1話 過去と妹
俺は、気がつくとベットの上にいた
何回俺は見知らぬ場所に辿り着けばいいんだ
と悪態をつきたいのを我慢して身体を起こそうとする
ベットが異様に柔らかく、身体がいつもより重いため体を起こすのに無駄に時間がかかる
「ふぅ、やっと降りれた」
俺は、立ち上がり偶然そこにあった鏡の前に立つ
そこには五年前くらいの自分の姿があった
白が若干混じった黒髪。前と違って死んでいない薄い紅の目。肌は外に出たこともないように白く、筋肉もなくなっている
箱入りのクソガキに戻っていた
マサト
御三家と呼ばれるホロ家の息子で、由緒正しい家系でありながらの落ちこぼれ
学園では馬鹿にされ、家では使用人に馬鹿にされる
どうしようもないやつ
俺は死んだはずであり、今ここにいること自体が夢かと思い頬を引っ張るが、痛みを感じる
「現実・・・」
本当にタイムリープしたのか
そう思って顔を触っていると、袖が引っ張られる
「兄ちゃ・・・。」
妹のセツナが10歳くらいの頃の姿でそこにいた
俺は少し涙目になりながらセツナの黒色の頭を撫で、小柄で小さい体を抱きしめる
「もう、あんなことしないからな」
「?・・・ん。」
ここは、俺らの寝室か
物は特になく、最低限のものだけが置いてある
高級そうな壁紙に、高級そうなライトスタンド
まるで高級ホテルのような自室を眺める
懐かしいな
俺は、セツナを抱き抱えベットに移そうとする
「もう少し寝てろ。」
「や、兄ちゃといっしょにいる」
「はいはい。わかったわかった」
セツナは無理矢理寝かすと暴れることを経験上知っていたため、潔く諦めて手を握る
「疲れたら言えよ?おんぶしてやる」
「ん。」
俺らは手を繋ぎ、寝室から出た
すると、復讐にまみれて走り回ってた広い廊下に入る
「ここは、第3塔か?」
廊下の半面は、窓ガラスでできているため辺りを見渡すと
中央に一つの塔とそれを囲むように俺らがいる塔を含めて四つの塔が聳え立っているのが見えた
空が流れるのをしばらく眺めていると
「若。おはようございます」
そこには、側近であったシズカがそこに姿勢良くきれいなお辞儀をしていた
漆のように光を反射する黒髪に、雪のように白い肌。全てを吸い込むような黒い眼。桃色の唇に通った鼻
可愛いというよりカッコいいという言葉が出てきそうなその整った容姿
メイド服を着ており、俺がかなり昔にあげた刺繍入りのメイド特有のシュシュのようなカチューシャをしている
その外見の全てが俺の知っているシズカだった
俺は、シズカを勢いよく抱きしめ押し倒してしまう
シズカは突然のことすぎて驚いたのか小さく悲鳴を上げ、共に倒れる
「若?」
温かい
ちゃんと脈を打っていて、固まってなどいない
薄い紫色の押花のような瞳の形
本人は気にしていたが、俺は好きだった
もう動くとは思っていなかった
ちゃんと生きてる
夢であって欲しくない
俺は涙が溢れそうなのを我慢して、嬉しさで震える
復讐で燃やし尽くしたと思っていた俺の心が段々と復元されていく
「しようにん。すぐに兄ちゃからはなれることをおすすめする」
セツナが10歳とは思えない形相でシズカを睨んでいた
シズカはそれに応じて「わかりました」と言い、俺を押しのけて立ち上がる
「失礼します」
シズカは、素っ気なくそう言い立ち去る
俺らはその様子を見守り、姿が見えなくなると
「ん。」
セツナは、手を差し出す。
俺はその手を再び握った
全部戻っている
あいつらも生きてるだろう
俺は高ぶる感情でスキップしそうなのを抑えて歩く
我が家をゆっくり見るのは久しぶりなので、もう少し散歩しようかと思った途端、セツナの腹が鳴る
「お腹空いたのか?」
「ん。」
しかし、外は涼しげな雰囲気を漂わせているため日の出から時間があまり経っていないように思われた
「食堂にでも行ってなんか探すか」
「ん。」
俺らはエレベーターの方向へと足を向けると、廊下を一周してきたのかまたシズカに会った
シズカは、少しお辞儀してから駆け足で去っていってしまう
「どうしたんだろうな」
「兄ちゃがさっきおしたおしたから?」
・・・それだろうな
確かに急に押し倒されると怖いよな
「兄ちゃ、セツナはいつでもいい」
「はいはい」
俺は、セツナの頭を撫でると嬉しそうに喉を鳴らす
すると、チンッとエレベーターが鳴りドアが開く
俺らはそれに乗り込み、一階を押す
景色がどんどん上がってく様子に楽しさを見出したのかセツナは上機嫌になる
一階につくと、セツナは俺の手を引き走り出す
「兄ちゃ、はやく」
「わかったわかった。朝食は逃げないから落ち着け。」
「・・・ん。」
セツナは、俺の言うことを聞き、歩き始める
食堂が見えるとそこには従業員の行列ができていた
従業員達は俺を見るや否や、腰を90度に折り頭を下げる
「おはようございます。若。セツナ様も」
「おはよう。」
「ん。」
俺らは挨拶を返して後ろに並ぶと、前にいた従業員が「どうぞ」と言って前を譲る
それが続き、最前列まできて注文の順番が来てしまった
「セツナ。何食べたい?」
「スザンヌ。」
「?なにそれ」
俺が知らない単語に戸惑うと食堂のお姉さんが申し訳なさそうな顔をする
「すみません。スザンヌは売り切れてしまって」
スザンヌって食べ物存在するのか?!
聞いたことがない・・・気がする
「ちょうしょく・・・にげた」
セツナが涙目になりながら言った
俺は、先程の自分の発言に気がつきハッとする
「せ、セツナ?」
「兄ちゃ、きらい」
「ぐっ」
俺はその言葉にショックを受ける
「せ、セツナ、他の食べ物なら沢山あるぞ?ほら」
「スザンヌがいい」
そんなにうまいのかスザンヌ・・・
「セツナ、オムライスにしよう。好きだろ?」
「スザンヌ・・・」
俺が振り切ってオムライスを頼もうとした
すると
「あの、セツナ様。よければ私のスザンヌ食べますか?」
「いいの?」
「はい!」
セツナは俺から離れて、声をかけてきた従業員にひしっと抱きつき「ありがと」と何度も呟いていた
スザンヌって、なんか怖いな
俺は、従業員にセツナを任せて注文カウンターに戻る
俺は一文なしだが。ここの食堂はうちの一族が運営しているため料金はいらない
そのうえ、ここの食堂はどんな国から来た人でも楽しめるようにいろんなものが置いてあるため、レパートリーが広い。
俺達にとって最高な場所である
俺は、遠慮なくいろんなものを頼み、受け取る
俺が戻ると、セツナがまだ従業員にしがみついていて満足げな顔をしていた
もうスザンヌ食べたみたいだな、どんな食べ物か知りたいが・・・いや、別に知らなくてもいいな
俺は、セツナの手を取る
「行くぞ?」
「やだ、このおねえさんもいっしょ」
「この人はこれから仕事があるんだ。離れないと迷惑になるぞ」
そういうとセツナは悩み始め、結局名残惜しそうに従業員から手を離して、俺についてくる
「ばいばい」
「はい。また」
俺はエントランスのソファーに座ると同時にお菓子という名の朝食を広げた
「食べたいもの、とっていいぞ」
「ん。」
俺とセツナは半分こすると外を眺めながら、そのお菓子を食べる
流れる雲や揺れる草木を見つめながら、大きくため息をついた
ここが本当に魔獣が跋扈する壊滅世界とは到底思えないな
あいつは、世界を救えとか言ったたけど
魔獣の発生を阻止しろってことだよな
俺は視界の端に捉えたお菓子の袋を必死で開けるセツナが目に入る
「セツナはいい子だな」
「そういうのはこうどうでしめす」
俺はやれやれと思いながら、セツナの頭を撫でると嬉しそうな顔をする
「兄ちゃ、きょうがっこうはいかなくていいの?」
今日がいつなのか全く調べてなかった
というより、昔の生活を楽しんでいて忘れていた
「今日何年何月何日かわかるか?」
「しんれきごじゅーいちねん。さんがつ、さんじゅーいちにち」
高校入学式の日前日じゃねぇか
しかもここ、六年前か
微妙だな
そう思っていたら、セツナは涙目になっていた
「兄ちゃ?」
「ん?・・・ああ」
おそらくだが、言えたことを褒めて欲しかったのだろう
俺はそう思い、セツナの頭を撫でる
「すごいぞ。兄ちゃんわからなかったからな」
「ん。」
誇らしげに胸を張っていた
問題は俺だな
昨日の俺が入学式の準備をしたのかどうか
したとしてその準備したものをどこに置いたかだな
後で探すかぁ
「若。おはようございます」
さっきあったはずのシズカがそこにいた
「どうした?さっき会ったろ?」
「ん。」
俺とセツナが顔を見合わせてそう言う
「いえ。今日、始めて若達にお会いしました」
つまり、さっきのことは忘れろと
「あー。本当ごめん」
「なんのことだか、わかりかねます」
「わかったよ」
俺は少し微笑み、立ち上がる
すると、同時にセツナもちょこんと立ち上がった
「少し散歩でもしようか?」
俺達は歩き回った
漂う懐かしい腐敗していない綺麗な空気
空を通るたくさんの飛行船ウイルスが覆わない空
魔獣の声が聞こえないのどかな道
透き通った綺麗な魚のいる池
廃れた文明は生きている
全てが俺の望んだ理想だった
ここが地獄へと変貌するとは思えない
俺はここを守りきり、みんなで平穏に生きる。
あいつらが聞いたら笑うんだろうな
そんな叶えることのできない夢を
上等
今度こそ絶対に何も失わない
俺はそう強く心に決めた
俺は目を開けると見覚えのある白い空間が広がっていた
「やあ、マサト君。」
「誰だ?」
そこには、細いのにふっくらとした四肢に、美貌。それ長い布一枚のみで作ったような服で包み隠される
目はエメラルドのようにキラキラと光り、肌が雪のように白く、淡いピンクの頭の上に輪っかが浮いていた
一瞬、見惚れてしまうが意識を呼び覚ます
「僕は見ての通り、女神様だよー?他の人たちには創造主って呼ばれてるけどねー。オーちゃんが言い忘れたことあるから伝えにきたの」
オー・・・
オーディン関連の奴か?
「今日じゃなきゃダメだったのか?せっかくいい気分だったのに」
「え?いや別に?暇だったから。あっちなみにこれ睡眠に入らないから明日滅茶苦茶眠くなるから気をつけてね」
「本当に自己中心的だな」
創造主は、腕を組み。うんと頷く
「そうなんだ。誰も僕のことを止められない。だって、僕は神様だから」
「・・・・で、要件は何だ?」
俺は、諦めて創造主に要件を聞くと
創造主は俺に肩を組んできた
「一つ今の君に忠告しておこう思ってね。まぁ、それは最後に取っておいて、恋バナしよ。こ・い・ば・な。さっきまで見てたけど。本当に大好きなんだねー。シズカちゃんのこと。熱烈なハッグみしてもらったよぉ〜」
創造主は、恋バナというのに興味を持っているのか、少し興奮めに聞いてくる
俺はそれに威圧的に答えた
「舐めんなよ。俺が好きなのはタイムリープする前のシズカだ。今のシズカは関係ない」
そう俺が答えると創造主がフューと口笛を吹く
「かっくぅいー。一途だねぇー。じゃ、尚更この忠告は必要だね。」
創造主は、さっきまでと態度・・・というより雰囲気が変わった
「いい?一つ忠告。あなたはタイムリープしたわけじゃない。擬似的なものであって近いだけ。あなたが体験したことが必ず起きるとは限らない。どこかに綻びが存在するはずよ。気をつけてね」