ある男の一生だ。
今日このサイトに初めて入ったが、私の物語が読まれないのならそれほど目の肥えた人間はいないのだろう。あくまで小説だ。純文学の一歩目だ。
暗い闇に煙る夜。雨粒の鼓動が川面を叩き、僕の影をぼんやりと滲ませている。喪失と孤独に蝕まれた心が、冷たい川風に震えていた。腰を下ろした河川敷のコンクリートは冷たく硬く、まるで今の自分の生きる場所を拒絶しているかのようだった。
僕はポケットから煙草を取り出し、ライターで火をつける。パチリという音が静寂を切り裂き、一筋の炎が夜の闇に揺らめいた。雨に濡れたタバコの先端が赤く光り、そしてふっとその火は消えた。あまりにも小さな光は、まるで僕の命の残り火のように思えた。
夜風の湿り気が僕の顔にしみ込む。流れる川の水音が、あまりにも僕の心の叫びと似ているから、耳を塞ぎたくなった。静寂の中に混ざるのは、自分自身の低い呼吸音と、遠くで響くかすかな鉄道の汽笛だけだ。
生きることに意味はあるのだろうか。僕はいつからかその問いに答えを見いだせなくなっていた。誰もいない世界で、僕だけが昼と夜を数えても何の価値もないと思った。自分を否定し続けることに疲れ果てて、ただ静かに終わりを待つだけだった。
タバコの煙を最後まで吸い終えたとき、僕は重たい身体を無理に起こした。雨に濡れた灰の落ちる音が、耳の奥で小さく響いた。ポツリと落ちたその火種は、川面に広がる水紋と同時に消えた。僕は手に残る小さな炭を指で潰し、まだかすかに熱を帯びた吸い殻を水たまりに落とした。
すべてが音を失った。静かな世界の中で僕の足音だけが、深い闇へと吸い込まれていくようだった。遠ざかる街明かりが、川の水に溶けて滲む。高鳴る心臓はいつしか止まり、耳に残るのは自分の鼓動でも雨音でもない――ただ、永遠に続く沈黙。
僕は静かに立ち上がった。雨に濡れたコンクリートを蹴り出して、闇の中へと一歩、また一歩と歩み出す。振り返ることは一度もせず、唇にはいつの間にか煙草の味すら残っていなかった。闇は真っ黒なヴェールのように僕を包み込み、遙か彼方へと連れていった。
遠くで聞こえた汽笛はもう、すっかり遠ざかっていた。川べりに残された濡れた吸い殻だけが、小さく焦げた匂いを放っている。虚無と美が同居する夜の中で、僕の存在はそっと消えたようだった。
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