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43.“説法料”でも請求しましょうか



「……これは、“親決め”か?」


「仰る通りです。

では――一枚、めくっていただけますか?」


促されるまま、指先で一枚の札を引く。


「……俺のは、桐のかす札」


「私は……芒に月、ですね。

――よって、私が“親”となります」


札を静かに伏せ、メシアが一拍置いて口を開く。


「ここで一つ、お伺いしてもよろしいでしょうか。

……あなたは、“望みますか?”」


「……何言ってんだ?」


「ふふ、やはり。

ご存じないのですね。あなたは――」


「いや、わかんねぇよ」


「では、導きましょう」


「頼んだ」


「…………」


「どうした?」


「いえ。あまりに素直すぎて、調子が狂いました」


「知らないことを教えてくれるんなら、敵も味方も関係ないだろ。

正直、助かる」


「……はあ。

では、山札の一番上に、そっと指を添えてください。

“重ねられた運命”に――礼をもって、触れるように」


「分かった。……こうか?」


「はい。

“練って撒く”のはこちらで行います。それが、親の“つとめ”ですので」


「……お前さ。わざと難しい言い回しばっか使ってないか?」


「ええ。次からは説明に“説法料”でも請求しましょうか」


皮肉の中に笑みをにじませながら、メシアが口元をわずかに緩める。


「札を配り終えました。どうぞ」


淡々と、無表情のまま俺に伝える。

ちらと札に視線を落とし――ついでに、メシアの表情を伺う。


……やっぱり、無表情。


喜んでる風でも、落ち込んでる風でもない。

何を引いたのかも、どう思ったのかも、まるで読めない。


――これが、逆に厄介だ。


人間らしい反応を見せない分、こちらの感情だけが浮き彫りにされる。

試されているような気がして、正直、イラつく。





まったく読めない。

だから、まずは自分の札を確認する。


場を見る。

牡丹に蝶、【紅葉】のかす、【柳】に燕、柳に小野道風、梅のかす、【紅葉】に鹿、桜に赤短。


手元にあるのは――

〇萩のかす、【紅葉】のかす、菊の青短冊、芒に月、【柳】のかす、松の赤短、〇萩の短冊、〇萩のかす。


(……正直、強い)


萩は三枚。

萩を温存すれば、相手が場の萩を取ったとしても、あとで猪を取れる。


問題は、鹿。

紅葉に鹿は場にある。

けど、これ、たぶん後回しにされる。

今、場に桜の赤短が出てるから、そっちのほうが優先されやすい。


(赤短狙いなら、まずは桜。次に、牡丹か紅葉に動くとして……)


でも、牡丹に蝶のほうが取られやすい。

たね札狙いなら、今ここを狙うはずだ。


しかも、牡丹と紅葉の札構成って、同じなんだよな。

たね・青短・かす・かす、みたいな感じで。


(紅葉は場に2枚出てる。1枚取っても、もう1枚は残る。

だったら、ブロックするなら牡丹の方が筋がいい)


つまり――


(このターンで牡丹に蝶が取られなければ……猪鹿蝶、狙える)

さらに、芒に月も手札にある。

もし、菊の青短が引ければ――「月見酒」も狙える。


(……今の俺、結構強い)


そう思った、そのときだった。


「……ああ。そろそろ、“締め”に入るべき札のようですね」


メシアがぽつりと呟いた。

その声は、妙に冷たく、感情の温度を削いでいく。


序盤も序盤のタイミング。

なのに“締め”だと?


「……序盤で締めって、ずいぶん早いな。

もしかして……菊に盃でも持ってんのか?」


軽くけん制を入れると、メシアはわずかに口元を吊り上げる。

それは笑顔というよりも――嘲りに近い。


「――もし、それが、私の手中にあるのだとしたら」


一拍置いて、目を細める。


「あなたは……どう“感じ”になりますか?」


ぞくり、とした。

言葉に込められた意味以上に、その“語り口”が不気味だった。

まるで、心の底を撫でられたような気持ち悪さ。


挑発でも煽りでもない。

ただ、“答え合わせ”を楽しんでいるだけのような態度。

勝ち負けより、“相手の反応”を観察して悦ぶ、あの独特の目だ。


「……では、“一月”より、始めさせていただきましょう」


その言い方もまた、まるで演説のようだった。

丁寧な口調で、少し芝居がかっていて――

そして、そのくせ、こちらを見下ろすような目線を外さない。


花が咲くように、札がめくられる。


その手つきすら“美しい”のが、また腹立たしい。


だがその美しさの裏にあるのは――

自分の掌の上で誰かがもがく姿を、心底愉しんでいる顔だ。



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