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愚者と眷属化

「あの、失礼ですが、フール様。その手に浮かんでいるカードは一体?」

「ん? 眷属化の際に使う小アルカナだ。この中から適したカードをお前の肉体に宿して、眷属化させる」

「そうですか。ですが、四枚しかないと言うことは遣いにできるのは四人まで、ということでしょうか?」

「いや、関係ねぇな。俺たちからすれば、いくらでも生み出せるもんだからな。でないと、他の奴らが眷属がたくさんいる理由が説明つかねぇだろ?」

「あ、確かにそうですね」


凄い食い入る様に見てくるんだけど、この子。

私はどれになるんだろう、って言う様な勢いだな。

とはいえ、この感じからして、この子の適正は……お?


リリネに合うカードは一体何か、探りを入れていたが、コレは俺の印を持つ奴でも珍しいぞ。

最初に出会った者が、コイツでよかったかもしれないな。

思わず笑みが零れてしまい、それを不思議に思ったのか、リリネが首を傾げる。


「あの、フール様? 私は遣いに適していなかったのでしょうか?」

「ん? あ、いや。んなことはねぇ。むしろ、お前は適性ありすぎるくらいだよ」

「ほ、ホントですか!?」


とりあえず、一から説明していってやる必要があるかもしれない。

いきなりカードを宿す、と言われても、理解は追いつかないだろうしな。


「まぁ、宿す前にカードの説明をさせてもらうがいいか?」

「あ、ハイ。お願いします。例え、選ばれたとしても、力がよくわからないまま扱うのは難しいですから」


聞く姿勢があるのは良いことだな。

俺は自身の手の上に出現したカード、『ソード』を手に取って、絵柄が見える様にリリネへと向ける。


「まずは『ソード』。コイツは見ての通り、『騎士』や『戦士』、『武闘家』と言った様な前衛に特化した力をお前に与える。総じて言えるのは攻撃を得意とする力だ。職業によっては守護の力を持っていたり、素早さで敵を翻弄するような力を持っていたりする」

「えっと、質問いいでしょうか!」

「おう、いいぞ」


疑問に感じたことがあったのだろう、リリネは挙手をする。


「その『小アルカナ』というものから与えられる力は職業、ということでいいんでしょうか?」

「まぁ、基本的にはそうだな。通常なら、その与えられたカードから、更に適した職業を与えられる感じになる。まぁ、俺の眷属になるなら、関係ねぇけどな、そこらへんは」

「それはどういう……?」

「そこらへんの説明は後でする。で、質問はそれで終わりか?」

「あ、いえ。もう一つ聞きたいのは、それによって与えられる職業と私達が普段名乗る様な職業とはだいぶ違うのでしょうか?」


ごもっともな疑問だな。


「良い質問だな。リリネの考え通り、お前たちが普段名乗る職業と俺たちが与える力では大きな違いがある」

「というと?」

「例えばの話だ。このカードによって、『騎士』の力を与えられたとしよう。そしたら、どうなると思う?」


俺の問いを聞き、リリネは顎に手を当て、考え始める。

少ししてから、答えが出たのか、自身の考えを口に出す。


「フール様の加護が宿った特殊な剣や鎧、盾が与えられるでしょうか?」

「ん、まぁ、半分正解だな。確かに眷属になれば、カードの力によって、特殊な武器や防具とかが与えられるのは確かだ。だけど、それだけじゃないんだよ」

「他にもあると言うことでしょうか?」

「あぁ。まず、『騎士』の力を与えられた場合、肉体は鋼の様な強固さと自分よりも大きな盾を持つことができるほどの筋力を得ることができる。騎士は前線に出て、盾を持ち、攻撃を受ける役目を背負うからな。それだけじゃない。剣技や守護の力と言った力を得ることにもなるさ」

「例え、その心得がなくてもですか?」

「あぁ、それなりに力はもらえる。もちろん、努力が必要な部分もあるが……ぶっちゃけ、それを与えられる時点で才能があるとなっているんだ。少し頑張れば、ぐんぐん伸びるぜ」


おぉっ! と感激したかの様な声を上げる。

目が輝いて見える辺り、自分が何になるのか、楽しみになってきている感じだな。

少し前まで復讐を考えていた子には見えねぇな、まったく。


「んじゃ、説明に戻らせてもらうぞ。次はこの『カップ』」


次に見せたのは『カップ』のカード。

カップと言っても、描かれているのは聖杯なのだが。


「このカードによって与えらえるものは『治癒師』や『医者』、『錬金術師』や『料理人』とか、後方支援に向いた力を与えられるな」

「えっと、『治癒師』や『医者』、『錬金術師』というのはよくわかります。怪我を治してくれたり、病気を見てくれる人、薬や物を作る人が必要なのはわかります。だけど、『料理人』というのは……」


まぁ、疑問に思うのはわかる。

だけど、後方支援をナメちゃいかんぜよ。


「いるんだよ。というより、あるって言うのが正しいか。他にも『建築士』だったり、『メイド』って言うのもあったりするな。あ、後は『軍師』なんかもあったりするぞ」

「それって、与えてもらう必要がある力なんでしょうか!?」

「まぁ、適性があったら与えられるんだし、いるんじゃねぇの? 俺、深く考えたことはねぇから、よくわかんないだよ。それにこういう後方支援してくれる奴らは必要だと思うぞ」

「え?」


俺の言葉にリリネは首を傾げる。

確かに俺も戦闘職や回復職ならわかるが、こういうのがある理由はよくわからない。

だけど、あるからには特別な力があるのは確かなのだろう。


「だってさ、こういう奴らがいないと『騎士』や『戦士』だけで戦ったとして、気力が持つか?」

「あ……」

「温かい飯を用意してくれる人がいる。出迎えてくれる人がいる。家がある。そういうのは人として、大事だと思うぜ」

「確かに……そうですね。それにアルカナ様によって与えられる力です。もしかしたら、料理に何かしらの効果があったりするかもしれませんね!」

「おう、そうだな」


実際、あり得そうだからな。

それ以外にこうやって、ある理由が説明つかねぇし。


そう思いながらも、『カップ』のカードを元に戻し、次に取り出したのは『ワンド』のカード。


「次に紹介するのは『ワンド』。まぁ、コレは『魔導師』や『弓士』、『槍士』とか後衛や中衛に向いた力を与えられるもんだな。こればかりは例えとかは不要だよな? 『ソード』とあまり変わりねぇし」

「ハイ、大丈夫です。理解はできていますので。それに『カップ』にしろ、『ワンド』にしろ、獣人族である私には向いてない力ですし」

「……」


そういや、アイツ等は種族に得意不得意とか生み出していたか?

獣人族は身体能力が優れている代わりに、戦闘で使えるほどの魔力がないとか、遠距離武器とかはうまく扱えないとか。

そこまで制限をかける必要もないだろうに……嫌だねぇ。


「俺の印持つ時点で関係ねぇよ。お前には無限の可能性があるんだからな」

「え? あ、は、ハイ」

「で、最後に説明するのがコレ、『コイン』だ」


『ワンド』と入れ替える様に手に取った『コイン』のカードを見せる。


「このカードによって与えられる力は『能力』だ」

「の、能力、ですか? さっきまで説明していたのと、どう違うんでしょうか?」

「ん? あぁ、そうだな。簡単に述べるなら、俺たちアルカナに因んだ能力が授けられるってことだな」

「あ、アルカナ様によって授けられる能力……!? ということは遣いとして、一番と証明できるのは」

「まぁ、『コイン』だろうな。劣化版とはいえ、同じ能力を授けられるんだからな」


俺からすれば、コイツを受け取らなくても、十分だと思うけどな。

とは言っても、リリネは食い入る様にコインのカードを見ているわけで。

それを俺は元の場所に戻し、リリネへと向き直る。


「さて、説明はこれで済んだわけだ。早速だが、『眷属化』を始める。覚悟はいいか?」

「ハイ。さっきの話を聞いて、益々遣い……いえ、眷属にしてほしいと思いました。それと……ですね」

「ん?」


何か言いにくそうに、それでいながらどこか期待するような目で、俺を見てくる。


「あの、適性があり過ぎる、と言いましたよね? 私のこと」

「あぁ、言ったけど」

「な、なら! 私が与えられるのは『コイン』のカードということですか!?」

「……いや」

「え……?」


あの時の言葉に期待していたのだろう。

適性があり過ぎる、ということで『コイン』のカードを貰えるのだろう、と思っていたのだろう。

期待するような目と顔は段々落ち込んだ様な感じへと変わっていく。


「そ、そうで」

「『コイン』どころか、お前は『全てのカードに適性』を持っている」


言葉を遮る様に言ったことに、え? とリリネは反応を示す。

どういうことなのか? と目が点になり、理解が追いついてない相手に対し、カードが浮かぶ右手をリリネに向ける。

すると、四枚のカードは俺の手から離れていき、ゆっくりとリリネへと近づいて行き、到達すると同時にリリネの体の中へと同化する様に入り込んでいく。


「……ん!?」


少しフリーズしていた様だが、自身の体に入り込んできたものに反応し、小さな声を漏らし、少し息苦しそうにしている。

まぁ、自分の力となるとはいえ、カードがその身に同化しようとするんだ。

異物が入り込んできた感覚を覚えるのは当たり前だろう。


少し待ち、同化が完了したのか、肩で息をしながら、俺を見てくる。


「眷属化は完了だな。おめでとう、リリネ。今日からお前は俺の眷属だ」

「あ、ありがとう……ございます。って、そうじゃなくて!」


お礼を言ってから我に返ったのか、ジト目でこちらを見てくる。


「合図もなしに、いきなり眷属にするのは酷くないですか? 急すぎて、驚きました! 後、フール様は言葉が足りません! 私、あの時恥ずかしかったんですよ!? 私、凄いんじゃないかって思って」

「まぁ、実際凄いとは思うぞ。俺の印を持っているからって言って、全てのカードに適性があるわけじゃねぇんだからよ」


そういうとリリネは言葉を止めて、恥ずかしそうに頬を掻きながら、笑みを浮かべる。


「え、えっと、それは確かに嬉しい、ことですね。四枚のカードに全て選ばれたって言うことはここから、私は『ソード』から前衛の、『ワンド』から後衛、もしくは中衛の、『カップ』からは後方支援の力が授けられるんですよね。一体、どんな職種の力を授けられるんでしょうか?」

「いや、自由に変えられるぞ」

「……え?」


そういえば、ここの説明も後回しにしてたっけか。


「あの時言っただろ。俺の眷属になるなら関係ねぇって。それは状況に応じて転職が可能っていうことなんだよ」

「ど、どういうことですか? だって、あの時更に適したものを与えられると」

「あぁ、だから、その通りなんだよ。言っただろ? 俺の持つ『愚者』の暗示の一つに『可能性』があるって。それはつまり、例えば『ソード』を持った時点で、全ての前衛職に適性ありってみなされるんだよ。だから、好きな時に守りに優れた『騎士』から力に優れた『戦士』に。『戦士』から『武闘家』にって言う感じで、変わることができるんだよ。『カップ』も『ワンド』も然りだな」

「……なら、全てを宿すことが出来た私は」

「無限の可能性があるって言うことだろうな」


それこそ人が持つ本来の姿なのにな。

さてと、説明はこれくらいで十分だろう。


「後、質問はないか?」

「あ、あの『コイン』によって、与えられる能力は一体」

「『自由』」

「え?」


俺から与えられる能力なんて、ただ一つしかない。


この世の全てに囚われることのない力。


「『自由』の能力だよ。ありとあらゆるものに囚われることがなく、自分の思い描く様にできてしまう力。その力こそ俺が持つ唯一の力、『自由』の力だよ」


俺はそう言って、リリネに笑ってみせた。

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