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第十三話『叛逆龍事変【狐の故郷編】』

 天高くを走るライトニング・トレインから見える景色。割れた地面の数々からは紫や緑色の雰囲気が湯気のように立ち上り、見た事のない魔物が数百体ぐらいは徘徊しているだろうか。恐らく羽衣石ういし村だったであろう、広範囲に焼けた地表も、魔物の住処へ。


「どういう、事じゃ」


 大きな窓から景色を見る私の横に茜音さんが立つ。


「わたしが説明しますね。何者かが無作為に開いた世界線の穴から、魔物が流れ込んできたんです。白龍様はこれを危惧していた」

「狸男を探さねば! 飛んで降りる、電車の扉を開けてくれ!」


 そして、桐生院先生も茜音さんと反対の方に立つ。


「自分に異論はない。ホームズくんも同行してもらおう」

「うん。分かった」

「みんな! 強風が入り込むよ構えて! ……いってらっしゃい」

「うむ!」


 ひと足先にホームズは小さな箒に跨って電車の外へ。私もフルアクセル・リングを起動し、飛び立つ準備を行う。


『フルアクセル・リングヲ起動シマシタ。No.⑥、セットカンリョウ』


 ⑥は飛翔出来る能力である。私の背中にかなり薄く透明な天使の羽が付く。

 とりあえずホームズの後ろを追いかける。頭のキレる子なのはあるじゃろう。何か考えているのかもしれぬ。

 少し減速してきては、私の横に並んで飛ぶ。


「お姉さん。あっちにいた、叛逆龍はんぎゃくりゅう

まことか。確かに、大きな影が見える」


 私の片腕にいつも装着していた赤い手袋「ココロロック・グローブ」が薄く光っている。もしかしたら、狸男と共鳴しているのじゃろうか。だとしたら、奴に追いかけられている。早く行かねば。


「速度を上げるぞ!」

「分かった」


 近くまで来ると、前回この世界で見た叛逆龍とは桁違いの大きさをした青い龍が案の定、狸男を追い回している。


「僕が足止めする。お姉さんはあの男を保護して」

「了解!」


 二手に分かれて、ホームズは龍の正面へ。私は狸男の前へ降り立つ。


「うおおお! 狐ええええええ久しぶりだああ!!」

「思い出話は後じゃ! わしの手を掴め!」

「あいよ! って、ええええ!!!! 飛んでるううう!」


 そうか。この者はこの世界しか知らぬ。驚くのも無理はないか。それなりに近い間合いでライトニング・トレインは待機していて、すぐに開いた扉をくぐって入り込む。


「傷だらけじゃないですか! よくこの環境で生き抜きましたね!」

「わしは再び戻る、頼んだぞ茜音さん」

「うん!」


 しかし、これだけ悠長に助けても、傷一つ無いホームズはかなりの手練てだれである。中々心強い。


「遅いよお姉さん。さ、締めにかかろう」

「わし、いるのか?」

「……いる」


 ホームズが向けた指の先、龍よりも巨大な魔法陣が何十枚も重なって、何かを明らかに準備している。


「そのリング、起動して。Noは②」

『フルアクセル・リングノNo.②、セットカンリョウ』


 ②は力が上がる物じゃが、何をするつもりなのか。


「手のひらを向けて、魔法陣に力を込めるイメージをして」


 薄く青い魔法陣は段々赤い物へと変色。


「行くよ。エクスプロージョン!!」


 魔法陣の中心を介して、光線が走り抜ける。そしてあまりにも巨大な爆裂が、龍を襲う。

 やがて、爆風の煙が風で飛ばされた時には、龍は跡形も無かった。


「すごい。これが、魔法」


 小さな背中が頼もしく見えた。私はホームズの故郷を見つけてあげたいと、この時思った。



⭐︎⭐︎⭐︎



 しばらく偵察でこの世界の上空をゆっくり走るライトニング・トレイン。会議室では茜音さんが狸男と話し合っていて、私の一室の前では自分と桐生院先生で、別の話し合いを行なっている最中だ。

 ナゾ子は優秀な一員になり得るが、父として心配な一面も多く茜音からチームの一員にさせる事を拒んだそうだ。穂村ほむら君や翡翠ひすい君のような少年達も、上層部からの申し出でチーム参入にはならなかった。

 それと、フルアクセル・リングの事を尋ねられたが、私にも分からぬ。正直にそう言った。


「分かった。ありがとう。自分は茜音あかねとの聴取に戻る」


 そう言われてぶつ切りに解散。やや疲れた私は薄暗い自室に入り、そのまま柔らかいベッドに潜り込む。小さな窓から見えるより高い空は紫色で、本当に故郷なのか疑った。でも、狸男がいた辺り本当に故郷なのじゃろう。

 次の動きに響くと悪い。ほどほどに仮眠を取ろう。



「————さん。れんさん」


 まるで白龍様の声が聞こえる。姿もぼんやりじゃがある。あの日々のように夢や頭の中の印象みたいに話しかけてくる。


「え? という事は、白龍様は生きている?」

「違います。肉体はもう動きません。貴方の守護霊となって、体の動きが消滅する前に転移したのです」

「実際会いたいよ……」


 白龍様も私も半泣き。再び肉体になれないのも、何かしら事情があるのかもしれない。


「とにかく! これから時々支援しますから、ほら、茜音と狸が呼んでますよ。起きて起きて」

「うゆ」


 気づけば目が覚め、電車内の薄暗い自室。とにかくは照明をつけ軽く身だしなみを整え、言われた通りに会議室へと向かう。

 軽くノックをしてから茜音さんの元気な返事、ゆっくり開く。


「狐、お前。痩せた?」

「そうかの。照れる事言ってくれる」

「へえ、名前で呼び合わないなんて面白い。こほん、丁度いいところに来てくれました。では、そのココロロック・グローブについて、教えてもらいましょうか! 狸さん」


 狸が立ち上がって、何やら怪しい雰囲気が部屋を包む。


「断る!」

「ふっ、ふはは! 狸男らしい! だが、そんなに警戒しなくていいんじゃぞ」

「でもよ。ああ、分かった。なんでお前が知ってるのか分からないけど、狐の頼みなら教えてやる」


 狸男は黒縁の眼鏡を取って、自分の片手にはめているグローブを一度外す。

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