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第三十六話 リザルト

 立ち上がり、メタルドライアドたちの遺体に近づく。

 ほぼ原形をとどめていない。


「砂粒になっていますね。これもグロウ様が?」

「……いや、俺は破壊しただけだ。

 あえて砂粒にする必要はないし、砂粒にするにはそれだけ魔力が必要になる」

「では自然に、ということでしょうか」

「恐らくな」

「そういえばメタルドラゴンの遺体からも、メタルの欠片はあまりとれなかったと聞いています。

 ほとんど砂粒になっていたとか」

「妙だな……倒して間もない時は砂状じゃなかったはず。

 他のメタルもそうだったはずだ」


 ただ、森の中で倒したメタルは倒してそのままにしているから、今どうなっているかは知らない。

 メタルの欠片は調査のために一部持ち帰りはしたが、あれは砂粒になっていない。

 たまたまだったのか?


「メタルは討伐後、砂粒になり、一部メタルの欠片を残す、ということでしょうか」

「それが妥当な線だな。なぜそうなるかはわからないが」


 メタルドライアドの身体は原形をとどめていない。

 だが二つの砂の山が綺麗に隣り合っている様は、なぜか絆のようなものを感じた。


つがいだったのでしょうか」

「さてな。だが、あながち間違ってない気がする」


 俺は砂粒に手を突っ込んだ。

 アイリスがぎょっとして何か言いたげだったが、無視して中を探る。

 大量の砂だ。手探りでは不可能。

 ただこれは金属、メタルの砂。

 通常の金属魔術のように魔力の伝導は難しいが、形を探ることくらいはできる。

 集中して、内部を探索。


「見つけた」


 俺は銀の小手を縄に変形させ、目的のものを引き付け、手に取った。

 手に入れたものはメタルの欠片。

 巨体であるというのに取れたのはたった二つ。

 比較的軽いため持ち運ぶこともできそうだ。


「凄まじい魔力ですね。以前拝見したメタルドラゴンの欠片よりも」

「さすがは神話級ってことか。モンスターの位によっても魔力量は違うらしい」


 俺はちらっとアイリスを一瞥した。


「そ、そちらはお収めください。わたしは何もできなかったので」

「そうさせてもらう」


 俺は地面に落ちている銀の剣を眺めた。。

 数々の金属を試して、純度を上げて作ったものだ。

 長い間小手として着けていたが、愛着があるかと言えばそうでもない。

 クズールの魔術のせいで一部焦げており、新調する必要もあった。

 俺はメタル【ドライアド】を小手の形に変形メタモルフォーゼした。

 以前の小手よりもかなり質量は大きいため余ってしまう。

 小手だけにするには邪魔だし、どうするか。

 ……そうだな、そうするか。

 俺は残ったメタル【ドライアド】を脚鎧に変形させた。

 両手足に装着したため、軽戦士のような見目に変わった。

 以前の小手よりも圧倒的に魔力伝導量が大きい上に、魔力を内包しているため、これまで以上に金属魔術を効果的に使うことができるだろう。

 メタルガントレットとメタルグリーヴって感じだな。


「そうやって身に着けるのですね!」

「ああ、金属がないと金属魔術師は何もできないからな」

「とてもお似合いです」


 小さく拍手するアイリスを前に、どうも居心地が悪くなり、俺は後頭部を掻いた。


「そいつはどうも」


 気恥ずかしさを感じつつも、俺は砂粒を凝視した。


「なぜ襲ってきたのでしょう?」

「クズールが魔術をバカみたいに使っていたからな。

 それで目を覚ましたってところだろう」

「目を覚ました? では村の地下に眠っていたと」

「ああ、俺の推測が正しければな……この先に、その答えがある」


 男メタルドライアドが現れた穴の先、アイリスが弟子たちと脱出した先だ。


「外、ですね。あ! わ、忘れておりました!

 実はその先に洞窟があったのです。い、いえ、ここも洞窟なのですがそうではなく!

 そこに村人の方々もいて、女性からマジックポーションをいただき……。

 弟子たちはそこに待機させております!」

「……何となくわかるけどおまえ説明、下手な」

「ううっ、申し訳ありません」


 五賢者の筆頭、世界でただ一人の白魔術師。

 魔術師の代名詞とも言われているアイリス。

 それがこんなに普通の少女だったとは。

 いや俺が勝手に幻想を抱いていただけなのかもしれない。

 俺だけじゃない。

 他の魔術師も、アイリスを知っている全員が彼女を偶像化している。

 金属魔術師への偏見も同じように。

 俺も変わらないってことなのだろうか。

 ……いや、さすがに変わるだろ。

 少なくとも俺は蔑んだり、馬鹿にしたり、下に見たりはしない。

 やっぱり人間は……【大半の人間】はクズだな。


「とにかく一度出ないか? こんな場所からはさっさとおさらばしたい」

「は、はい。では、参りましょう」


 アイリスは俺が何を言うでもなく、フライを使い空を飛ぶ。

 俺は金属魔術を使い、アイリスの身体にメタルの縄を巻き付けようとした。

 が、ダメ。

 変形さえしない。


「さっきの変形で、最後の魔力を使ったらしい」

「で、では、お手数をおかけしますが背中にお捕まりいただけますか?」


 お手数をおかけしてしまうのは俺の方なのだが、なぜかアイリスが恐縮していた。

 少しだけ宙を浮いているアイリスの背中に、俺は負ぶさった。

 密着した瞬間、先ほどの光景を思い出してしまった。

 僅かに鼓動が早くなると、不意にアイリスの横顔を見る。

 赤い。耳まで赤い。

 その上、ちょっと小刻みに震えている。

 妙な気まずさと無言の時間が過ぎていく。


「出口まで遠いか?」

「い、いえそれほど」

「……歩くか」

「……は、はい」


 互いに距離をとると、ゆっくりと歩き始めた。


「あ、あの……さ、先ほどのことですが」


 アイリスは綺麗な人差し指を唇の正面に添えて。


「誰にも言わないでくださいね」


 そう恥ずかしそうに言った。

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