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公設ホストクラブ?!

セドリック殿下の元で働き始めて数週間が過ぎた。


仕事は、おしゃべりがメイン……かと思いきや、なんだか殿下の私的な仕事を手伝わされたりしてて、思ったよりも大変だ。


「……うう、Excel欲しい。」


「分かるよ。Wordもね。」


「せめて電卓……。」


殿下の私的なお仕事というのは、植物の栽培だ。……とはいえ、お手入れなんかは庭師さんにお任せしており、殿下は細かい生育データなんかを収集している。


殿下は、この世界で真っ青な薔薇が普通にあちこちに植えられているのに驚き……それ以来こちらの植物に興味を持っていて、あちらの世界では見たことの無かった草花を育てているのだそうだ。


確かに前世では真っ青な薔薇は無かった……。

色々な人が作ろうとしていたが、青みが強い紫色の薔薇しか出来てなかったはず……。


だけど植物にまるで関心の無かった私としては、殿下からその話を聞くまで、まるで気付かなかった。「ああっ!そういえば!」って感じである。


「あ、計算表ならあるけど使う?……僕は好きじゃないからあまり使ってないんだけど。」


殿下はそう言うと辞書みたいな本を棚から取り出した。


「何ですか、これ。」


「計算結果が載っている、いわば掛け算辞典だよ。この世界は九九がないし、これを使う人も多いんだ。まあ桁数が増えてくると九九を知っててもしんどいから、あんまり好きじゃないけど、これを使う事もあるんだ。」


私はずっしりと思い掛け算辞典を押し除けて首を横に振った。


「ソロバンの方がマシですね。」


「えっ?!ソロバン?!……ポリーちゃん、ソロバンを覚えてるの?」


「え?」


「僕さ、ソロバンがあった事は覚えてるんだけど、どんなだったか、うろ覚えなんだよね。あの玉、何個あって何列なんだっけ?ってね。……正直いうと、使い方もよく分からないんだ。小学校で一瞬だけやったけど、ローラースケートにして滑ってた事しか覚えてなくて……。だからさ、知ってるなら教えてよ。あったら便利そう。」


「いいですよ。私、ソロバン習ってたので、詳しく絵に描けます!……使い方も教えられますよ?」


「うわっ!やった!……じゃあまず、ソロバンの設計図を書いてもらって……って、もうお昼じゃん!続きは昼ごはんの後にしようか。」


ハッとしたように時計を見つめると、殿下はそう言った。最初に会った時に、私がお城の食堂で食べるご飯を楽しみにしていると言ったので、殿下はそれをよーく覚えていて、お昼の時間には必ず解放してくれるのだ。


「本当だ!……では、行ってきます。」


「あ、待って。……僕も行く。」


「ええっ?!……さすがに王子様が食堂に行くのはマズイんじゃないでしょうか?いつも執務室とか部屋に用意してもらってますよね?……だって、お城に勤める人たち用の食堂ですよ???」


「そーなんだけど……。ポリーちゃんが毎日、満足!満腹!って顔で帰ってくるの見てたらさ……食べに行ってみたくなっちゃったんだよ。僕だってお城で働いてるし利用しても良いんじゃない?それに、変装したらバレないって。僕って、地味な王子様だし。」


……。


申し訳ないけど、そうかも。


セドリック殿下は、かなりの美形なのだが、あまり目立つ王子様ではない。……というか、髪型とか服装を、周りに上手く埋もれさせる感じの、絶妙に地味になるよう選んでいるらしく、その上で存在感も消しているのだ。


ちらっと他のメイドさん達に聞いたところ、第一、第二王子が王妃様の子供であるのに対し、セドリック殿下は側妃とすら認められていない、お妾さんの子供なのだとか。……そんな訳で、公務も少ないらしく、こうして王宮の片隅でひっそりと植物の研究に精を出している。


もしかしたらだけど……。


私と同じ様に、前世で大人だった殿下は、そのへんを割り切ってて、煩わしい事にならないようにと、わざと目立たず大人しくしてるのかもな……って、私は思っている。


そんな事を考えていると、いつもカチッとしている髪型を乱し、伊達メガネをかけた殿下が出来上がっていた。


「ほら、これならバレなそうじゃない?」


……うーん。


どう見ても髪の毛がグシャグシャにして、メガネをかけただけの殿下にしか見えないけど……。ま、いっか。


お城なら、危険がある訳でもないだろーし。


「じゃあ、行きますか。」


そう言うと、私と殿下は食堂に向かった。







「うわっ、なんか凄い人だね?!食堂って、こんなに混んでるの?!」


食堂にやってくると、入り口には物凄い人が集まっており、殿下は驚いて私に尋ねた。


「いえ?……いつもはこんなに人は居ないのですが……?」


お城には売店もあるし、お弁当を持参する人もいるらしく、ガッツリ満腹系の食堂を愛用しているのは、城勤めの武官が多い。


ちなみに私はこのガッツリメニューの虜になっている。……前々からなんとなく思っていたんだけど、クロノス家もカッシーニ家もお食事がお上品過ぎるんだよね?薄味とでもいいますか……。


前世の記憶のある身としては、たまにはこう、しっかりした味付けの、ザ・定食!って感じのモノも食べたくなる訳でして……。


……。


それにしても、今日集まっているのはメイドさんやら文官をしている女性が多い気がする。


何かイベントメニューでも出るのかな?


私は人だかりに居た、ひとりの女性に聞いてみる事にした。


「あの、今日って何かあるんですか?」


「え?……貴女、知らないの?今日はね、なんと受付の人たちが食堂に食べに来てるのよ!しかもね、今日は『金の君』のライオネル様と『銀の君』のクリストファー様がご一緒なの!!!……はぁ、眼福ってヤツよ!!!」


!!!


クリストファー様が……来てる???


教えてくれた女性の肩越しの、かなり遠くに、凄いキラキラしい男性の集団が見えた。その中には、いつもの見慣れた銀髪もある。


……うわ……はじめて働いてるクリストファー様を見たよ。


受付の制服なのか、みんなお揃いの白い詰襟を着ていて……うん。アイドルグループとか、ホストみたいだ……。無駄に眩しい。


「ん?どうしたの?何があるの?」


背伸びして伺っていると、セドリック殿下が背後にいて私の視線の先を見つめていた。


「なんか、受付の人が来てるらしいんです。」


「へぇ……。公設ホストクラブか……。本当にイケメンさんばかりなんだね。あれだけ良く集めたもんだ。」


……。


やっぱりそう言う認識なのでしょうか、受付……。


「セドリック殿下、向こうに行きましょう?混んでるし……売店のお弁当もおすすめなんですよ。」


なんとなくだけど……殿下とランチしてるところなんてクリストファー様に見られたら、また夜に変な要求をされる気がして、私は別の場所に行こうと殿下の手を引いた。


「お忍びだから、セドって呼んでよ、ポリーちゃん。」


「はあ……。では、セドさん売店に行きましょう。お弁当は中庭のベンチで食べられるんですよ。」


「なんかさ、ピクニックデートっぽいね。」


「デートじゃないです。ランチです。そもそも私、デートはイケメンラブラブ旦那様としかしないって決めてますんで。」


「つれないなぁ……。」


そんな事を話しながら売店にやって来ると……。



【本日のお弁当・完売しました】



売店にはそんな貼り紙が貼られていた。


多分あれだ。

受付メンバー見たさに人出が凄かったから、関心のない人たちが混雑を避けてお弁当に走ったのだろう。


「……混んでるけど、食堂に戻ろうよ。……そろそろホスト君たちも食べ終わったかもよ?」


「そう……ですね。」


そして私たちが食堂に戻ると……。


「「あ。」」


入り口でバッタリとクリストファー様一行と鉢合わせしてしまったのだ。


「クリス、知り合い?」


クリストファー様の隣にいた金髪のイケメンさんが、驚いて見つめ合う私たちに声をかけた。


「あ、いえ。……最近、僕、猫を飼い始めまして。その猫にあまりにもソックリな女性でしたので、驚いてしまったんです。ポリーって名前のメス猫なんですけどね。」


……メ……メス……猫。


てか、お仕事中は、いつものガキ大将モードではなく、好青年モードなんですね……クリストファー様。


「ねえ……。あの人、ポリーちゃんと同じ名前の猫を飼ってるんだってさ、奇遇だね?」


殿下がコソッと耳打ちしてくると、クリストファー様にギリっと睨まれた。


ヒェッ……。


「へえ、クリス、猫なんて飼ってるんだ。」


「ええ。……ちょうどソコの子の髪色みたいな、サビ毛の猫なんですよ。可愛いんですけど、飼い主に対する忠誠心が無いみたいで、すぐフラフラっと愛想を振り撒きに行ってしまうんです。」


「まあ、猫ってそんなモンじゃない?」


金髪さんはそう言うと、華やかな笑みをうかべた。うわっ、なんだか眩しいっ!


……でもさぁ、サビ毛って……ちょっと、ひどくない?

確かに私の髪は黒に茶色の毛が混じった感じなんだけど……。


でも、気にしてるのにっ!!!


「ポリーちゃんはサビ毛じゃないよ!……失礼だね、君!」


私の背後にいたセドリック殿下が一歩踏み出すと、クリストファー様にそう言ってくれた。


「ああ、失礼しました。僕、お連れの方を侮辱するつもりはなかったんですよ。……ただ、僕の可愛い猫にとてもソックリだと同僚に伝えたかっただけなのです。飼ってみると、サビ毛も非常に愛おしいものでして……。しかしなからセドリック殿下、城内とはいえ護衛も付けずにこちらの方まで出向かれるのは、あまりよろしく無いのでは?……よろしければ私どもでお部屋までお連れいたしましょうか?」


「ええっ?!……僕の正体、バレてたんだ?!……いや、いいよ。せっかく食堂に食べに来たし、食べてから帰りたい。……それに受付の人ごときに、護衛なんて無理だと思うし……。君たち顔だけが取り柄のホスト役なんだろ?帰りは誰かちゃんとした護衛を呼ぶよ。」


殿下がそう言って後退りすると、金髪さんも満面の笑みを浮かべる。


「いえいえ、殿下。私たち受付は要人のおもてなし係ですんで、腕に覚えがある者ばかりなんですよ?いざって時は彼らをお守りせねばなりませんから。まあ、皆さん、受付は顔だけが取り柄の部署だとお思いになってますが。ですが、私どもはそれぞれ外国語も数カ国語は出来ますし、マナーから教養に至るまでお客様に失礼のない対応ができるよう、常に学んでおります。ですので、失礼ながら顔だけ……と言う訳ではないんですよ。……あ、私……受付チームでチーフをしております、ライオネルと申します。クリス、君もご挨拶したら?私たち二人で殿下を部屋まで案内しよう。」


「ええ、そうですね……。受付で副チーフをつとめております、クリストファーと申します。先程は失礼に取られる言い方をしてしまい申し訳ございませんでした。……それでは、お部屋までご案内させていただきます。」


クリストファー様はそう言うと、優雅に頭を下げた。


……てか、誰?


最早、キャラが違いすぎて、クリストファー様に見えないよ……。


「い、いや。食堂で僕たちは食事をしたくてね……。」


「殿下、手配させていただきますよ。……おい、アニー、ケイト、食堂の料理をセドリック殿下の執務室に運ぶよう依頼を。……他の者は業務に戻って下さい。私とクリスは少し外します。……さ、参りましょう殿下。」


ライオネル様はそう言うと、有無を言わせず私たちを王宮の奥に戻るように促した。






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