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愚者と夜

「ありとあらゆるものに囚われることのない力……!」

「そう。まぁ、とは言っても、俺のやつの劣化版だから、俺ほど融通が利くとは言えねぇけど、大抵のことは思いのままだぜ」

「なるほど……」


自身に宿った力を確かめるかの様に手を開いて閉じると言う行為を何度かする。

そして、リリネは目を閉じて、深呼吸を一度行い、目を開く。


「『ソード』。『騎士』」


瞬間、リリネの右手に一振りの剣、左手にはリリネの背丈を超えるほどの大きな盾———タワーシールドが姿を現す。

『愚者』を表すためか、剣にも、盾にも『0』の意匠が刻まれている。


リリネ本人は自身の手に顕現した剣と盾を目をキラキラと輝かせながら、嬉しそうに見ていた。


「どうだ? 実際に使ってみて」

「あ、ハイ。なんと言うか、体の奥底から力が溢れてくるのを感じます。それもこの剣と盾を扱うための……なんと言うんでしょうか。守護の力? の様な感覚を感じ取れます」

「まぁ、騎士の役目はタンクだからな。打たれ強さとかが上がっているから、そう感じるんだろうよ。後はヘイトを集めやすいとかな」

「タンク……? ヘイト……? フール様は私がよく知らない言葉を使いますね」

「あぁ~……うん、まぁ、気にするな」


いつもの癖で普通に話していたが、そこらへんも知らないとは。

アイツ等、どれだけ言葉教えてねぇんだよ。


そんな考え事をしている間にリリネは剣と盾を消し、笑みを浮かべる。

自身の手に入れた力がどんなものか、理解できたんだろうな。


リリネはそのまま座り込み、残っていたミルクを飲み干すと、木のコップを焚火へと放り込んだ。


「満足したか?」

「ハイ。他にも色々試したいですが、もう夜遅いですし、後のお楽しみということで、また今度にしようかと」

「それが一番だ。ほれ」


リリネに能力———『自由』の力で加工しておいたヘルハウンドの毛皮を投げ渡す。

いきなりの事で反応が遅れたリリネの顔に毛皮が被さる。

慌てて、毛皮を引き剥がしてから、毛皮と俺を交互に見る。


「フール様、コレは私ではなく、貴方が使うべきかと」

「いや、お前が使え。女が体を冷やして寝るわけにはいかないだろうが」

「ですが、それではフール様が」

「だから、気にする必要はないって」

「ですが……あ!」


何か思いついたのか、先ほどまで渋った様な顔をしていたリリネは毛皮に手を当てる。

その瞬間、リリネから感じる力……これは。


視線をリリネの方に向けると、そこにはヘルハウンドの毛皮をもう一つ持ったリリネがいた。


「できるか不安でしたが、よかったです。これで、私も使えて、フール様も使えるので問題ないですよね?」

「まさか、『自由』の力を利用して、『複製』するとはな。よく思いついたな」

「ハイ。だって、フール様が言いましたから。ありとあらゆるものに囚われない力だと。それはつまり、どんな常識にも囚われない力だと言うことです。なら、『自由』の力を使えば、『複製』もできるのでは? と思いついたんです。因みに、ヒントになったのはフール様が作った木のコップですね。アレも『自由』を使って、質量などを無視したんですよね?」

「正解」


力を扱える様になったら、自ずとその答えには辿り着くのは当たり前か。

とはいえ、質量を無視した構築だけで、複製を試そうと思いつくとはな。

流石は小アルカナ四枚を全て宿せる天才ってだけあるか?


「どうぞ、フール様」

「……ありがとよ」

「いえ、フール様に助けてもらったことを考えると、これくらい普通ですよ」

「魔物から助けただけでか?」

「ハイ。後は私を遣い……いえ、眷属にしてくれたこともです」

「……そうか」


眷属にしたことを感謝するっつうのは、変わってると言うか、なんというか。

まぁ、力を与えてもらったからこその感謝、なのかもしれない。

久々との人との触れ合い。

今まで一人だったからこそ、この温もりに安心感を覚える。

人は一人では生きられないとは、よく言ったもんだよな。


俺はリリネに見られない様に小さな笑みを浮かべる。


「それではフール様。すみませんが、先に休ませてもらいます」

「おう、気にするな。むしろ、俺は少し前まで寝てたから、眠たくねぇんだわ。お前は魔物たちから逃げ回ってクタクタだろ? さっさと寝ろよ」

「ハイ、それでは。おやすみなさい」

「おう、おやすみ」


リリネは毛皮を羽織って横になり、少ししてから寝息を立て始める。

夢の世界へと旅立ったリリネを横目に近くにあった薪を火の中へと放り込む。


「にしても、アイツ等。マジであんなことをするとはなぁ。本当に考えたくなかったんだけどな」


今やっている、俺の印を持つ者たちの迫害や淘汰は―――。


「俺たち自身がやられたそれと変わらないっつうのによ」


脳裏に過ぎった光景を思い出さない様に頭を横に振って、その考えを頭から追い出す。

それよりもこれからどうするかが問題だな。


「アイツ等の『神の楽園エデン』に乗り込むにしても、色々と用意が必要だよな。確実にアイツ等、自分の眷属たちを使って、俺を殺しに来るだろうし」


本当に元仲間か疑いたくなるわ。

別に突破することも、一掃することも難しくはない。

むしろ、片手間でできる自信さえある。

だが、それはリリネがいなければと言う前提だ。

リリネとは今後、共に行動をすると約束してしまった以上、『神の楽園エデン』に乗り込む時も一緒に違いねぇ。

待っていろと言っても、眷属だからという理由で、絶対ついてきそうだし。

『眷属化』は早まり過ぎたか?


「お……父さん……。お……母さん……。どうして……急に……冷たくするの……」


聞こえてきた呟き。

リリネへと視線を向けると、目から涙を流しながら眠る姿が目に入る。

どうやら寝言で呟いていたらしい。

ただ、その寝言からどういった夢なのかは大体想像がつく。


『0』の印を持ったことによって、今まで優しかった両親からの拒絶に迫害。

きっとそれだけじゃない。

今まで親しかった友達や村の人達、それら全てからの拒絶と迫害。

それらは想像を絶するほどの苦しみや辛さ、孤独を味わったに違いない。


それが今、この世界では当たり前に行われている。

俺の『0』の印を持っていると言う、ただそれだけの理由で。


「一人は……辛いよ……。寂しいよ……」

「……なんで、そんな寝言聞かせんだよ。俺がいるから、安心でもして出たか? それなら、俺を信頼しすぎって言うもんだろ」


そういいながらも、気付けば、俺はリリネの頭を優しく撫でていた。

先ほどまで浮かべていた泣きそうで、不安そうな顔は安心したかの様な笑みを浮かべた顔へと変わっていた。

手を頭から退ける前にそっと能力を使用し、安眠できるようにいい夢を見れる様にしておく。


「ふぁ……。俺もそろそろ寝るか。これからの事は……。まぁ、ぶらぶらしながら決めりゃいいだろ」


毛皮を掛け布団にして寝転び、ゆっくりと目を閉じる。

まぁ、そうだな。

もし、仲間がそれなりに集まったら、『神の楽園エデン』というほどの大層な名前をつける気はないが、リリネや仲間たちを集めた街を作るのもいいかもしれねぇな。


そんなことを考えながら、意識がゆっくりと沈んでいった。

今回は短めにしました。それでは。

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