第十六話『巨大な手当て』
「No.⑥、起動シマシタ。イッテラッシャイマセ」
「うむ!」
⑥は飛翔できるようになる能力。
未知数の相手だが、様子から察するに近づいた者を攻撃しているような、気がする。しかも、謎の光線を放っている辺り妖気のような物も持ち合わせているのは一つ考えておくべきだ。
出来るだけ光線を警戒したいのである程度距離を空けた位置で浮遊。しかし、私が接近しても攻撃をしてくる様子は無かった。
「お主、なんて呼んだらいいのじゃ?」
「リングデイイデスヨ」
「分かった。相手を分析するー、機能とかあったり?」
「アリマセン」
「…………」
こう、明確に返されると落胆というか呆気なさというか。とにかくはただ、巨人はこちらの様子を伺っているようにも見える。何故かは分からぬが、戦うかどうかを検討した方が良さそう。
何となく、背後を気にしている様子だ。試しに攻撃してこないか警戒しつつ、ゆっくりと背中側に回る。何者かに斬られたであろう、斜めの大きな切り傷があった。
「これは酷い。きっと苦しかったのじゃ」
そういえば、ロテアが傷を回復させる魔法を使っておったな。一度戻って提案してみるのもいいじゃろう。
戻ろうとしたところで再び雄叫びを上げ始めた。特に意味の無いであろう拳の鉄槌が私に降って来る。咄嗟にフルアクセル・リングのNo.②を起動する。
②はパワーが上がる機能だが、流石に巨体すぎて限界付近まで力を出さないと、このままでは押し潰されてしまう。
「ガンバレ!」
「言われなくても……!!」
耐えるのじゃ! 絶えないように!
徐々に押されている。このままでは我々は。
「お困りでしょう。逆雪さん」
「貴方は、穂村くんの師匠の!」
「雑談している場合ではありません。力を貸しましょう」
春頃に何度か会った、白雪 龍侍さんで、亡き白龍様の夫だ。また、先ほど私が言った通り穂村くんの稽古をつけたりもしている。
龍侍さんは片手を天の方向に突き上げ、紫色の妖力を溜め始める。一瞬鋭い目つきになって、半透明の雰囲気を放つ。一瞬で巨人の拳が突き上げられ、驚いたのか少し正気を取り戻した様子。
「今のうちに。何か策があるのでしょう!」
「うむ! 行ってくる!」
すぐに砂浜にいるロテアの元へ。急ぎで簡潔に訳を説明し承諾してくれた。箒に跨っては並んで飛翔する。
「背中だよね! わたしが背後回るから、頑張ってお二人で隙作って!」
「分かりました」
「でも、こんな時に言うのもなんじゃが、背中を斬ったのは誰なのじゃ?」
「言ってる場合じゃないよー!」
場違いなのは頭で分かっている。ふと、冷静になってしまった。なんとなく、龍侍さんの腰に携えている刀に視線が向く。
「……後ほど解決したらお話をしましょう。自分は左腕を抑えるので、逆雪さんは右腕を」
「うむ。まさかな」
あまり乗り気にはなれないが、再びフルアクセル・リングのNo.②の機能を起動。あまりにも巨体すぎて抑えている実感が無いが、恐らく止まっているであろう。苦しいかもしれぬが少し耐えれば良いのじゃ。
遠巻きに「終わったよー!」という様な叫び声が聞こえる。②の機能を閉じ巨人の正面側へ。龍侍さんやロテアと合流する。
「巨人さん笑ってるし、なんとか解決だね!」
「ありがとうございます。見知らぬ魔女さんと、逆雪さん」
手を差し伸べられるも払いのける。巨人の背中に大きな傷を与えられる強者、考えれば現状で一人しか考えられない。
「お主じゃろう。なぜ斬ったか話せ」
「やれやれ。白龍に似て妙な所が鋭いですね。そうです」
予想していなかったであろうロテアは、両手を振るわせて驚く。
真夏の強い太陽光が龍侍さんの顔に大きな影を作った。一瞬の静けさが潮風の音を誇張する。
「聞く話、この巨人は砂浜にいる人間と遊びたかったそうです。が、津波を起こし被害が出ていた。許せませんでした。わたくしの妻も亡くなり、気が滅入って冷静な判断が出来て、いなかったのかも、しれません」
「確かにわしもかなり気が滅入ったが、とて好意を無碍にする行為は許せぬ!」
「喧嘩は、やめましょう。謝罪なら幾らでもする」
ふと、白龍様から頭の中を伝って問いかけてくるのを感じた。
まだ姿は見ていないが、どこが物悲しそうであった。
『真実が隠れています。今こそ、ココロロック・グローブを使うのです』
「なるほど」
「狐、さん? その赤い手袋は?」
「ちょっと、野暮用で使わせてもらう」
ふと意識が真っ暗い空間へ。私は恐らく龍侍さんの意識に入り込んでいる。
三個ある明るい照明に照らされている、焚き火と刀が二本、そして小さめの黒い箱があった。
今度は自分で謎を解いてみよう。二本ある刀の内、龍侍さんが持っていた物と、もう片方は見覚えがあるが分からない。
とりあえず、本人の刀を持ってみる。特に異常は無さそうじゃ。試しに焚き火にかざしてみるも、変化は無い。もう片方の刀をかざしてみると、薄紅色のように半透明に発光した。
すると、箱から何か施錠が外されるような音が鳴ったのに気づき、近寄ってみる。
先ほどとさほど様子は変わらぬが、開けてみようではないか。
「これは、侍の持っているとされる紋章か? 稲穂が掘られてある」
背後に気配を感じたので振り向くと、白龍様がいた。
この様子から察するに、既に答えに辿り着いているのかのう。
「妙な所で鈍感ですね。それが指し示す答えは穂村少年が斬った。そう捉えています」
「だとしても、庇う必要は無いじゃろうて」
「若い貴方にはまだ、分からないでしょうね。さ、戻りますよ」
視界が真っ白になり、現実世界に戻った感覚がする。ゆっくり目を開くと項垂れている龍侍さんと、どうしたらいいか分からない雰囲気のロテアであった。
「つかぬ事をお尋ねするが、もしや穂村くんが?」
「ああ、その通りだ。先ほどわたくしが話した事に憤怒した彼が、攻撃してしまったのだ」
「一度も気配を感じなかった点も踏まえると、鍛錬された子じゃのう。だが、心はまだ幼い様じゃ」
「その、通りだ。事実が割れてしまった以上、最龍侍学園に報告しなければなるまい。白龍の娘よ、迷惑をかけた……」




