12. ゲームの中で悪いことしている人がいる? そんなアニメみたいなことあるわけないでしょ!
「つ、連れて来いって……」
「よ~し、悪党退治だ!」
「い、いいのかな……」
ラスレイが黒幕に個チャで今の状況を説明すると、黒幕は発喜を連れてくるように指示を出した。元々行く気満々だった発喜は望むところだと言わんばかりに大喜びだ。
「それじゃあラスレイちゃん、案内して!」
「で、でも危険ですよ?」
「大丈夫大丈夫!」
一体どこからその自信が湧いて来るのか。
ラスレイは連れて行きたくはないのだが、発喜はどうしても行きたいと拒否できる空気ではない。
「ほ、本当にひどい目に遭いますよ!」
「ラスレイちゃんの方がもっと酷い目に遭ってるでしょ?」
「だ、だからそういうこと言わないでください!も、もっと連れて行きにくくなっちゃいます!」
「え~」
発喜が良い人ムーブをすることで、より連れて行きたく無くなるのだと分かっているのだろうか。
「さ、最悪私が我慢すれば良いだけですから」
「そんなのダメ!ラスレイちゃんは私が守る!」
「ど、どうしてそんなに私の事を……?」
今日会ったばかりで、しかも葛藤していたとはいえ発喜を陥れようとした相手だ。身を呈して守ろうだなどと思うのは不自然だ。
「なんでって、脅されてるなんて可哀想でしょ?」
「え?」
何を妙な質問をしているのか。そうとでも言いたげに不思議そうに首をかしげる姿に、ラスレイは戦慄した。
彼女は自分が危険になろうとも困っている人を助けることが当然だと心から思っているのだと気付いてしまったから。
それほど良い人を自分が傷つけようとしていたことにショックを受け、彼女はとある覚悟を抱いた。
「わ、分かりました。お、お連れします。で、でも危なかったら絶対に逃げてくださいね」
「は~い」
どうにも信用できない軽い返事だが、腹を括ったラスレイはいざとなったら自分がどうにかするしかないと思い彼女をその場所へと案内する。
フリズム大渓谷。
百メートルくらいあるのではと思える程の高い崖に囲まれたその場所は、かなりの広さがあり中央に一本の中規模の川が流れている。崖と崖の間が距離があるため、太陽の光がしっかりと差し込み渓谷の底を歩いてもかなり明るい。
「うわぁ壮大だね!」
日本でも渓谷はあるが数キロも壁のような崖が続く景色が果たしてあるかどうか。アメリカのグランドキャニオンに匹敵する力強い景色が発喜の興奮を激しく誘った。
「こ、ここの魔物は大運の森のより強いから気を付けてください。れ、例の武器があるから大丈夫だとは思いますけど……」
リアルラックのせいで百発百中、百パーセントクリティカルというチートにしか思えない性能を発揮する武器を持っているのだ。少しばかり格上であっても十分に通用するだろう。
『ピィー!』
小型の鷹のような魔物、バグホーク。うるさい鷹という意味で、逃げようとしてもしつこく追って来る。
「ふっふっふっ、トンボ取りよ!」
どこかのゲームで覚えた単語を嬉々として使い、バグホークに向けてメルシアスの弓をつがえた。
ゲームによっては飛ぶ相手に対し弓が特攻性能があるが、自在に空を駆ける小さな鳥に当てるのは相当な技量が必要だ。
だがそんな技量など発喜のリアルラックの高さによれば意味が無い。
「えーい!」
適当に放ったその一撃はロックオン機能でもあるかのように不自然な軌道を描きバグホークの眉間に突き刺さった。
「やったね!」
一撃でバグホークを撃破した発喜の姿を、ラスレイはもう慣れたのか渇いた目で見ることしか出来なかった。
「は、はは。しょ、初心者向けの関門がこうもあっさり……」
初心者から中級者に向けて徐々に魔物が強くなって行く。バグホークはその登竜門とも言える魔物の一種で、突撃鳥とは違い動きが不規則で攻撃を当てにくいため倒すには工夫が必要だ。リアルラックを活かせる武器を入手したというのは、その登竜門を突破するための一つの手段とも言えよう。
「それでどっちに行ったら良いの?」
「も、もう少ししたら右に逸れる道があるので、そっちに入ってください」
「右ね!了解!」
バグホークを倒したことでレベルが上がったので、ステータスウィンドウを開いてステータスを変えてから元気良く歩く。その堂々とした背中を見たラスレイは、不思議とこの先の展開がどうにかなるのではないかと思えて来た。
「そ、そういえば発喜様はそろそろスキルを覚えました?」
フォーチュンファイターに転職してからレベルが結構上昇し、こまめにステータスを変更しているので、余程変な割り振りをしていない限りはスキルを覚える条件を満たしているはずだ。
「うん。覚えてるよ。ラッキーアタックと、食いしばりかな」
ラッキーアタックは運の値にスキルレベルに応じた倍率を乗算したものと力の値を加算して威力計算した通常攻撃。もちろんクリティカルの場合はさらにその威力は増加する。フォーチュンファイターの基本スキルだ。
食いしばりはHPが十パーセント以上の時に一気にゼロになる攻撃を受けた時、確率でHPが一だけ残るスキル。確率系のスキルなので発喜の場合はほぼ確実に発動する。
つまり初期スキルのラックアップをかけて運の値を上昇させてからラッキーアタックで威力の高い攻撃を繰り出し敵を倒すのがフォーチュンファイターの基本戦法となる。他にも技はあるが、最初はこれらを駆使して戦闘するのが普通のやり方だ。
「い、一気に強くなっちゃいそうですね……」
だがその未来を己が閉ざそうとしている。
発喜が楽しんでゲームをプレイし、周囲を驚かせ、騒動を巻き起こす。
そんな素敵な毎日が来るはずなのに、全てをぶち壊そうとしている。
「(う、ううん。わ、私がなんとかしないと)」
脅されて引き返せない状況に追い込まれているけれど、せめて発喜だけでも助けたい。その想いがラスレイの背中を押した。
「そ、そこを右です」
そしてついに発喜とラスレイは、黒幕の元へと到着する。
--------
「よく来たな」
渓谷の中に存在する無数の脇道の一つ。その最奥にある小さな広場にそいつらはいた。
発喜を見てやらしい顔を浮かべる五人の下卑た男達。アバターもまるで山賊か盗賊かといった風貌で、パワーファイター系が勢揃いしている。
「お望み通り来てやったわよ!」
女性であれば尻込みしてしまいそうな状況なのに、発喜は男達と堂々と向かい合った。
「ほう、威勢が良いな」
発喜と相対するのは大きな岩の上に座る、上半身にたっぷりの入れ墨を入れた男だった。入れ墨はもちろんアバターのデコレーションの一つなのだが、不思議とリアルでも似たような風貌なのではという気がした。
中央にいるので、ポジション的にリーダーなのだろう。
「ラスレイちゃんを解放しなさい!」
「あぁ?何言ってんだ?」
「貴方達がラスレイちゃんを脅して言うことを聞かせてるんでしょ!」
なんの駆け引きもせずに真正面からぶっこむ発喜。そもそも駆け引きなど出来るようなタイプではないので仕方ない。
「お前ら、この女が言ってること分かるか?」
リーダーが仲間達にわざとらしく聞くと、男らは露骨に嘲笑する。
「意味分からないッスね」
「ラスレイちゃんは自分から協力してくれてるんだぜ」
「ねぇ~ラ・ス・レ・イ・ちゃ~ん」
「ぎゃははは!」
発喜がチラりと背後のラスレイを確認すると、彼女は俯いてプルプルと震えていた。
だがそれは恐怖によるものだけではない。
勇気を出そうと必死に歯を食いしばり、拳を握っているからこそ震えていたのだ。
「ち、違います!」
まさかラスレイが反抗してくるとは思わなかったのだろう。男達の表情が変化した。驚愕、そして怒りへと。
「自分が何を言っているのか分かってるのかな?」
「そうそう、まさかアレのこと忘れてるわけじゃないよな」
「もしかしたら俺達、操作ミスって世界中にばらまいちゃうかもしれないぜ」
「そしたらラスレイちゃんの家族は終わりだね!」
FMOのAIにBANされる可能性を考えてか、彼らは直接的な表現を避けながら、彼らとラスレイだけが分かるような話し方をして脅して来た。だが今のラスレイはそれでも止まらなかった。
「も、もうそんな脅しには屈しません!」
「だ~か~ら~、人聞きが悪いこと言わないでよ。君が自分から協力してくれてるんだよね?」
あくまでも自分達は何も脅してはいないのだと男の一人が主張していた。本当に脅されているのであれば、そう言われればハイと答えるしかない醜悪なやり方だ。
「だ、だから私はもう!」
「良いぜ」
ラスレイが必死に抵抗しようとしたら、リーダーらしき男が話をぶった切った。
「お前が俺達に協力したくないってんならそれで良い。俺達はもうお前にちょっかいを出さねーよ」
「え?」
「それに例のアレも消してやる」
「え?」
それはつまりラスレイが本当に彼らから解放され、もう脅されなくなるという意味だ。もちろんそんな旨い話に裏が無い訳が無い。
「ただし条件がある」
「じょ、条件……」
リーダーの男とラスレイは同時に発喜を見た。
「南城発喜。お前はラスレイから相談を受けたはずだ。それを受けろ。そしてラスレイは受け取ったブツを俺達に渡せ。そうしたら解放してやるよ」
発喜を身代わりにすればラスレイは解放される。
男はそう言っているのだ。
その条件に猛烈に反応したのはラスレイだ。
「そ、そんなこと出来るはずが!」
恩人を差し出して自分だけが助かるなど出来ない。ラスレイはまだそこまで堕ちてはいなかった。
「そうか?会ったばかりの見ず知らずの女を差し出せばお前は楽になるんだぜ。こんな破格の条件は無いだろ」
それはまさに悪魔のささやき。
ラスレイの解放されたいという心からの望みにつけこみ、男の条件を果たすための理由を与える。
「わ、わたしは……そ、そんなことは……」
事実、ラスレイの心は揺れてしまっていた。それほどまでに脅されていた毎日がしんどかったのだ。それが本当に終わるというのなら、会ったばかりの発喜を捧げる程度で済むのなら、選ぶべきでは無いかと思いそうになってしまう。
「ふざけないで!」
ラスレイの心を甚振るような男のやり方に、発喜は激怒した。
「ラスレイちゃんは貴方達の卑怯なやり方になんて屈しないもん!」
その反応すら男にとっては想定内だったのか、邪魔されたことに不満すら漏らさず発喜を相手にする。
「別に俺はどっちでも良い」
「え?」
「ラスレイがどうなろうが関係ないってことだ。俺が必要としているのはお前だ」
男にとってラスレイはもう興味の対象ではなく、発喜こそが喉から手が出る程欲しい相手となっていた。
「例の条件を呑め、南城発喜。そうすればラスレイを解放しよう」
「な!」
「お前は他人の不幸を見過ごせないタイプだろ。だからラスレイが何を考えようが関係ない。お前の判断次第でどうなるかが決まるだけだ」
「卑怯者!」
どれだけラスレイが覚悟しようとも意味が無い。男は発喜を思い通りにするためなら何でもするのだから。
「ひ、発喜様。わ、私はどうなっても構いません!」
「そんなわけないでしょ!」
そして発喜は絶対にラスレイを見捨てない。よってラスレイにはこの状況をひっくり返す術が無い。
「そ、そんな……ど、どうすれば……こ、このままじゃ発喜様が……」
自分と同じように卑怯な男達に良いように弄ばれてしまう。
いや、自分よりも悲惨な目に遭う未来が思い浮かんでしまう。
「くっくっくっ、さぁどうする南城発喜」
「くっ…………」
悔しそうに唇を噛む発喜。
勢い良く乗り込んだは良いものの、男達は彼女を罠で絡めとる準備が万端だった。というよりも、ラスレイを動かして声をかけさせた時点でここまでの展開を予測していた。
「どうして……」
「あぁ?」
「どうしてこんな回りくどいことするのよ!私に用があるなら直接うちに来れば良いじゃない!」
発喜は個人情報を隠さない。家を聞かれれば素直に答えるだろう。
「お前、自分の家の周りがどうなってるのか知らないのか?」
「え?」
「知らないのか……まぁそうだよな」
何故か男達の顔が引き攣っている。
意味の分からない質問に発喜も首をかしげることしか出来ない。
「こっちにはこっちの事情があるんだ。そんなことはどうでも良いだろ。さっさとラスレイが告げた通りのものをよこせ!」
発喜の裸の写真。それを入手することで男達は発喜を思い通りに動かそうとしていた。美少女JDの発喜そのものを手に入れ、しかもゲーム内アイテムを好きなだけ取り出し放題ということで莫大な金も入手できる。
発喜は欲深き男達にとって最高の宝なのだ。
こうなるから個人情報は公開すべきではなかった。
こうなるからアイテムを持ち帰れることは秘匿すべきだった。
だが待って欲しい。
果たして豪運の持ち主である発喜がこんなピンチに陥るものだろうか。
「もう良い。あんたたちみたいな悪人は私が成敗してやる!」
発喜は芝居がかった口調でメルシアスの弓を取り出し、リーダーの男に狙いを定めた。
「お、おい、俺を攻撃しても意味は無」
「うるさい。喰らえ!」
「ぎゃ!」
勢い良く飛んだ矢が男の額に直撃し、男は思わず小さな悲鳴をあげてしまった。
だがゲーム内で男を倒したとして、ラスレイが脅されている事実は全く変わらない。
発喜の攻撃は何も意味が無い。
「ヨシ!」
「よし、じゃねーよ!何しやがる!ちゃんと話を聞いてたのか!?俺を倒しても意味」
「次!」
「うおおおお!ぐはぁ!こいつ曲がって!?」
再び不意をついて攻撃した発喜だが、今度は男も立ち上がって避けようとする。だが矢は男を追跡し、今度は尻に刺さったではないか。
「ば、馬鹿にしやがって……!おい、お前ら!とりあえずそいつを大人しくさせろ!」
このままではまともに話も出来ない。そう思った男達はひとまず発喜を無効化することに決めた。
男達の平均レベルは五十。
発喜のレベルは二十三。
倍以上も離れたレベル差に、力と耐久が特徴的な戦士タイプの男達が相手となると、いくらクリティカル攻撃が出来たとしても中々ダメージを与えられない。
だがそれでも発喜は嬉々として男達に襲い掛かった。
「なんだこいつ!フォーチュンファイターじゃなかったのか!?」
「矢がホーミングしてくる!?」
「しかも全部クリティカルとかどうなってんだよ!」
男達が驚いている間にも、発喜は次々と矢を放つ。
「その程度のレベルで歯向かおうだなんて甘いんだよ!」
最初に攻撃を受けたからかリーダーだけはすぐに正気に戻り、岩から飛び降りて発喜に襲い掛かった。
「死ねぇ!インパクトブレイク!」
片手斧を使った力任せの一撃だ。防具を破壊しながら強力なダメージを与えるスキルであり、喰らってしまえば発喜は一撃で死んでしまうだろう。
「きゃああああ!」
発喜は他の男達に狙いを定めている途中であり、上から振って来たその男の攻撃を見ていなかった。そのためインパクトブレイクをまともに喰らい吹き飛ばされた。
「ひ、発喜様!」
慌ててラスレイが駆け寄ろうとするが、男達が行く手を塞ぎ、しかも体を掴まれてしまった。
「へへ、つーかまえた」
「いやああああ!」
ゲームのアバターなので捕まったところでどうにもならないが、まるで自分の未来を暗示しているかのようで思わず悲鳴をあげてしまった。
「う……うう……ん……」
そんなラスレイの耳に発喜の声が聞こえて来た。
「いった~い。良くもやってくれたわね!」
「チッ、食いしばりか。運の良い奴だ」
そうなんです、豪運だから百パーセント発動なんです。
「今度はこっちの番よ!ラッキーアタック!」
発喜の現時点での最強の一撃。
メルシアスの弓の性能により力と器用さと運の合計値が基準となり、そこにラッキーアタックで倍率がかけられた運の値が更に加算され、しかも確定クリティカルとなればレベル五十程度の相手であれば十分に効果がある。
「はん、こんな攻撃なんていくら喰らっても……うおおお、HPが二割も削られただと!?」
かなりの格下からこれほどまでのダメージを負うとは思わなかったのだろう。
焦る男に発喜が追撃をかけようとする。
「このまま押し切るよ!ラッキーアタック!」
「くそ、こんな初心者に負けてられるか!」
ラッキーアタックを五連続喰らってしまったら敗北確定だ。その前に発喜の残り僅かな体力を削りきるか、それとも回復をしながら攻撃をしのぐか。
男は本気を出さねばならないのかと苛立ったが、残念ながら勝負はもうついていた。
『ブー!ブー!ブー!プレイヤーに対する攻撃を検知しました。対象プレイヤーをゲームから隔離します』
このゲームではプレイヤーに対する攻撃、いわゆるPKは禁止されている。悪意のある攻撃をしたプレイヤーは隔離され、酷い内容であればそのままBANされてしまう。
男は発喜をスキルで倒そうとしたのだから一発アウトだ。
「何で俺だけええええ!」
だが先に攻撃したのは発喜だ。それにも関わらず発喜には何もペナルティが無い。だからこそ男も攻撃して良いのかと思って反撃してしまったのだ。
発喜だけは許され、男は許されなかった。
それは男達の卑劣な行動をAIが理解していたからなのか、あるいは発喜は特別キャラとして運営に保護されているからなのか、あるいは単なる豪運によりバグか発生したのか。
どちらにしろ男は無情にもその場からドロップアウトした。
「え、あれ?」
「なんだ!?」
「どうなってる!?」
「ヤバイ、まさか!」
そしてそれに呼応するかのように、他の男達も何故か慌てながらログアウトして消えてしまった。
「え、あれ、え?」
何がどうなっているのか困惑するラスレイ。
一方で発喜はメルシアスの弓を構え堂々と宣言する。
「悪は滅びた!」
勝利宣言する発喜の元に、ラスレイはゆっくりと歩いて行った。
そしてポーションを使って回復する発喜に対し、暗い顔で告げる。
「ひ、発喜さま……ま、まだ何も終わってないです……」
男達は退場したが、それはゲームでの話。ラスレイは変わらず男達に脅され、発喜はラスレイを餌にまた脅されることになるだろう。
問題は何も解決していない。
そのはずだった。
「発喜、無事か!?」
「ふた……じゃなくてメイガス、どうしてここに?」
「発喜が妙なことに巻き込まれてるって聞いてな。リアル側で対応……」
「あ~そっか。メイガスが来たってことはそっちね」
メイガスがしっかりと事情を説明しようと思ったら、何故か発喜は全てを納得したかのような表情を浮かべていた。
どうして発喜が男達の卑劣な企みに巻き込まれていたのか。
どうして発喜がノリノリで巻き込まれようとしていたのか。
その答えが彼女の口から語られる。
「これドッキリだったんだね!」
そうなのだ。
発喜はラスレイが話しかけて来てから今までのことを、全て作り話だと思い込んでいたのだった。
「クエストなのかドッキリなのかが最後まで分からなかったんだよね。でもプレイヤーのメイガスが来たってことはドッキリなんでしょ。あ、ごめんなさい。もう少しでネタバラシだったよね。メイガスの仕事を奪っちゃった!」
あまりにも予想外のことを告げる発喜に、メイガスもラスレイも口を開けてあんぐりとしている。まさか発喜がずっと茶番に巻き込まれていたと思っていただなんて、思いもよらなかったからだ。
ドッキリとか面白そう!
そう思ったからこそ発喜は巻き込まれ、楽しい体験だからこそ豪運さんはむしろ巻き込ませたのだ。そしてドッキリだと思っていたから、主人公ムーブをしてそれっぽい台詞をノリノリで連発していた。
「あ、あの、発喜様、ドッキリじゃなくて私は本当に脅されて……」
「あはは、そんなことあるわけないでしょ」
「え?」
そう断言するのはもちろんいつもの理由によるものだ。
「ゲームの中で悪いことしている人がいるだなんて、そんなアニメみたいなこと現実では起きないんだよ」
女の子を脅したり、ゲーム内でその脅しを利用して更に悪いことをする。それは発喜にとってはフィクション以外では起こり得ないと確信していることだった。
「マジかー、バレてたのかー!」
恩人がそう思い込んでいてゲームを楽しめているのなら、それを壊すのは忍びない。メイガスは咄嗟にこれはドッキリだったムーブをすることに決めた。
「え?え?」
だがそうなると困惑するのはラスレイだ。ゆえにメイガスはラスレイの耳元で『後で説明するから合わせろ』と囁いた。ついでにそこで彼女が最も知りたいであろうことも伝えてあげた。
『現実の奴らは全員捕まえた。お前の秘密も拡散させずに消去できるから安心しな』
「!?」
発喜が事件に巻き込まれそうになっていることは配信ですぐに分かった。そこで更科一家が動き、黒幕である男達の居場所を突き止め、運営と協力して発喜の行動に合わせて確保したのだった。
「やっぱりドッキリだったんだ!ほらね!私そういうの見破るの得意なんだ!」
「ちぇっ、せっかく発喜を騙せたと思ったのに」
「ざ~んね~んで~した~」
「でも楽しかったか?」
「うん、本当に物語の主人公になったみたいで楽しかった!」
「ならよかった」
この笑顔を守るためなら真実を捻じ曲げようが構わない。そう思うメイガスであった。
そしてひっそりと嬉し泣きするラスレイもまた、すぐにその仲間入りをすることになる。
危険な男達の所に女性だけで行くのはダメ、ゼッタイ!