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32.約束は果たすまで、果てない事を分からせる



……気がついた時、まず視界に入ったのは、天井だった。

どこまでも静かで、やけに――無機質。


「……っ」


身体を起こそうとした瞬間、重たい鎖のような鈍さが背中を引いた。

鈍い頭痛。ぼんやりとした感覚。


……そして、思い出した。


紫藤が――連れて行かれたこと。

雨柳が、動けなかったこと。

俺が――何もできなかったこと。



「やっと、起きたね」



声がした。

ゆったりと、まるで午後の紅茶の時間みたいに。

そのテンポが、逆に怖いくらいだった。



「……蝶谷」


喉がひりついていたが、名前ははっきり出た。


ベッドの傍らにいたのは、長い髪の男――蝶谷 夜白。

その瞳は笑っていたけれど、底は見えなかった。


「……どうして……」


「うん?」


「どうして……こんなこと、するんだよ」


自分の声が、かすれていた。

でも、怒りははっきりとあった。

訳が分からない。

記憶だってない。

何も望んで、ここに来たわけじゃないのに――。


「俺は……!巻き込まれただけだろ……!

記憶も、ないんだよ!?

俺がこの学苑で、誰かと一緒に暮らしてた?鬼雷と?

そんなの、知らない!

なのに、なんで……!」


声が止まらなかった。

言いたくなかった。

けれど、怒りが堰を切ったようにあふれ出す。


「やっと、山田に会えたんだ……!雨柳とも普通に話せた。


“生徒”として、ここで生きられるかもしれないって、思ったのに……っ!


なんで、お前が俺を――連れてくるんだよ!!何様だよ、蝶谷!」


蝶谷はただ、穏やかに瞬きを一つしただけだった。


そして、まるで子どもに話しかけるような声で言った。


「学校ってさ、社会の縮図って、言うよね」


「……は?」


「集められて、ルール作って、順位が決まって……

勝ったやつが、自由になる。


――それが、この場所だよ」


「なに言って――」


「つまり、ここは“実験場”なんだ。

自由に見せかけて、誰が残るか、誰が使い捨てられるか。

全部、試されてる」


ふわりと笑う蝶谷。


わからない。

けれど、彼の口から出る“当たり前”は、否応なしに突き刺さった。


「俺、教えたよね。札の打ち方、勝ち方。

……あれがなければ、名取くんは“ただの犠牲者”で終わってた」


「だからって――!」


「でも君は、自分から勝ちには行かなかった。


守ろうとして、縋って、結局……何もできなかった」


その声は、眠たげなまま。

けれど、言葉の奥にあるものは、残酷だった。


「“自由”はね、勝者にだけ許される。

負けた人に、選ぶ権利なんてないの」


「……っ!」


「だから、ここからは――」


蝶谷はゆっくりと笑った。


「“俺のやり方”に付き合ってもらうよ。

君を“壊す”としても、ちゃんと“使える形”で、生かすためにね」


――その優しさが、何よりも怖かった。


カチッ。


金属の音が、耳を刺した。


「……え、なにこれ……」


「首輪」


「は?」


「そういう関係、ってことで」


――首筋に冷たい感触が貼りつく。

革と金属。

そして、天井から――鎖が伸びていた。


「……嘘だろ……」


「出られないよ。この部屋から」


蝶谷はさらりと頷いた。


「鎖の長さは“塔の中”だけって決めてある。

外には出られない。仇討ちも行けない。

会える相手も、俺が決める」


「……おい、ふざけんなよ……!」


「食事と着替えは届けるよ。

お風呂は週に二回、見張り付きで許可するね。


誰かに会いたくても、申請しない限り却下。

……たとえ申請しても、俺が“ダメ”って言ったら、終わり」


口が開いたが、声にならなかった。


「やめろ……やめろよ……っ!!」


叫ぶ。震える。

怒りじゃない。恐怖だった。


「君を、守るためだよ」


蝶谷の声は、いつもと変わらない。眠たげで、やさしい。


「君は誰かのために壊れるタイプだよ。

だったら、せめて……壊す側くらい、俺に選ばせてよ」


「そんなの――勝手だ!」


「うん。勝手だよ?」


心の底から楽しそうに、蝶谷は笑った。


「でもね、君がどこかで壊れるくらいなら――


俺の目の前で、壊れてほしい」


「一番いい席で、最初から最後まで、全部見ていたいんだ。

……“管理下で”、ね」


その一言で、名取の体温が、すうっと下がった。


未来を、壊される予定が――もう、組まれていた。


「嫌なら、俺と仇討ちして勝って。

……って言いたいとこだけど。

君と戦いたいって人がいてね。

俺は、後回しでいいや」


くすくすと笑う蝶谷。

その瞳だけが、どこまでも本気だった。

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