第0話 才能開花
『ある日、人々の【才能】が次々と開花した。人より少し運動神経がいいとか、早く計算ができるとか、そういう次元のものじゃない。いわば超能力、そういったものが世界で瞬く間に広がった。人間は、何時しかそれを【才能】と呼び、それを持っているものが優遇され、持っていないものは淘汰される。そんな世界ができてしまった。こんな世界が間違っていないはずがない。だから、変えなきゃいけないんだ!』
「ふぅ」
終礼が終わり一息つく。このままいくと、今日も何の変哲もない一日を過ごして明日を迎えることになる。ただ、それがいいのだ。俺は大きな問題もなく、変化のないまま人生を過ごしたいんだ。だから心から常に願っている。もう、世界は変わってほしくないと。
約100年前、世界中の人々の才能が開花した。最初の頃は、少しだけ人より筋肉の成長が速かったり、計算のスピードが速かったりと些細な事だった。ただ、そこから一年、また一年と過ぎていくたびにどんどん大きなものへと進化していった。例えば、物に触らず動かしたり、相手の心を読んだりと、そういったことを一人の人間ができるようになった。人々はそれを”才能”といった。簡単に言うと超能力といった感じだ。それは生まれた時点で決まり、人によってさまざまだから才能と呼ばれている。それからだ、才能者(才能のあるもの)が優遇され、無才者(才能のないもの)が淘汰される。そんな世界が出来上がってしまったのは。
そして現在、才能至上主義となったこの世界で、俺はランクBという何とも言えない位置にいた。この学校は下から順に F E D C B A S という評価でランクとクラスに分けられている。
こういう学校でもし、漫画の主人公だったら、才能を隠してクラスFになり、そこから才能がバレてとか、最初からランクS程の才能を持っててみたいな、そんな展開があるだがな。そういうのって正直、ランクFとかS以外はあんまり出てこない。なぜなら、強すぎるわけでもなく、弱すぎるわけでもない、中途半端だからだ。難しい感情である。
「よし、さっさと帰って寝ますか」
そう声に出して言う頃には、教室には誰もいなかった。少し考え事をしすぎたみたいだ。と思いながら席を立ち、帰路をたどる。
この学校は全寮制だ。もちろんだがクラス評価によって室内は異なる。上がっていくほど好待遇になるのだ。俺の場合、ランクBだからそこそこな部屋にいる。1DKといったところか。噂によるとクラスSレベルになると2階もあるらしい。いやはや恐ろしいほどの好待遇だ。才能至上主義のこの世界だからこそ許されている特権だな。そんなことを思いながら自分の部屋の鍵を開けて中に入る。
「ただいま」
誰もいない部屋にこだまする。そしてスイッチを押して明かりをつける。
「あれ、今日は来てないのか。珍しいな」
と、思わず声をこぼしてしまったのには理由がある。それは、ほぼ毎日この部屋には俺の妹が来るのだ。
「まぁどうでもいいか」
あんまり妹のことは考えたくないのでこの話はここで終わりだ。
荷物を適当に投げてベットに飛び込む。正直なところふかふか過ぎてこのまま寝てしまいそうだ。
「やばっ」
本気で寝てしまいそうだったため慌てて飛び起きる。教室でああは言ったが、もちろん冗談である。
俺にはやらなきゃいけないことがある。そう、勉強である。といってもただの勉学じゃない。才能を磨くための勉強だ。この学校は才能で実力を見るからな。俺はどうなんだって?そんなの決まってるだろ中途半端だよ言わせんなよ。でも、ほとんどは才能による戦闘が求められているが一部例外もある。頭に才能を全振りしたやつとかもいるからな。才能のあるやつか、一部に特に偏ったやつじゃないとランクSとかにはいけないな。
というわけで才能を磨こうと思うんだが、ここで俺の才能についての説明をしようか。
俺の才能は『反転』これを最初聞いたときに浮かんだのは物と物の場所を反転させる、つまり入れ替えるってことだ。ただし、この才能を発動するには条件が必要なのだ。これは、全人類共通して言えること。
それで俺の条件はというと、一度でもいいからその対象に触れておく必要がある。だから物を入れ替える、正確に言うと物と物の場所を反転させるには、その二つのものに触れておく必要がある。ちなみに一度触れたら約24時間もつ。俺はこれを使って自分と相手の位置を入れ替えて混乱させ、戦っている。ほかに何かできないかと思ったが俺には何も浮かばなかった。才能は自分自身でもわからないことが多い。下手に使って自爆するよりかは全然いい。だから俺は、毎日ちょっとずつ自分の才能を理解しようとしているのだ。(まだまだ分からないことだらけなんですけどね)とそんな悲しいことを考えながら才能磨きに奮闘する俺であった…。
あれからやる気が燃え尽きた俺は、ご飯を食べ風呂に入り現在ベットにもぐり込んでいた。ちなみに、料理はできる。味に保証はない!なぜかこれには自信があった。また悲しくなったので早く寝よう。
そして次の日、朝は特に何もなく部屋を出発し、教室につき席に座る。周りは静かだなって当たり前の話か。この学校は個人戦。ほかは知らないがランクB以上の人たちは上に行こうと必死で、クラスメイトとなれあおうとしてる奴なんていない。
〈ガラガラガラ〉
ランクB担任の女教師が入ってきた。その教師は持ってきた書類を教卓に置き、話なじめる。
「よし、お前たち、全員座ってるな。理解してると思うが明日から中間試験がある」
そう、この学校には学期ごと中間試験、ならびに期末試験、そして突発的に行われる特別試験の3つがある。このどれかの試験で好成績を出したものはクラスとランクのアップがあり、出せなかったものはクラスとランクのダウン、つまり俺でいうBからCに下がるってことだ。
「今回の試験内容を発表する。才能使用がOKの一対一、タイマンだ。」
タイマンか。俺的には、完全に相手次第だな。A以上が来たら確実に勝てないだろう。Bですら怪しいのに。
「では、この試験のルールを説明する。今回はなんでもありの試験だ。対戦相手はこちら側でランダムに決めさせてもらっている。そして今日中にお互いの対戦相手を発表する。決められた相手と戦い、結果最後までたっていたやつが勝ちそれだけだ。」
この世界は才能至上主義、ランクSのやつがもし人を殺しても何も言われないのかもしれないな。
ちなみに、こういう試験は今までなかったわけではない。去年、一度俺も行っている。この試験で心配するのは2つ。まず、当たり前だが勝てるかどうかだ。ここは相手がわからない限り何もできない。
もう一つは、自分の戦い方をほかの人に見られてしまうということ。この試験は、学校の中で一番広い体育館で行われる。噂によれば、この体育館は世界最高硬度の素材をある人間の才能によってさらに固くしたもので作られているらしい。今までどんな才能のあるやつでも壊れたことがない、と言われている。ま、俺には関係ない話だ。それより、相手が発表されるまではとりあえず、新しい戦法を考えておこう。
それから一日のほとんどが終わり対戦相手の表が壁に貼り付けられていた。中にはクラスランクB同士で戦うものもいたり、クラスFとクラスAとかいう絶望的な組み合わせなのもある。そんな中俺のを探すと、視界に入ったのは俺のランクと名前、そして、その横に書いてある対戦相手を見て俺は絶句してしまったのだった。
寮への帰り道、絶望しながら歩いている。間違いなく負ける、勝てるわけがない。そしてここで負ける。ランクBは維持しときたかったんだけど。
「ここまで結構、苦労したんだけどなぁ。」
思わずこぼれ出る声。なんせ俺の対戦相手は、
【クラスランクA 第7位 レイ・インソリット】
クラスランクAの上位者だったからである。