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第七話『No.⑧』

「聖剣を引き抜いたのはお前か」

「……ナゾ子の記憶にいた、大男と雰囲気が似ておる。だとすれば、わしが代理で成敗しなければならん!」


 握っているナゾ子の剣を更に強く握る。勝手に此奴こやつは命を落としたものと思っていたが、姿を消しただけとも取れる。何者かが龍になっている傾向を考えれば、もしや。

 と、考え事をしてる場合ではない。早くも炎を吐く構えをしている。今まで見てきたような赤や青ではなく、紫色のやや漏れた炎が見えていた。

 避ければ容易い話だが、定番の学園や人々を巻き込む場面だ。今まで幾度も遭遇してきたので分かる。じゃあどうするか? そんなの決まっておる。


「フルアクセル・リングヲ起動シマシタ」


 単純と言われようと、偽善と思われようと関係は無い。


「No.②、⑧、セットカンリョウ」


 種族が何だろうと、世界が変わろうと人間の為、戦うだけ。


逆雪ぎゃくせつさん!!」


 茜音あかねの姉貴が叫んでいるが、それなら尚更守らなければ。

 こちらに向かってくる紫の炎、その途方も無い波動の強さが、この剣に対する悪意の強さを感じ取れる。剣を引っこ抜いたのがどういう理由であれ、協力してくれるとも限らぬ。友達から貰った腕輪と、私自身の力で跳ね返す!

 それが師からの教えというもの!

 人差し指の先を炎に向け、薄く黄色い静電気をまとう。

 負けぬ。


迅雷ジンライ!!!」


 指先から激しいイカヅチが放たれる————



 炎を掻き消す事は出来たものの、ほんの擦り傷も無い。耐久性の高さも憎悪の強さじゃろうか。

 真っ赤に光る目がこちらを睨んでいる。今度は狸男もいない、白龍様が助けに来れるとも限らない。上にフルアクセル・リングのNo.⑧、何かを代償に全ての機能強くなる。の性能を使い、代償で体力が通常よりも遥かに持っていかれてしまった。


「そのリング、大層なパワーであった。しかし、それっきりのようだな。残念だが消えろ!」

「うっ、一人で戦う事がこんな苦しいとは……! だが、退く訳にはいかぬ! 茜音さんは逃げて」

「でも!」

「お主は優しいんじゃな。じゃが、逃げるのじゃ!」

「はい! えっと、気をつけて!」


 これでよし。

 よそ見してる間に、今度は砕いた結界の破片を宙に浮ばせている。まるで叛逆龍事変の時のようだ。

 流石にあんな大量の結界を飛ばされては、たちまち命は無い。標的は私だ。考えろ、このままでは何も変わらない。

 脈略も無く破片が飛んでくる。目で反応は出来たが体力が少ない故に動かない! 今度こそ終わりか。

 もう目を瞑る事しかできぬ。




 ……無事のようじゃ。ゆっくり目を開くと、先ほどと変わらぬ散らばった天井の透明な破片と、追加で更に細かく切り刻まれた結界の残り。

 ふと強い雰囲気を感じて、空を見上げる。先ほど私が引っこ抜いた剣が浮いていて、光り輝いている。もしかして、守ってくれたのか。


「またしても女神の一族に! いや、武器に! いつも邪魔だ!」


 どうやら様子を見ていると、暗黒龍と黒い剣はやり取りしているように思える。

 私に剣の声は聞こえない。でも、少しこの剣から想いを感じたような、気がした。

 聴いていると、やがて暗黒龍の表情が穏やかになり、邪悪な炎が口から溢れる事も無くなった。


「……娘達は元気か? ……それは良かった。生きているなら、それでいい」

「奴なりにも、色々考えがあって、この剣に攻撃していたのじゃろう。わしもそういう時はある。寧ろ、正義を抱える者はそうやって生きていくんじゃの」


 ようやく安堵が訪れ、暗黒龍は高い空の彼方へ飛んで、やがて見えなくなった。代わりに茜音さんが駆け寄ってきて、涙目で私の両手を握り縦に振り回す。意外と怪力なんじゃの。というか、逃げていなかったのか。


「良かった〜〜〜!! 流石です!」

「おう。運が良かったのじゃ」



⭐︎⭐︎⭐︎



 あれから三日の日付が流れた。本日は晴天。

 昨日は、頃合いを見て表彰したいと学園の校長から申し出があった。快く承諾して、少しの談笑した上で校長は仕事に戻った。

 そして今は寮の自室で一人、濃いめのお茶を嗜んでいる。


「やっほー!」

「うわ! 茜音さんか。やれやれ」

「色々伝えたい事があるので手短に話しますね。まずはあの、羽衣石ういし村を焼き払った魔女達、逮捕されました。それと、」

「待てまてまて! いきなりとんでもない事申すの?」

「え? そりゃこの世界のこの国では違法ですし、証人も勿論いるので、このような形へ」


 言われてみれば、やった事は罪。私が甘すぎただけで当然ではあったか。

 もしや、翡翠ひすい少年を連れてきたのは、この為じゃろうな。


「で、もう一つは最龍侍さいりゅうじ学園の『チャンプフロンティア』へのご案内の案内状ですね」


 ちゃんぷふろんてぃあ……。横文字は難しいのう。

 説明によると、学園で最強の対決者を決める大型の公式大会で、年に二回、春頃と秋終わり際に開催されている。規則は、相手の命を奪わなければ、特に無いらしい。武器や超能力などの持ち込み、使用も許可。一人対一人。ふむふむ。

 前回王者は…穂村ほむら 京斗きょうと、だと? あの子が。どうりで私の実力に興味を示していた訳だ。


「知っているのですか?」

「まあ、実はこの世界に来た日に、会ったのじゃ」

「それはそれは! 参加すればですけど、いつか激突する日もあるかもですね」

「うーむむむ。気が引けるのう」

「がんばろ!」


 若くて強いから孤立している。そんな気もした。

 何回か話したとはいえ、実力は未知数。日本刀を常に持っていた点を考えれば、武器は扱えるじゃろう。

 そんな事をふと考えてしまうのは、戦う気満々じゃな。自分に呆れる。


「では! チャンプフロンティアの参加、期待してますね」

「あ、ちょっとまだ、行ってしもうた。チャンプフロンティア、か……」


 つい息を呑むような事を連打された気分じゃが、息抜きに外でも出よう。

 とりあえず学園校舎前までテレポートしてみる。あれからというもの、恥ずかしいのでジーパンにぶかぶかのティーシャツを着て外の用事を済ませていたが、たまには体型が割と見えて、短めのスカートを履いて、ニーハイソックスもしてみる。

 これも悪くはない。寧ろ楽しいかも。

 と、ナゾ子がその辺をほっつき歩いていたので、声をかける。


「お前! 服のセンス上がったな! 教えた甲斐があったぜ」

「そうかのう。えへへ」

「逆雪って狐なんだろ? その姿で尻尾と耳生やしてみたらどうだ?」

「皆驚かないか心配じゃ」

「こういうのは、個性あったもん勝ちだ! やってみて」


 それぐらい簡単じゃ。

 とびっきり尖った耳を生やし、フッサフサな尻尾を出す。

 一気に周辺の人間の視線が集まった。照れるのう。


「いいじゃん! すげー!」

「それほどでも、ないのう」


 気づけば私の周りに野次馬が沢山いる。人間ってこういうの好きなんじゃな。



 ……そういえば、剣を返すの忘れておったな。

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