43.“説法料”でも請求しましょうか
◇
「……これは、“親決め”か?」
「仰る通りです。
では――一枚、めくっていただけますか?」
促されるまま、指先で一枚の札を引く。
「……俺のは、桐のかす札」
「私は……芒に月、ですね。
――よって、私が“親”となります」
札を静かに伏せ、メシアが一拍置いて口を開く。
「ここで一つ、お伺いしてもよろしいでしょうか。
……あなたは、“望みますか?”」
「……何言ってんだ?」
「ふふ、やはり。
ご存じないのですね。あなたは――」
「いや、わかんねぇよ」
「では、導きましょう」
「頼んだ」
「…………」
「どうした?」
「いえ。あまりに素直すぎて、調子が狂いました」
「知らないことを教えてくれるんなら、敵も味方も関係ないだろ。
正直、助かる」
「……はあ。
では、山札の一番上に、そっと指を添えてください。
“重ねられた運命”に――礼をもって、触れるように」
「分かった。……こうか?」
「はい。
“練って撒く”のはこちらで行います。それが、親の“つとめ”ですので」
「……お前さ。わざと難しい言い回しばっか使ってないか?」
「ええ。次からは説明に“説法料”でも請求しましょうか」
皮肉の中に笑みをにじませながら、メシアが口元をわずかに緩める。
「札を配り終えました。どうぞ」
淡々と、無表情のまま俺に伝える。
ちらと札に視線を落とし――ついでに、メシアの表情を伺う。
……やっぱり、無表情。
喜んでる風でも、落ち込んでる風でもない。
何を引いたのかも、どう思ったのかも、まるで読めない。
――これが、逆に厄介だ。
人間らしい反応を見せない分、こちらの感情だけが浮き彫りにされる。
試されているような気がして、正直、イラつく。
まったく読めない。
だから、まずは自分の札を確認する。
場を見る。
牡丹に蝶、【紅葉】のかす、【柳】に燕、柳に小野道風、梅のかす、【紅葉】に鹿、桜に赤短。
手元にあるのは――
〇萩のかす、【紅葉】のかす、菊の青短冊、芒に月、【柳】のかす、松の赤短、〇萩の短冊、〇萩のかす。
(……正直、強い)
萩は三枚。
萩を温存すれば、相手が場の萩を取ったとしても、あとで猪を取れる。
問題は、鹿。
紅葉に鹿は場にある。
けど、これ、たぶん後回しにされる。
今、場に桜の赤短が出てるから、そっちのほうが優先されやすい。
(赤短狙いなら、まずは桜。次に、牡丹か紅葉に動くとして……)
でも、牡丹に蝶のほうが取られやすい。
たね札狙いなら、今ここを狙うはずだ。
しかも、牡丹と紅葉の札構成って、同じなんだよな。
たね・青短・かす・かす、みたいな感じで。
(紅葉は場に2枚出てる。1枚取っても、もう1枚は残る。
だったら、ブロックするなら牡丹の方が筋がいい)
つまり――
(このターンで牡丹に蝶が取られなければ……猪鹿蝶、狙える)
さらに、芒に月も手札にある。
もし、菊の青短が引ければ――「月見酒」も狙える。
(……今の俺、結構強い)
そう思った、そのときだった。
「……ああ。そろそろ、“締め”に入るべき札のようですね」
メシアがぽつりと呟いた。
その声は、妙に冷たく、感情の温度を削いでいく。
序盤も序盤のタイミング。
なのに“締め”だと?
「……序盤で締めって、ずいぶん早いな。
もしかして……菊に盃でも持ってんのか?」
軽くけん制を入れると、メシアはわずかに口元を吊り上げる。
それは笑顔というよりも――嘲りに近い。
「――もし、それが、私の手中にあるのだとしたら」
一拍置いて、目を細める。
「あなたは……どう“感じ”になりますか?」
ぞくり、とした。
言葉に込められた意味以上に、その“語り口”が不気味だった。
まるで、心の底を撫でられたような気持ち悪さ。
挑発でも煽りでもない。
ただ、“答え合わせ”を楽しんでいるだけのような態度。
勝ち負けより、“相手の反応”を観察して悦ぶ、あの独特の目だ。
「……では、“一月”より、始めさせていただきましょう」
その言い方もまた、まるで演説のようだった。
丁寧な口調で、少し芝居がかっていて――
そして、そのくせ、こちらを見下ろすような目線を外さない。
花が咲くように、札がめくられる。
その手つきすら“美しい”のが、また腹立たしい。
だがその美しさの裏にあるのは――
自分の掌の上で誰かがもがく姿を、心底愉しんでいる顔だ。
◇




