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28.小さな等身大の王様ゲーム団体戦



「願いが“消える”わけじゃないんです。

――自分の力でなんとかすればいいだけ、ってことですから」


山田は、いつもの調子で笑っている。

強がってるのか、本当に余裕なのか。


「……そんな簡単に割り切れるもんなのかよ」


俺がぼそっと返すと、卯月はケロッとした顔で言ってくる。


「割り切れないから、笑うんですよ?

ね? 大人っぽい名言っぽくないですか?」


「っぽくはあるな。中身があるかはともかく」


「ひどくないですか!? わりと渾身だったんですけど!」


そう言いながらも、卯月は優雅にナイフでステーキを切っていた。

なんかこういう時だけ、貴族オーラ出してくるの、地味にムカつく。


「……仇花になったら、それで終了ってわけなんか?」


「いえいえ、ちゃんと“敗者復活戦”ありますよ。

しかも、理事長面談付き」


「再入学試験みたいだな」


「はい。仇花になった人は、理事長と“個人面談”できるんです。

条件が合えば、新しい仇をもらえることも」


「つまり、やり直しできる……?」


「理論上は、ですね。

でも実際には――仇花になった人の半分くらいは、自主退学を選ぶそうです」


「半分も?」


「仇花って、"願いが一気に遠ざかる”感じがして、結構キツいんですよ。

それまで“支えてもらってた”のが、突然ゼロになるわけですし」


「……まあ、人って希望が消えかけると脆いよな」


「で、しかもですよ」


山田は、何気ないふうにスプーンを指でくるくる回しながら続ける。


「この学苑、退学すると――在学中の記憶が全部消えます」


「は?」


「仇討ちのことも、友達のことも、願いすらも。まっさら。

朝起きたら“夢だったのかな?”みたいな感じで日常に戻ってます」


「え、じゃあ……普通の高校生活に戻るってこと?」


「そう。でも――それでもまた戻ってくる人、いるんですよ。

何も覚えてないのに、なぜか“ここに戻らなきゃ”って思っちゃう人」


「……怖。都市伝説かよ」


「本能で来るんですよ。魂に引っ張られる感じですかね?」


「いや軽く言ってるけど、それ相当怖い話だぞ」


「まあまあ。願いって、そういうもんですから」


“そういうもん”に込められてるものが、かなり重いんだろうな。


「で、卯月の仇花、いくつあるんだよ」


雨柳が思い出したように口を挟んでくる。


「覚えてるのは……1つ? でも、理事長に言われました。忘れてるのが2つあるって」


「合計3!? 達磨ギリギリじゃねぇか!」


雨柳がフォークを落としそうになる。俺もつられて固まる。


「本当に大丈夫なのか?」


「少し落ち込んでた時期もありましたけど! 今はもう、開き直ってます!」


山田は肩をすくめて笑った。


「でも不思議なもんで、笑ってると勝てるんですよね。

昔はもっとこう、貴族らしく“願いのために”みたいな感じだったんですけど――力みすぎて空回りしてて」


「確かに前まではおしとやかな感じだったよな、卯月って。

こんなにうるさい奴とは思ってなかった!」


「煩いとはなんですか!全くもってその通りですよ!」


「否定しないんだな」


「はい。

ちなみに"仇花"は3つですが、"仇"の方は5つあります」


「……5? 勝っているんだな」


「はい。なので、朗報です。

進級できれば、余った仇で"仇花"のペナルティは消してもらえるそうです」


「なら、達磨は回避できそうなのか?」


「そうです! ただし、"勝ち続ければ”ですけどね」


卯月はフォークをくるっと回して、少し首をかしげてみせた。


「なので今は、“仇討ちしてくれそうで、ちょっと弱そうな人”を探してます」


「それ、めちゃくちゃ失礼な戦略だぞ……」


「えっ? でも現実って、割とそういうもんじゃないですか?」


あっけらかんとした顔で言うな。


「ホントは、強い人と真っ向勝負してみたいんですよ。熱い感じのやつ。

でもそういう人に挑んで、"はい、達磨”ってなったら笑えないですし――」


「まあ、確かに。負けたら人生終了は、主人公でもきついな」


「しかもですよ? 強い人って、たまに“理不尽に強い”んですよね。

“あ、ボクは、物語の中心じゃないんだ”って気づかされる瞬間が、一番メンタル削れるっていうか……」


「分かる気すんなー!

結局、"偉い奴が勝つ”みたいなとこあるしな!

あとオレ、喧嘩で殴ってる時に、体格差とか想像すると『うわこれ絶対痛いだろ……』って思って、地味に心やられる」


「雨柳に殴られたら、物理的にも精神的にもダメージでかそうだな……」


「そうそう! だから戦うなら、できれば同じくらいか――ちょっとだけ弱い人が理想です。

あと、アドバイスとかもしません。ライバルに手加減とか、ないですから」


さらっと言い切る山田。

すぐに続けて、少し声をやわらげた。


「……とはいえ、名取くんみたいな人は放っておけませんでしたけど!」


「俺? ……なんかしたか?」


思わず首をかしげると、山田はぱちっとウインクしてくる。


「はい、今、誤魔化しましたね?

でもまあ……今の顔が良いので、良しとします!」


「なんだその雑な基準……」


照れくさくなって、

手元の“アヤメとショウブとカキツバタのエルダーフラワー・ジュレ仕立て微発泡ソーダ”――という、もはや一文で息切れしそうなドリンクを一口すする。


……意外とすっきりしてて、美味かった。



「「……でも、正直な話、最初から覚悟決めて入ってくる人なんて、ほとんどいませんよ」


「へえ。意外」


「だいたい“なんとなく”ですよ。“なんとなく入って、なんとなく願って、なんとなく負けて、仇花になる”――それが、この学苑のスタンダードです」


「なんかこう……地味にリアルだな、その“なんとなく”地獄」


「生徒の半分くらい、“あれ、俺何しに来たんだっけ?”って思ってますよ。

でも、仇を抱えた瞬間に、学苑って急に現実味を帯びてくるんです」


「じゃあ、“シマ”に入るのも、その“なんとなく”で決まるのか?」


俺がそう尋ねると、卯月はナイフを置いて、フォークの柄をくるくる指で回しながらうなずいた。


「ええ。“誰の下で戦いたいか”って、それだけです。

言い換えれば――“どの王様についていくか”って話です」


「王様?」


「自分の願いを否定しない相手。

一緒にいたら、"意味がある”って思える人。

理屈より、"この人となら信じられる気がする”って感覚。……シマって、そういう場所なんです」


「ふーん……意外とロマンチックなんだな、シマ」


「ちょっとだけ中二病っぽさもありますけどね。『この人こそ、我が王!』みたいなやつ」


「やめろ、それ一気に胡散臭くなるだろ」


ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。


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