麗しの「金の君」
「へぇ……。やっぱりこの子がクリスの猫ちゃんなんだ。なんかあやしいと思ってたんだよね?……でも、俺にまで結婚したのを秘密にしてるなんて、酷いな。」
金の君ことライオネル様はそう言うと、ニッコリと笑った。
ううっ。
相変わらず笑顔が眩しすぎます。No. 1ホスト……もとい「金の君」のライオネル様……。
……そう。
今日はお休みを取ったクリストファー様が、ライオネル様を我が家に招き、私を妻であると紹介したのだ。
……ちなみに。
カツラは完成してきたので、もちろん今日は装着済みです。……今日の私は「少年」ではありませんことよ?奥様なのですわ。オホホホホ……。なんか、自分でいってて虚しいな。
「……いずれライにだけは打ち明けるつもりでいた。」
「ふーん。まあ良いけど。……で、クリスはどこで捕まえたのさ、こんな可愛い子……。俺はてっきりクリスはずっと……。うわっ、ちょっと、なにっ?!……顔、怖いよ!」
クリストファー様の物凄く怖い顔と圧に気付いたライオネル様が引き攣った笑顔を浮かべた。
「……カッシーニ伯爵家だ。」
「え。じゃあ、この子が……レイチェル嬢の……?」
「ああ、義理の妹だ。」
「……はぁ〜。なるほどね……。それで電撃結婚か!……ほんとクリス、お前……良くやるよ……。つまりは、この子が噂のポリアンナちゃんなんだ?」
--えっ???噂って……何ですか?!?!
驚いてクリストファー様の方を見つめると、やっぱり不機嫌そうな顔をしているクリストファー様と目が合った。
「……ある限られたごく一部で、お前は有名人だったんだ。」
「え?……有名人???」
私が首を傾げようとすると、クリストファー様に両手でパッと頭を固定された。
--へ???
「ライの前なんかで、あざとく小首を傾げるな!!!」
「は?!え???……な、なんで?……ちょっと考え事をしようとしただけですよ?」
「いや、違う!!!お前の仕草はな、いちいちあざといが過ぎるんだよっ!!!」
私が意味も分からずクリストファー様に怒鳴られていると、ライオネル様が爆笑を始めた。
「あはははっ!!!……最高!!!!クリス、必死すぎ!!!……さすが噂のポリアンナちゃんだ!!!」
クリストファー様の顔と圧が一気に増した。
「おおっと……。クリス、マジで怖いって……。分かってるって、余計な事は言わない。……まあ、なんて言うかさ、結婚おめでとう。……クリスの幸せが俺は嬉しいよ。」
「……ありがとう。ライ。」
2人はそう言うと、和解したかのように微笑み合った。
???
「あの〜、私の噂って何ですか???」
「しつこいな、ポリー。」
「いや、気になるじゃないですか?」
ある限られたごく一部ででも、噂になってたなんて聞いたら……そりゃ気になりますよね???
「……チッ。……レイチェルの滅多に社交界に現れない妹は、オヤジ殺しの媚び媚び娘だって噂だよ……!」
「ええっ?……ライオネルさん、それ、本当ですか?」
いつもみたいに意地悪くそう言われて(またしても舌打ちまでした!)、私はライオネル様に聞いてみた。
だって、クリストファー様はいつもそればっかなんだもん!……私、別に媚びてないし、オヤジは1人も殺してませんから!!!多分……?……少なくとも、物理的にはやってない!
ライオネル様は苦笑いを浮かべて、肩を竦める。
「んー?……まあ……だいたいはそんな感じかもね?……でも、勘違いさせてたのは、オヤジだけじゃないみたいだけど。」
「黙れ、ライ!!!」
クリストファー様が、テーブルをガンと蹴飛ばした。
「もう、ほんとクリスはガラが悪すぎる。……仕事中とプライベートが別人すぎだよ……。なんなのかね。……ポリアンナちゃんも、最初驚いたでしょ?」
「ええ、まあ。でも、慣れてしまいました。王宮で見かけたクリストファー様の方がむしろ『誰?』って感じでしたね。」
「そっかぁ、慣れちゃったか。……良かったね、クリス。ありのままの君を受け入れてくれるって。」
「うるさい!!!猫かぶりはライも一緒だろ?!」
「……嫌だなぁ。俺は君ほどガラは悪くない……。」
「ライはガラが悪いんじゃなくて、始末が悪いんだろ!……ポリー、いいことを教えてやろう。……ライはなこんなんだが、結婚5年目で5人の子持ちなんだ。つまり立派なオヤジなんだよ!!!」
「ええっ、ライオネル様も既婚者なんですか?!」
驚いてそう尋ねると、ニッコリと微笑み返される。
神対応のアイドルのようだ……。
結婚してて、子供が5人もいるなんて、全然見えない……。
--んっ???
結婚5年目で子供5人???
……あれ?こっちの方がビックリ案件じゃない???それって、毎年お子さんが生まれてるって事だよね?
思わず、マジマジとライオネル様を見つめると、ライオネル様はプッと吹き出した。
「えっと……ポリアンナちゃん、誤解があるようだから言わせてね?結婚5年目なのに子供が5人は、確かにビックリだよね?……だけど、俺たちの場合、1回目が双子ちゃんでね、大変だったんだけど、すごーく可愛いくてさ、それで、「やっぱり3人は欲しいね!」ってなって、チャレンジしたら……次は三つ子ちゃんでしたって言うね……。」
「う、うわぁ!!!」
2回しか産んでないのに、5人って事ですか……。ある意味、そっちの方がすごいよね?!
「うん。俺も奥さんも、さすがに「うわぁ!!!」ってなったよ。双子を育てるのも戦争だったけど、三つ子はさぁ、俺が手助けしても、一人余るからね。……なのに俺は国外に出る仕事もあって……。」
「……こいつさ、秘密主義だから、それまで結婚したのも子供がいるのも黙ってたんだ。だけど限界が来て、『国外の仕事を代わって欲しい。』って、俺に頼んで来て……で、問い詰めたら……。ビビったよ。早く言えよ?!俺って信用できないのか?!って、あん時はかなりムカついたな……。」
「自分も今回は黙ってた癖によく言うよ。……俺の場合は、今まで受付では既婚者が働いていた前例がなかったからさ。イメージも大切だから、言い出しにくかったんだよ。……後輩達にも『下手な浮名は流すなよ!』って厳しく指導してるのに、自分は結婚してて子持ちでしたってさ……。色々と示しがつかないだろ?」
ライオネル様はそう言うと困ったような笑顔を浮かべた。
「でもさ、ライは浮名は流してないだろ?全部コソコソと秘密裏に済ませやがってさ……。俺、お前に結婚するような女性が居たのも知らなかったんだぞ?」
「あはは。まあ俺、クリスみたくバレバレに動揺したりしないからね?……俺さ、自分の親に恵まれなかったからさ、幸せな家庭ってのに憧れてたんだよ。だから妻と出会って、愛し愛される関係を知ったら、早く結婚して家庭を持ちたくなっちゃってさ。受付の奴らって……そういうヤツも多いじゃん。」
そうか……。
ライオネル様もクリストファー様と同じく12、13歳から受付で働いてるんだものね。色々と複雑なご家庭で育った方なのだよね……。
「そうだな……。だいたい二極化するよな。ライみたく結婚願望がやたらと強くなるか、自分は家庭を持つのは無理だと思ってしまうか……。……まあ、クソな親なんかに影響される時点で、どうかと思うがな!……俺は自分は自分の人生の支配者であるべきだと思う!!!」
--出た。俺様、いや……クリストファー様。
「はぁ。クリス節は今日も絶好調だね。……ま、昔話はこれくらいにして……そろそろ本題に入ろうか。クリストファーが、結婚報告の為だけに、俺を呼び出したとは思えないんだよね。……俺に何の話しがあるのかな……?」
カチャリと小さな音を立てて、ティーカップを置くと、ライオネル様はそう言って、真顔で私たちを見つめた。
◇
「……今の、聞かなかった事にしていい?……俺さ、可愛い子供が5人もいて、愛する奥さんもいる訳で……。」
クリストファー様がお姉様の事をライオネル様に打ち明け、裏カジノの話をすると、ライオネル様は困惑した顔を浮かべてそう言った。
「ああ……勿論、そのつもりで話した。ライを巻き込むつもりはないんだ。俺たちがライに頼みたいのは、この件への手助けではなく、裏カジノの招待状を入手して欲しいって事なんだ。」
「……そのくらいなら……まあ。……でも、俺はあんまり……勧めない。裏カジノもだけど、この件を調べるのも……。」
「ライ……。」
「なあ、クリス……。確かに俺もさ、レイチェル嬢の処刑は驚いたよ。彼女が貢がせるような性格じゃない事も知っていたし。だから、不信に思う気持ちもわかる。……だけどさ、クリスにはもうポリアンナちゃんが居るだろ?結婚したんだろ?ならさ、2人で幸せな家庭を築きなよ。子供をつくって生活に追われてたら、レイチェル嬢の事なんか、いつか思い出になるって……。こんな事をして、薮からヘビが出てきたらどうするんだよ?悪いけど相手は王族……国家権力かも知れないんだぞ?……悪い事は言わない。2人が幸せになる方が、結果的には天国のレイチェル嬢を喜ばせる事になるんじゃないかな?」
……。
ライオネル様の言葉に、クリストファー様はスッと無表情になった。
きっと、クリストファー様は、こういう言葉を何度も聞かされたのだろう。
クリストファー様とお姉様には、社交界に共通の友人が何人もおられた。だから、そういった人たちにお姉様の処刑はおかしいんじゃないかと訴えて……その度に、こうして嗜められてきたのではないだろうか……。
……。
ライオネル様の言う事には一理あるとは思う。
お義父様やお母様も同じ様に考えていたのだろう。
だけど……。
そんな簡単に……割り切れないよ……!
私はテーブルの下で、クリストファー様の手をギュと握った。クリストファー様は、そのまま握り返してくれる。
「ライ、忠告ありがとう。……だけど、俺は……俺たちは、レイチェルが冤罪なら……その罪を晴らせるなら晴らしてやりたい。そして、レイチェルが犯罪者だなんて後世に残る記録は訂正してやりたいんだ。あいつは、いじっぱりだけど可愛い普通の女の子だった。悪女なんかじゃないんだ!!!……じゃなきゃ、俺は死んでから天国でレイチェルに合わせる顔がない。やってダメならともかく、悔しい気持ちで死んだろうに、俺はレイチェルを忘れて、ポリーとイチャコラして暮らしてましたなんて、絶対に言えないんだ。……だから、俺はレイチェルの汚名をそそぎ、それからポリーと……たっぷりとイチャコラして暮らしてやるっ……!!!」
私はクリストファー様がライオネル様に言う事に同意しつつ、ウンウンと頷いていたけど、最後の最後でポカンとなってしまった……。
--え。
するんだ、イチャコラ……?私と???
「えっと……。最後が残念な感じで、とてもクリスらしね。……分かった。とりあえず裏カジノの招待状は手に入れてあげるよ。だけどさ……大人になって割り切る事も時には必要だってのは忘れないで。ヤバくなったら、逃げて欲しい。真相にたどり着けなくても、だ。……死んだレイチェル嬢に顔向け出来なくても、生きてるポリアンナちゃんに何かあったら、どうしようもないんだからさ……。」
「……ああ、それは理解している。」
ライオネル様はクリストファー様の肩を、ポンポンと優しく叩く。クリストファー様は、その手を掴んで小さく「ありがとう。」と伝えた。
「それから……カジノでは絶対に飲み食いするな。……俺を誘ったヤツにそう言われたんだ……。何を意味するかは……だいたい……想像がつくよな?」
「ああ。……裏カジノ……だからな。……十分に気をつける。」
クリストファー様はそう言うと、静かに頭を下げた。




