泥棒猫
長い沈黙のあとシズカが口を開いた。
「大倉さん」
静かな物言いだが、確実に怒気を含んでいる。何に怒ってるんだ。
「そんなに簡単に結婚ってしていいの?」
えっ…と言う顔をしてたヤヨイはその後何かを言おうとして、口をパクパクさせていた。
だが振り絞って出てきた言葉は…。
「分かんない」
あーこれは…シズカを刺激するぞ。
「分からないのに…こんな不良物件を」
ちょっと待て。
いくらなんでも不良物件扱いはひどくないか?
「仲がたいしてよくない女に呼ばれたらほいほい行っちゃう。一晩経ったら結婚して…セックスもしてしまう。どんな男よ」
うーん。
端から聞いてたら軽はずみなやろうだな。
「誰のこと?」
俺のことだ。
「開き直るわけ?」
いやまあ…確かに胡乱ではあるんだけど…。
「なにか申し開きがあると」
そう言うわけではないんだけどさ…。
「はっきり言ったら?」
いいの?
「どれだけ最低のことを言うか、知りたいわ」
そこまで馬鹿にするなら言ってやる。
大倉はな、すごく気持ちいいんだ…。
「体の相性がいいわけ?」
どうしてもって言うなら答えるけど。
「ほんとに最低ね」
だよな、ごめん。
「で?」
まだなにか?
「答えなさい。少なくてもわたしがこの子に及ばない点は知っておきたいから」
結局性のことだから、あんまりそれは関係ないかと。
「言いなさい」
知らんからな。
お互いが自由になれるんだ。
「………」
シズカは再び沈黙した。
俺とシズカのやり取りを、首を縮こませて聞いていたヤヨイは所在なげに足を遊ばせている。
子供みたいだな。
そんな仕種になんだか可笑しくなって…。
たぶんだけどさ。
シズカは俺を型にはめよう…としてたんだよ。分かりやすくするとシズカにとって理解できる相手がほしかったんだと思う。
ヤヨイはまあ…。これからの付き合いになるはずだけど、もう少しだけ俺が自由になれるっつーか。
「まだ可能性の話でしょ?」
それは確かに。
「言い換えたらわたしとの過去より、この子との将来性に惹かれたのね」
そんなはっきりしたものか、まだ分からないけどな。
一つはっきりしてるのはシズカ、おまえとははっきり別れたんだから、これ以上干渉しても何の得にもならないってことだ。
「そこ」
え?
「いつ別れたっけ?」
いや…ここでつい最近別れ話したよな?
「はっきりとお互い確認した?」
してないけど、どう考えてもあれは別れ話だし、そう言う去り方だったぞ?
意外な方向に向かい出した話にヤヨイはびっくりしてる。
ずっと一言も発していないが、明らかに自分が絡んでいるので、聞かないわけにはいかないようだ。
「そうね。付き合い出した時覚えてる?『付き合ってください』とあなたが言ってわたしは了承した。そうだったわね?」
そうだった。
「なら別れる時も同じじゃない?」
そんなはずは…。
「それがないならわたしたちはまだ付き合ってるの」
えーっ。
「いいこと?ヤヨイあなたは恋人を横取りしようとしてる泥棒猫なのよ」
そう言ってシズカはヤヨイをびしっと指差した。




