第五話『フルアクセル・リング』
今はまだ奴には気付かれていない。不意打ちするにはチャンスかもしれぬが、相手の実力が得体も知れぬ。どうしようものか。
ともかくは人間を困らせては気分が悪いので、いつも使っている爆破の札を使うか。
間合いを見て投げ込もうとした時に、誰かに手を引かれて物陰に引き込まれる。どうやらこの魔女に手を引かれたようで、でも翡翠少年といる魔女と違い、私のように白い髪をしていて毛先は金色に光っていた。
「お前中々無茶するやつだな。自己紹介は後だ、この暴龍はわたしが仕留める。そこで隠れていな」
「……分かった。お主こそ無茶するでないぞ」
「よくいうぜ」
魔女は持ち前の肩下げの物入れから、謎の筒状の機械のようなものを取り出す。筒にはスマートフォンのような画面がついており、魔女が指で素早作操作すると、英語や数字の言葉が表示された。勉強した限りでは知っていたが、数字を見るのはあまりない経験。
すると筒が宙を舞い一度分解、魔女の手首に巻き付くように再構築された。
「フルアクセル・リングを起動シマシタ。No.①、②、セットカンリョウ。」
まるで人間のような、でもどこがぎこちない音声にも感じる。不思議じゃ。
すると、気づけば魔女の姿はなく龍の周辺を稲妻の如く駆け回っている。あまりの速さなので人間には見えないじゃろう。
「速い! しかし動き回ってるだけではこのオレへの攻撃は、」
喋ってる間に魔女が龍の背中へ突撃、すぐさまうつ伏せに地面へ叩きのます。
感心して見ていると、今度は札を取り出した。あやつ、もしや狐?
「一生封印の中で眠りな。禁忌の龍」
眩い光に包まれ、龍は徐々に姿を消した。
「ふう! 今回は犠牲者が出なくて良かった」
「すごいのう。お主は何者じゃ?」
「一般人さ。名前はナゾ子とでも言っておくか」
「わしは逆雪 蓮と申す」
私の容姿を少し観察した上で、すぐに笑顔になる。
「なんだ、逆雪も最龍侍学園の生徒か! 見かけない顔だ」
「うむ。今日から来たからなんじゃの」
「そっか! よろしく」
気づけば割と打ち解けている。口調が荒めだったので心配じゃったが、意外と悪い人ではなさそう。
それからしばらく談笑を交えながらすっかり意気投合し、ナゾ子は綺麗な箒に跨って飛んでどこかへ。私もそろそろ寮の自室へ向かなければ。
と、ふと下に視線を向けると、ナゾ子が落とし物としていた。
「フルアクセル・リングの説明書?」
仕方ないので、一回自室に行ってから連絡を入れてあげよう。
⭐︎⭐︎⭐︎
どれどれ。
布団を敷くための台、いわゆるベッドと呼ばれる物や、勉強机には小さな照明がある。簡易的な小さなゴミ箱など、生活に必要そうな物は概ね取り揃えられておるな。
確か学園のパンフレットによると、食事は食堂で午前中の五時から午後の二十三時まで使う事ができ、自室内なら自分で購入して食べる事も可能。ふむふむ。
ベッドの布団も情報管理の統制を行った外注の職員が定期で取り替えをするなど、我ら学園は充実した設備を……。ねむうなってきた。
ざっと読み終えたので、今度は興味本位でフルアクセル・リングの説明書も開いてみる。
①脚が速くなる。
②パワーが上がる。
③計算能力が上がる。
④調理が上手くなる。
⑤視力が上がる。
⑥空を飛べる。
⑦新たな超能力が解放される。
⑧何かを代償に全ての機能が強くなる。
意外とシンプルじゃった。
とりあえずはこれをこうして、ナゾ子のスマートフォンに発信!
「……もしもし、先ほどの逆雪という者じゃが……うむ! 説明書を落としておったぞ……そうじゃろう! ……美味い飯屋、興味あるのう……」
ナゾ子との会話は楽しい! 長話をしてしもうた。
良いご飯屋とそれとブティック、つまり洋服のお店も紹介してくれると、楽しみであるぞ。
「明日昼頃、学園の門付近で集合と! うむ。また!」
ようやく大体の用事を終え、身支度だけ整え布団に入る。気持ちええ。
「……さん、蓮さん。聞こえますか。白龍です。ちょっと耳を傾けてください。違います、頭傾けるんじゃありません! 寝ぼけてる」
「ねまひゅ」
「やれやれ。新しい場所に来てはしゃいでたんですかね。かわいい」
気づけば朝の時間帯になっていた。白龍様に呼ばれていた気がするが、きっと夢じゃろう。
今日も身なりを整え、肩下げ物入れに必要そうなものを詰め、テレポーションのアプリで一瞬で食堂へ。
すると、一人で唐揚げを食べている穂村くんの姿があった。とりあえず声をかけよう。
「よ! 穂村少年!」
「どうも蓮さん。おはようございます」
「朝から美味しそうな物食べてるのう。ええ事じゃ」
「お恥ずかしながら……」
「この唐揚げとなる物を食べた事ないんじゃが、一つ貰ってもええか」
「どうぞ! はい」
丁寧に分けてもらい、早速食べてみる。口の中で広がるなんとも言えない美味、やや餅にも似た食感に思えるが、すぐに噛み砕けるのが不思議だ。
「美味しいのじゃ!」
「良かったです。そういえば昨日の事件って、蓮さんいました?」
「う。よく知っておるのう」
「……噂なんですけどあのナゾ子という人、怪しい噂が絶えないので、気をつけた方がいいですよ」
私には怪しく思えないが、きっと人間達による着色された印象だと、思う!
正面から言っても気を悪くすると考えたので、そっと誤魔化す。
「フルアクセル・リングでしたっけ? あのアイテムも謎ですし、魔女なのに科学で作ったような機械を使ってる」
この世界では科学と妖術、及び魔法は相入れない存在なのか。なるほど。
となると、迂闊に札や妖術は扱わない方が良さそうじゃ。
「確かに怪しいかもしれないのう」
「はい! 気をつけて」
「うむ……」
やや納得いかないが、二人とも食事が終わって各自解散、早めの行動と思って先に学校門前まで移動し、横長い木製の椅子に座って景色を眺める。
みんな忙しそうで、あっちこっち歩いて移動する者、何か乗り物を使って移動する人間、立ち止まって騒ぎながら雑談を楽しむ子供の集団など、様々である。
そうしていると、後ろから肩に手を置いてくる者がいた、気配で分かる。ナゾ子じゃろう。
「お前驚かないんだな。変わったやつだ」
「お主に言われとうない! まあ、これぐらい朝飯前じゃ」
「承知。早めに集合したし、まずはあっちのブティック行こうぜ」
「うむ!」
可愛い服を買ったり、美味しいスイーツとなるものを食べたり。穂村くんから怪しいと噂は聞いたものの、やはりその素振りは見受けられない。そうじゃろう、そうじゃろう。
気づけば夕暮れ時、私とナゾ子は何かで地面が塗装されている海辺で二人、水平線を眺める。
今日はかなり楽しかった。
「なあ、逆雪も興味あれば使ってみるか? フルアクセル・リング」
「わしに扱えるかのう」
「そんな短期間でこの世界に適応したやつなんだ! 今頃何を言う」
「ナゾ子が言うなら、使ってみるのじゃ!」
「おう!」
急ではあるが、もう一個のフルアクセル・リングを受け取る。こちらは綺麗なので新品だと思われる。
「そういや受け取るの忘れてた、説明書もあげるから……じゃあな」
「うむ。また今度会おうぞ」
軽く私は手を振って踵を返すと、ナゾ子が背後から抱きついてきた。
「さびしい」
「………」
余計に帰りにくくなった。帰る事を考えるのもやましいかもしれぬが。
きっと友達がいなかったのかもしれない。私がこの世界に来て間もないので、事情を知らぬのもあるが、それを抜きにしても好意は持てる。
「今夜、泊まりいっていい」
「……勿論じゃ」




