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第十八話『バス停とビル渓谷の狐 2』

「そう、なのね。とにかく中へいらっしゃい」

「うんっ」


 ホームズは腕を上げて手を繋ぐように求める。やや困惑している様子の狐のお姉さんだが、渋々対応する。生暖かい手を握りしめながら、リビングまで案内した。慌ててガラスのコップを洗い、お子様向けのジュースなど無いので渋々砂糖を入れた紅茶を差し出す。ケーキも入っていたがこれは自分用なので、こっそり置いておく。


「冷蔵庫の中から多くの糖分と、酸味の多い食べ物のにおいする」

「とてもお鼻が敏感なのね……」


 とはいえ自分用なので、意地を張って出そうとはしなかった。貴重なケーキなので。

 ふと機転を効かせて自己紹介の話へと移る。


「あ! そういえば私の名前は神帝かみかど 三咲みさきって言うの。君は?」

「シャーロック・ホームズ」

「……世紀の名探偵みたいな名前してるね。両親がファンなのかしら」

「わかんない」

「自分も昔、ホームズの作品を読んでいた事があってね。お家は?」

「この世界にはない。ある事件があって、最龍侍さいりゅうじ学園にいた」


 ホームズの脳裏には今も突然開いた大穴の事が走馬灯のように流れていた。幼いとはいえそれなりの精神力を持ち合わせているので、思い出しても大人しくしているだけなのだ。


「あの奇妙な学園ね。自分はおすすめはしないけど、まあ暮らせてるならいいんじゃない」

「うん。最近、狐のお姉ちゃんが入学してきた」


 逆雪ぎゃくせつ れん、入ってきてはメキメキと結果を残し、一つの事件も解決に導いた事などから学園内の知名度は徐々に上がってきている。三咲と同じく銀狐の一人であり、だが逆雪は人間で言えば中学生ほどの幼さであった。ホームズから見れば年上のお姉ちゃんだが。

 また、余談ではあるがホームズがよく乗っているライトニング・トレインの次の調査先も決まっている。ナゾ子の故郷である異世界でサファイアの雨が降る現象が起きており、向こうの現地にあるサファイアの国跡地との因果関係があるのではないかと、噂が絶えない。

 話を戻すと、逆雪の噂は三咲にも伝わっており、毛嫌い程度の同族嫌悪はあった。やや考えすぎな側面を薄ら感じつつも払拭出来ずに今まで過ごしている。トラブルを起こさぬようビル渓谷で細々と暮らしていた所に最龍侍学園の生徒、ホームズが現れたのは狐としての因果を、考えてしまった。あまりにもよこしまな事ゆえに、思考から振り払う。悪魔でもビル渓谷を勝手に借り、住まう居候の狐、粗相など、と。


「可愛らしい子、なのかな〜……?」

「なんで知っている。何も言ってないよ」

「えっ、まあ有名人、とかだし。うん」


 冷や汗が止まらない。子供だからってみくびっていると次々に情報を引き出される恐怖心が芽生えてきた。早く会話を終わらせて自身の時間を確保したいものの、くつろいでいて中々そうもいかないような雰囲気。


「蓮お姉ちゃんすごいんだよ。不思議なアイテム、いっぱい持ってる」

「うんうん」


 フルアクセル・リングの事も既に周知済みで、三咲的には自分の力じゃないじゃん。と、それもまた毛嫌いする一つの要因ともなっている。

 実際にそうなのだ。逆雪は二つの貰ったアイテムを駆使してのし上がっている。本人も否定はしないだろう。それでもホームズはその先を自分なりに考えていた。人と人を結びつける力が結果になっていると、考察している。かつて前にいた世界線で自分がそうしてきたように。

 そしてホームズは咳払いを一つ。


「ここに来たのは他でもない。力を貸してほしい」

「何を?」

「蓮お姉ちゃんのこと、好きじゃないだろうけど、私の見立てでは凶暴化した魔王軍の残党が暴れている。総力戦になる」

「嫌だね。どこの馬の骨か分からない狐の力になぞ、ならん」

「……いつか、世界と世界が全て完全に繋がってしまう。それを止めたい。自分みたいに子供が世界線を迷ってしまわないように」


 難しい表情で考え込む三咲。

 首を左右に何度か振って、ホームズに帰るように促した。つまりは、お断りである。代わりに小さなストラップの紐付きの熊のぬいぐるみを手渡された。渡した本人曰く意味はないらしいが。

 しかしホームズは触った感触で意味を察してしまった。瞳を、頬を涙でうるわせながら自分の箒に跨って、最龍侍学園へと飛んで戻る。




 夕暮れに向かって飛ぶホームズを、三咲は見届けていた。

 次回、Legends Violet Fateへと続く————

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