めた。




 曰く。


 自営の家業に行き詰まり、家と土地を処分して近隣の賃貸に引っ越すのだと言う。


 幸い処分の金額で赤字にはならないが、ヤヨイの来年度分の学費と生活費はままならない見込みらしい。




「わたしを養え」


 あの奇妙な文面はヤヨイの切羽詰まった悲鳴だったのだろう。風邪による体調不良、(元?)彼の暴力と浮気、そしてこれか。




 無茶苦茶なことを言うと思ったが、それだけ揃うとな…。


 ヤヨイを責める気持ちは全くなくなった。




「そんな娘を救っていただいて来年の学生生活まで補っていただけるなんて…」




 確か美大だよな、ヤヨイ。


 授業料も高いし、制作時間でバイトもままならないと聞いたことがある。




「東京で戦ってるんだよ」


 ラブホから出て朝食に選んだファストフード店での言葉がよみがえる。




 シズカをちらっと見ると先ほどまでの勢いはなく下を向いている。




 まだ家の片付けがあるので、今度はきちんと夫婦ともどもご挨拶させて頂きます、とヒトミさんは俺なんかに何度も頭を下げて…出て行った。




 うーん…。




 俺たちは黙ったまま時間をやり過ごす。




 軽はずみだったかもしれないが、少なくても妻なのは間違いない。


 当然助け合わなければいけないはずだ。




「一年間猶予がほしい」


 二人に話す。


「今のを聞いて、まだ泥棒猫って言えるか?」


 シズカに聞く。


「まあ…まだ感情が追いつかないけど…その言い方は撤回するわ。ごめんなさい」


 理性はシズカの長所だ。




「大学を一年間休む」


 えっ…と二人。


「ヤヨイのとこもう一人住めるか?」


 夫婦なら大丈夫だと思う、とヤヨイ。


「一年限定夫婦だ。卒業したら好きにしていい」




 あなた自身の卒業は?とシズカが質問してきた。


「留年したと思えばいい。休学だから俺自身の学費は免除されるはずだ。国立だし。後は…まあ一年働けばなんとかなるだろ」




 あなたの人生なのよ、と続けてシズカ。


「それも留年したと思えば、な。どうせ院に行くつもりだった。モラトリアムよりは意義がある一年だと思う」




 だから…さ。シズカ、きちんと別れよう。 一年会わないんだし、おまえが卒業してここを離れて入れ替わりで俺が復学するから入れ違いになる。




 シズカは考え込み…やがて


「嫌よ」


 と意外な返事をした。




「未練が残るもの」


 それにこんな馬鹿な人は目を離すわけにいかないもの、と。




 そこは理性的でないんだな。


「一番あなたらしい選択をしたのだから、せめて一年後に判断させて」




 それはありがたいと言えばそうだけど…


「その時にまだあなたに未練があったら妻になるわ」




 へっ?




 結論が三段跳びしてないか?




「大倉さん…今は志水さんか…一年限定でこの人を貸してあげる。でも一年だけよ」




 びっくりしたようにシズカを見るヤヨイ。




「一年経ったら返してね。約束できる?」


 勢いに思わず首を縦に振るシズカ。


 おまえも俺と同じで流されやすいのか?




 そういやヤヨイがお母さん来てから一言も発していないことにようやく気づく俺だった。

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