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仲間探し

「ん……?」


眩しい……?


ゆっくりと目を開くと、光が飛び込んでくる。


「まぶしっ……」


光を遮る様に手を目の前に持っていき、ゆっくりと起き上がる。

どうやら、木漏れ日がちょうど俺の目のところに当たっていた様だ。

まぁ、ちょうどいい目覚ましになったから、構わないけど。


「にしても、なんだかね。やっぱ虚無空間とは違うね。日が昇って目が覚めるって言う感覚は気持ちいいわ」


あそこ、何もない真っ暗な空間だったしな。

頭をポリポリと指で軽く掻きながら、辺りを見渡す。

当然と言うべきか、火は消えている。

まぁ、結界を張っていたから、火が消えても問題はないんだけどな。

それよりもだ。


「リリネはどこ行った?」


そう、リリネの姿が見当たらない。

何処かに行ったのは確かだろうが、一体どこに?

少し探ってみるか。


一度俺は深呼吸をしてから、目を閉じる。

俺を中心に広がっていく気配を察知するための感覚。

リスやネズミの様な小動物の気配を点々と感じながら、見つけた一つの人サイズの気配。

それも俺と似た力の波動を放っているから、リリネで間違いなさそうだ。

少し離れた位置にいるみたいだが、一体何をしてんだ?


閉じていた瞼をゆっくりと開き、リリネの気配がある方向へと顔を向ける。


「少し様子を見に行ってみるか」


危険な動物や魔物は入ってこれない結界内だから、問題はないとは思うが、念のためだ。

俺は前に手をかざすと、そこの空間が歪み、裂け目の様なものができる。

これこそ、空間移動に使うためのワープポイントの様なものだ。

向こうにも、コレが出来てるから、リリネは驚いているかもしれないが、俺が姿を表せば、特に問題はないだろう。


俺は空間の裂け目に顔だけを突っ込み、リリネが何をしているのか、確認する。

そこには確かにリリネがいた……いたんだが。


「……」

「……」


もう少し俺はデリカシーというものを覚えなければいけないかもしれない。

そこには昨日の汗を洗い流すためか、一糸まとわぬ姿でいるリリネがいた。

リリネの頭上には水の球があり、そこからシャワーの様に降り注ぐ水を浴びながら、俺と目が合い、お互い固まってしまう。


こういう時は……なんつうかだな。


「し、失礼しました……」

「き……きゃああああああああッ!」


俺はすぐさま頭を引っ込めたが、時すでに遅し。

リリネの悲鳴が森中に響き渡り、裂け目が閉じる前にそこから熱い熱湯が飛んできて、顔に命中したのは言うまでもない。


水浴び? シャワー? まぁ、どっちもいいか。

それから戻ってきたリリネは顔を真っ赤にしながら、俺へと頭を下げてくる。


「す、すみません。裸を見られたとはいえ、いきなりお湯を飛ばしてしまって……。大丈夫でしたか?」

「いや、まぁ、熱かったけど大丈夫だ。その……アレは俺が悪かった。お前がいなかったから、気配を頼りに見に行ったら、あの状況だったからな。すまん、デリカシーがなかった」

「い、いえ。それよりも、フール様にこんな貧相な体を見せるなんて、私の方が」

「え? 貧相という割には結構スタイルよか……オホン! あぁ、なんだ。この話はもう終わりだ。終わりったら、終わりな」

「あ、ハイ」


危ねぇ……。

思わず変な回答をしかけた。

胸は言ってしまったが……大丈夫だよな?

そっと、リリネへと視線を向けると、耳をパタパタと倒したり立たせたりを繰り返し、尻尾を揺らし、少し頬を赤くしながら、自分の胸をチラチラと見ていた。

う~ん、聞こえてたな、こりゃ。

まぁ、これ以上変なことを口走らなければいいだけだ。


その後、俺が創造したコッペパンを食べながら、今後の話を。


「食料も創造できてしまうなんて。流石フール様です。あ、でも、ミルクも生み出していましたから、これくらいは普通なんでしょうか?」

「まぁ、『アルカナ』の奴全員が可能だけど、お世辞にも凄くうまいとは言えねぇんだよな。可もなく不可もなくって感じでな。創造にも限界があるんだよ。だから、アイツ等もお前達から肉とか、野菜とかを納めてもらってんだよ。そっちの方が断然うまいからな」

「なるほど。『神の楽園エデン』に食料などを納めるのはそういう理由があったんですね」


こういう風なもんばかりは人の営みの中でしか生まれないものなんだよな。

旅するのもいいが、拠点を作っておくのも手かもしれない。

それもアイツ等から感知されない様な拠点を……いや、いくらでも手があるわ。俺の力なら。


「それでフール様。話というのは?」

「あぁ、そうだった。今後どうするかっていう話だよ。『アルカナアイツら』のところに顔を覗かせるとは決めているが、それだけじゃツマらねぇからな。せっかくだ。お前の『自由』に生きたいと言う願いも叶えてやろうと思ってな」

「フール様……! ありがとうございます!」


リリネは神を崇めるかの様な祈りの構えをとる。

そういうのもやめてほしいんだけどな。

嫌なこと思い出しちまいそうだから。


「まぁ、そういうことだから。で、どうするよ? 今後の方針」

「もちろん、私はやってみたいことをしたいです。ですが……それを私一人で味わっていいものかと思うんです」

「というと?」


次にいう言葉はわかっているが、一応問い返してみる。

コイツは根は優しくて良い子だからな。


「他の……他の『0』の印を持つ仲間たちと共に楽しく過ごしてみたいんです。きっとフール様に出会う前の私と同じ様に苦しくて、辛い思いをしているに違いありません。ですから、そんな人たちを一人でも多く助けたい。ダメでしょうか?」

「それがお前のやりたいことなのか?」

「ハイ。私の『意思』で、そうしたいと決めた。一番最初にやりたいことです」


まっすぐとこちらを見つめてくるリリネの目。

その力強い目を見れば、彼女が本気だと言うことが言葉と相まって、より確かなのだと伝わってくる。

彼女自身の意思で決めたことなら、それを否定する権利はもちろん俺にはない。

そして、リリネ自身の願いを叶えると約束した以上、断る権利もない。


「そうか。なら、そうしようじゃねぇか。リリネの友達をたくさん作って、そいつ等とやりたいようにやって。楽しく、笑顔が溢れる生き方をしようぜ。もちろん、願いを叶えると言った以上、俺も力を貸すぞ」

「! ハイ!」


良い笑顔だな。

リリネの満面の笑みを見て、思わたず頬が緩み、笑みを浮かべてしまう。

獣人族らしい人懐っこい笑みだからこそ、つられてしまうんだろう。


「となると、安全に暮らせる場所も用意しねぇといけねぇな。侵攻とかの影響も受けない様な場所に」

「ということはフール様も『神の楽園エデン』を作ると言うことですか!?」

「『神の楽園エデン』って……そんな大層な名前の場所作る気はねぇよ。しいて言うなら、そうだな。お前達色んな人が集まって、これから先の未来を作っていく街。人々のための街。『人々の理想郷ユートピア』なんて、どうだ?」

「ユートピア……! 良い響きですね。ですが、そこにフール様が入っていないのは納得いきません。私達『0』の神であるフール様と私達人が作る都市。フール様と同じ『愚者』の集まる都市。そういう意味で『愚者の理想郷ユートピア』というのはどうでしょうか」

「……まぁ、神というのはやめてほしいと言っておくけど、『愚者』の集まる街って言う意味での『愚者の理想郷ユートピア』……ね。いいな、面白そうだな」

「ホントですか! それならよかったです! フール様には『興味ないし、自由気ままにいたい』とかで否定されるんじゃないかと不安でしたけど、受け入れてもらえてよかったです」


まぁ、俺が街と言っているのに、リリネが都市と言っているのもちょっと気になるけど。


「それに安全に暮らせる場所が必要だって言ったのは俺だしな。だから、協力をするのは当たり前だし、面白そうだと思ったもんだと余計にな」


俺が笑って見せると、リリネも笑顔を浮かべる。

それにしても、俺が街づくりを面白そうだと思う日が来るとはな。

これも長い間、一人でいた影響か?


「そうなると、もっと仲間が必要ですね! こうしてはいられません! 近くにある村や集落、街を巡って、『0』の印を持つ仲間を見つけましょう! 後は奴隷商でしょうか」


自分たちの街を作ると決定したからだろう。

リリネは興奮気味に、目を輝かせながら、俺を見てくる。

心なしか、鼻息も少し荒い気がする。


「まぁ、落ち着け。そんな急いで行動したら、すぐさま他の『アルカナ』に、俺が来訪していることがバレるぞ。そうなったら、仲間集めて街作りなんてしてられねぇよ」

「あっ……。それはそうですね。フール様は今、他の『アルカナ』にとっては虚無空間に閉じ籠っている者と思われているんですよね」

「そういうこと。だから、まぁ、印を持つ奴らを助けに行きたいと言う気持ちはわからなくもねぇけど、流石の俺でも、アイツ等全員相手する羽目になったら、勝てねぇよ」

「そうですよね……。流石にフール様でも、『アルカナ』全員を相手することになれば、勝てませんよね」

「まぁ、負ける気もないけどな。ケンカが平行線で永遠と続く可能性があるってだけだな」

「そ、そうですか。それに戦いをケンカって……」


別にケンカで間違ってないと思うけどな。

俺は別に殺し合いとかする気ないんだから、ケンカという方が正しいだろう。

まぁ、昨日も考えたけど、向こうは俺を殺す気で来る可能性はあるけどな。

とりあえず、旅立つにしても、向かう方向を決めないとな。


「思えば、リリネはどっちの方向から来たんだ? 俺、お前の願いに反応して、ワープしてきたからさ。リリネが来た方向がわからねぇんだよな」

「私が来た方向ですか? なら、向こうから来ましたけど」


リリネが指さす方向へと視線を向ける。

森の中だと言うのに、自分が来た方向を見失わないのは、獣としての部分もある獣人族だからこそだろうか。

まぁ、おかげで行く方向も決められるわけだけど。


「一つ聞いておくが、お前の村には他に『0』の印を持つ奴はいなかったんだよな?」

「え? ハイ。昔は他にもいたんでしょうが、今は私だけでした」

「なら、もうその村に用はねぇな。なら、聞くが、その村の近くに他に町とか村、もしくは集落とかあったりしたか?」

「えっと、確か獣人族の集落が三つほど近くにあったと思います。後は村がもう一つあるらしいです。確か、そこは妖精族の村があるとか……」


妖精族か。

妖精って言ったら、確か『隠者ハーミット』の奴が生み出した種族だったな。

村が知られてるけど、妖精たちはあまり人前に姿を出さない奴じゃなかったか?

隠者ハーミット』の奴が、自分みたいに隠れてるからって言う理由で、生み出したハズだけど。

まぁ、長い年月が経っているんだし、少し在り方が変わっていても、おかしくはないか。

いや、でも、らしいって言っていると言うことはあるかどうか、定かではないと言うことか?


「とは言っても、私も村の人達が話しているのが聞こえてきただけなので、どこにあるのかまでは……」

「なるほどな。だから、らしいって、言ってたわけか。妖精族は姿を隠すのがうまいからな。隠密と悪戯好きの種族、だったか? まぁ、『隠者ハーミット』が生み出す際に言ってたことだけど」

「後はアクセサリーやちょっとした小物を作るのが得意な種族だとも聞いています。妖精族の作るアクセサリーは『加護』という特殊な力が宿ると聞いたこともあります」

「『加護』、ね。『隠者ハーミット』が得意とするバフデバフの支援系の力が、影響したと考えるべきか」

「バフ……? デバフ……? また聞いたことがない言葉ですね」

「……」


タンクも知らないくらいだったから、バフデバフも知らなくて当たり前か。


「つまりは味方を強化したり、敵を弱体化させたりする力のことだよ」

「なるほど。だから、支援系の力と言っていたんですね。フール様の使う言葉、新しく覚えました。これはもし、他の『アルカナ』の『遣い』と敵対した時の私達だけの合言葉として使えますね」

「いや、これくらいは……いや、使えるか」


リリネの言葉から察するに、こういう用語はアイツ等教えてなさそうだしな。

まぁ、アイツ等と直接対峙した時は意味ないけど。

とりあえず、目的地は決まったわけだし、久々にワクワクする冒険にでも出かけるとするか。


「そんじゃ、目的地はその妖精族の村だな。少し探すことになりそうだが、大丈夫か?」

「ハイ、大丈夫です。フール様の向かうところにリリネありですし、私が提案した仲間集めなので、文句などありません」

「そうかい。じゃあ、探すとしようぜ。妖精族の村を」

「ハイ!」


俺が歩き出すと、その後を追う様にリリネが歩き出した。

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