表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/44

第三十一話 八秒の交渉

 家屋を思わせる巨大な金属。

 岩壁を吹き飛ばしながら現れたのはもう一体の『メタルドライアド』だった。


「うわあああっっ!!?」

「た、助け……があっ!?」


 飛び散った無数の岩に直撃したアイリスの弟子たち。

 咄嗟にアイリスは何か呪文を唱えようとしたが間に合わない。

 弟子の半分近くは落下し、下のメタルドライアドに飲み込まれていった。

 アイリスが小さく喉を鳴らす中、俺は眼前の情景に目を奪われた。

 神話級のモンスターが二体だと?

 しかも双方共にメタル。

 こんなことあり得ない。

 現実逃避したくなる自分を何とか抑え、俺は状況を把握しようと思考を加速させる。

 目の前のメタルドライアドの上半身は男の見目だった。

 眼下のメタルドライアドは女。

 つがいなのか?

 いや、そんなことは今はどうでもいい。

 地上への道は男メタルドライアドの厚い根で覆われている。

 下からは女メタルドライアドが上ってきている。

 そして斜め上前方の壁からは男メタルドライアドが這い出てきている。

 男メタルドライアドの位置は地上への道から近く、俺たちが到達する前に男メタルドライアドが行く手を塞ぐだろう。

 弟子たちは半分脱落、アイリスは焦っている。

 俺だけであれば男メタルドライアドの身体を破壊しつつ、地上へ脱出することも可能だろう。

 だがアイリスや弟子たちは間違いなく死ぬ。

 どうする。

 見殺しにするか?


「はっ、俺は馬鹿か」


 村の連中を見捨てようとしてもできなかったじゃないか。

 あの時、俺はどう思った。

 胸糞悪いと思ったはずだ。

 確かに無駄に人助けをする必要はない。

 だが助けられるならば助けなければ、後味が悪い。

 見返りを求めず、自分のために……アイリスたちを助ける。

 だが、この状況を打破するにはどうすればいい。

 どうすれば残っている奴らを助け、二体のメタルドライアドを倒せる?

 男メタルドライアドが完全に地割れ内に這い出てきた。

 アイリスたちのライトによって男メタルドライアドの巨躯が照らされる。


「ひいぃっ!?」


 弟子の一人が叫んだ。

 上も前も下も絶望。

 誰もが諦観を抱いただろう。

 俺一人を除いては。

 俺は咄嗟に叫んだ。


「集まれ!」


 空洞内に反響する俺の声。

 弟子たちは俺とアイリスに気づき、戸惑うことなく即座に集まってきた。

 それは俺への信頼感ではなく、アイリスを見ての行動だったのだろう。

 だがそれでいい。

 弟子の数は十人ほどに減っていた。

 恐らくは十代がほとんど、青臭く、そして酷く頼りない連中だ。

 男メタルドライアドが俺たちに気づき、口を大きく開く。


「ギィィッィアアアアッ!」


 呼応するように女メタルドライアドが叫んだ。


「キィィィィッィィイッ!」


 耳をつんざく鳴き声に、恐れ慄く弟子たち。


「ひっ、ひぃっ! ア、アイリス様、ま、魔物が!?」

「し、死にたくない……っ」


 泣いているか顔を青くしている連中ばかりだった。

 上から下からメタルドライアドが迫る中、泣き言を漏らすだけ。

 これが五賢者筆頭のアイリスの弟子と思うと辟易とした。

 だが基本的に魔術師とは実戦経験が少ないものだ。

 特にこんな生きるか死ぬかの状況に陥った魔術師なんてそうはいないだろう。

 それはわかる。

 だが俺には関係ない。

 奴らの心情なんて慮る時間なんてない。

 メタルドライアドが迫る。

 猶予はあと十秒もない。

 時間がない。


「わ、わたしがアースウォールで食い止めます! みなさんは端に逃げて、上に!

 出口の根はグロウ様、お願いします! わたしが差し上げられるものはすべて差し上げます!

 ですからどうか!」


 早口で八秒。

 咄嗟の作戦にしては悪くない。

 だがアースウォールはそこに存在する土や岩を動かし壁とする魔術だ。

 つまりこんな空洞でそんなもの使ったら、自重に耐え切れず崩落する可能性が高い。

 そうすれば無数の落石に俺たちは襲われるだろう。

 端にいようが、落石を避けるのは至難の業だ。

 そんな危険を伴うからこそ、アイリスは今の今までやらなかったんだろうが。

 一か八かの賭けにしては分が悪すぎる。

 アイリスが俺に請うような視線を送ってくる。

 言いたいことは十分伝わった。

 だから俺は答えた。


「イヤだね」


 アイリスの顔が絶望に染まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご覧いただきありがとうございます!
↑の☆☆☆☆☆をタップして
★★★★★にして評価していただけると励みになります!

― 新着の感想 ―
[良い点] だが断る
[気になる点] 言い方ェ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ