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44.手を読む、顔を読む


次は、メシアの手番


牡丹に蝶、【紅葉】のかす、【柳】に燕、【柳】に小野道風、菊に盃、菖蒲のかす、藤のかす



彼は何も言わずにスッと自分の手札から藤の短冊を出して、場の藤のかすと合わせる。


そして、1枚めくる。


出たのは梅のかすだ。


藤は、あんまり狙う札じゃない。

メシアがそれを出したってことは――他に有効札を持ってないってことだ。


……つまり、紅葉は手札にない。


めくりで引かれたら厄介だけど、今のところは大丈夫そうだ。

ひとまず、こっちが有利。


メシアの合わせ札

梅の赤短冊、梅のかす、藤に短冊、藤のかす



俺の手番。


場札は

牡丹に蝶、【紅葉】のかす、【柳】に燕、【柳】に小野道風、菊に盃、菖蒲のかす、梅のかす


俺の手札は

萩のかす、【紅葉】のかす、芒に月、菊の青短冊、【柳】のかす、【松】の赤短冊、萩の短冊、萩のかす。


これでようやく、松の赤短冊を合わせられる。


静かに息を整え、俺は手札から松の赤短を場に出す。

すでに場にあった松のかす札に、ぴたりと重ねた。


そして――一枚、引く。


指先に伝わる札の感触。

軽くめくったその札は――牡丹のかすだった。


「……ふっ」


思わず、口元が緩んだ。

メシアも、それを見て微笑む。


「良かったですね。……これは、早めに仕留めましょうか」


静かな声音に、鋭さが滲む。


俺は無言でうなずき、場に残っていた牡丹に蝶と、引いた牡丹のかすを組み合わせて取る。

一気に、札が俺の側へと傾く。


――これは、もう王手だ。


手札には、萩が三枚揃っている。

あとは、それを出さずにキープしたまま、萩に猪を合わせられれば――


猪鹿蝶が、完成する。


俺の場に並ぶ札は、


牡丹に蝶。

菊の青短冊。

紅葉に鹿。

牡丹のかす、菊のかす、紅葉のかす――


そして、残された鍵は、萩に猪。


狙いは定まっている。

あとは、引き金を引くだけだ。


俺の合わせ札

牡丹に蝶、紅葉に鹿

菊の青短冊、

牡丹のかす、菊のかす、紅葉のかす


あと萩に猪で、猪鹿蝶完成。




次は、メシアの番だった。


場札は

紅葉のかす、柳に燕、柳に小野道風、菊に盃、菖蒲のかす


ふっと笑って、桐のかすと桐のかすを合わせる。


メシアは山札に手を伸ばす。

一枚めくる。


出たのは――桜のかす。


(……あ)


場にある桜の赤短と、ぴたりと合った。

音もなく、札が揃う。


「……上々です。あとは“松の赤短冊”でしょうか」

メシアが、こっちをじっと見つめてくる。


目線が合う。

俺は視線を逸らさずに、指で頬を軽く触れてごまかした。


「……なに、こっち見てんだよ」


「……ああ、名取くん。

気まずい時に顔をお触りになるのは、癖として少々目立ちますよ」


「ッ……!」


まるで、心の中を見透かされたような感覚。


(戦い方……紫藤の時と、全然ちがう)


これ、完全に心理戦に持ち込まれてる。


(俺が“心理戦だ”って気づいてる時点で、もう一歩遅れてるってことか)


「……なるほど。"松の赤短”、そちらにおありのようですね。

困りましたね。ええ、本当に」


さらりと、メシアがつぶやく。

声のトーンは落ち着いていて、まるで全部お見通し。


(……余裕かましやがって)


メシアの合わせ札

梅に赤短冊、桜に赤短冊、藤の短冊、梅のかす、桜のかす、藤のかす、桐のかす、桐のかす

――松に赤短冊で、赤短冊が完成する状態。


とはいえ、松に赤短冊は俺が持っている。

大丈夫。まだ大丈夫だ。


俺の番か。


場札は

紅葉のかす、【柳】に燕、【柳】に小野道風、菖蒲のかす、菊に盃


俺の手札は、

萩のかす、芒に月、柳のかす、萩の短冊、萩のかす。


出せるのは、萩以外。

そして、当たり前だが、芒に月を外に出すなんてことはする気がない。


つまり、出すのは柳のかすだ。


俺の合わせ札の札の種類を見る。


光札:0

たね札:2

短冊札:2

かす札:4


狙っているのが、猪鹿蝶というたね札の役なら――たねが欲しい。

柳に燕か。


俺は柳のかすで、柳に燕を持っていく。


そして、めくる。

出たのは――桐のかす。


メシアの方を見るが、反応はない。


俺の合わせ札

牡丹に蝶、紅葉に鹿

菊の青短冊、

牡丹のかす、菊のかす、紅葉のかす



メシアの番。


場札は

紅葉のかす、柳に小野道風、菊に盃、桐のかす


今度は、菖蒲のかすを出した。



そして一枚めくる。


――柳の短冊。


「……!」


場にあった柳に小野道風と、ぴたりと合わさった。


「これで、私の“短冊”は四枚目。

あと一枚――いただきますね。静かに、確かに。

上がらせていただきましょう」


にこ、と綺麗に笑う。


(……いや、そんな笑うほどの役じゃないだろ。たったの1文だ)


思考が揺れる。

心がざらつく。


メシアの合わせ札

梅に赤短冊、桜に赤短冊、藤の短冊、柳の短冊

梅のかす、桜のかす、藤のかす、桐のかす、桐のかす、柳のかす

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