バカップル
電車から降り駅を出かけた時、シズカ…山中静夏に捕獲された。
獲物は狩人の思うがままだ。
「壺じゃなく、人生を買わされたの?」
養えとはメッセージにあったが、さすがにヤヨイも自立はするだろ。
「なんで簡単に信用しちゃうかなあ」
え、だって真剣ぽかったし。
それより、そもそも別れたんだからおまえこそ、待ち伏せなんかするなよ。
「…元恋人でも、あからさまにおかしな話を聞いたら忠告のひとつもするでしょ?わたしだって良心のかけらくらいあるのよ?」
あぁ…。確かにシズカなら、例え敵視している人間でもしそうだな。お節介なような性向でいて優しい面も持ち合わせている。そこに惚れたのだ。
…にしても、三日前に別れ話をした喫茶店で、話している今はなんなのだろう。
と、シズカは声の量を小さくして
「さっきからこっち見てる女、誰?」
俺の背中越しに視線を走らせている。
「あの左目に青タンの子…」
振り向かなくても心当たりがあった。
なぜここにいる?
今朝向こうであっさりと見送られ、キツネにつままれた気分で帰郷したはずだったのだが…。
「シズカ一緒になろう!」
やつに聞こえるように大きな声を出した。
しかもシズカの両手を包み込むように握る。
「なにやってんのよ!新妻との初夜の翌日は他の女に求婚するって?」
これほど簡単に餌に食いつく性格なのか…おまえ。
「あ……」
俺の簡単な芝居にあっさりと騙されて…大倉ヤヨイは姿を現した。
・・・
捕獲返しをされた女はしゅんとうなだれて横に座る。
まだ左目の痣が痛々しく見える。
シズカは腕組をして右手の中指をトントンとリズミカルに叩いている。
表情は険しく、眉を寄せたままだ。
それでも美人なんだが。
「ねえ、バカップル?」
十分な沈黙の後でシズカは切り出した。
「バカップルってほど仲良くないし。まだ入籍二日目だ」
「でもあたしの方がシズカさんより気持ちいいって言ってた」
「おまえが最中に聞くからだろうが。違う女がいいとかそんな時に言うかよ…」
「馬鹿がふたり!」
声こそ大きくないもののかなりの迫力。
あまり経験したことないが、キレられた時に確か怖かったぞ。
消費期限切れの肉を食べて腹痛で寝込んだ時以来か?
ヤヨイは子供のように縮こまっている。
「男と女が馬鹿ならバカップルでしょ」
「「あー、確かに」」
はあ…とため息をつき、またシズカは黙り込んだ。




