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第二十九話 変動


「――くががあがあぁああぁーーーッッっ!!」


 クズールの手には粗末な火炎が生まれていた。


「ちぃっ!」


 即座に俺は手を掲げ、銀の剣を作り出す。


「なりません!」


 アイリスは危険を察知し、瞬時に呪文を唱えた。

 三者三様の行動。

 それらは交錯し。

 そして。

 地が揺れた。

 鳴動する大地。

 俺たちは体勢を崩してしまう。


「な、何が!?」

「地震!?」


 弟子たちが叫びあう中、地面はさらに激しく揺れ始める。

 地面にヒビが走り、それはやがて大きくなり、村を飲み込んだ。

 俺は咄嗟に飛びのくと同時に木々に糸を巻き付ける。

 その木さえも地割れに飲み込まれ、俺を支えるものはなくなった。

 俺の身体は地割れに飲み込まれる。


「うわあああああ!」


 叫び声をあげるクズールの弟子たち。

 彼らも地割れに落ち、そのまま落下していった。

 地上は見えず、辺りの木々も視界に入らない。

 何かをひっかける場所はない。

 このままでは穴に落ちるだけ。


 俺は銀の銛を作り、壁に投げた。

 何とか突き刺さり、腕に負荷が一気にかかる。

 振り子の要領で、そのまま壁まで行くと、強引に足で衝撃を吸収した。

 かなりの痛みが走るが何とか耐える。

 振動はまだ続いている。

 即座に、銀の銛を幾つも刺して、落ちないように耐えた。


「おのれええええええええっ! グロウぉおおぉぉっ!

 死ね、貴様もここで死ねぇえっ!!」


 眼下にいたクズールが怨嗟を叫び、そのまま落下していく。

 落下しながらファイアボールをいくつも俺へと飛ばしてくる。

 回避行動がとれなかったが、幸いにもあいつの魔術は俺に当たらなかった。

 奴は落下を防ぐための魔術を持たず、そして奴は自分の死よりも俺への攻撃を優先した。


 ……馬鹿な奴だ。

 二度と顔を見ないと思うとせいせいする。

 おまえとの因縁もここまでだ。

 ざまあみろ、と思わなくもない。

 しかし胸がすく思いはあまりしなかった。

 ただ、終わったんだと思っただけだった。


 視界の隅に何かを見つける。

 白銀の髪が妙に目についた。

 アイリス。

 彼女は目を閉じ、整った唇を動かしていた。

 次いで、彼女が身体が宙に固定される。

 いや、飛んでいた。

 風魔術のフライだろう。

 よくよく見ると、クズールやその弟子たちは地割れに飲み込まれたが、アイリスの弟子たちはフライを使い宙を飛んでいた。

 アイリスがどうなろうと知ったことはないが、一度助けたせいか、僅かに安堵した自分に気づく。

 アイリスはきょろきょろと見回し、俺を見つけるとほっと胸を撫で下ろした。

 俺を連れてこいという王の命令があるからな。

 俺が死ぬと困るのだろう。

 その後も、辺りを見回していながらこちらへ飛んできた。

 正直、揺れが酷く、この状態を維持することも厳しかった。

 耐えることで精一杯で、地上へ上がることも難しい。


「お手を!」


 彼女に助けられることはなぜか抵抗があった。

 だが、俺は以前彼女を助けている。

 これで貸し借りなしだと考えればいいか。

 アイリスは俺の手を取ると、ぐいっと引っ張った。

 しかし華奢で小柄な彼女には、当然ながら筋力はない。

 空を飛べても、持ち上げるには彼女の力が必要だ。

 ……しょうがないな。

 俺はアイリスの後ろから抱きつく。

 自然、俺の顔はアイリスの顔の横に位置する。

 彼女の顔は良く見えないが、白い頬が僅かに赤く染まっていた。


「あ、あの、こ、こ、これはっ」

「悪いが我慢してくれ。このまま飛べば地上に戻れるだろ」


 背負うという負担はあるが、持ち上げる力は風魔術で補える。

 この状態ならば上へ戻れるだろう。


「そ、そうですね。わ、わかりました。し、しっかりとお捕まりください」

「ああ、わかった」


 言われるままにアイリスの肩にしがみつく。


「きゃうっ! い、息が、み、耳に……」


 変な声が聞こえたが、俺は無視を決め込む。

 ふるふると震えているし、妙に動きがぎこちないが、何とか飛び立つアイリス。

 しかし小柄だ。

 こんな小さい少女が魔術師のトップというのだから驚きだった。

 以前はそんなこと疑問にも思わなかったが。

 飛翔し、地上が近づいてくる。

 光は届いているが、戻るにはしばらくかかりそうだった。

 結構落ちていたらしい。


「……なんだ?」


 何かが聞こえた。

 地鳴りか?

 地震はまだ続いている。

 だがそれとは別に、いやあるいはそれ自身か、別種の音が響いた。

 断続的な音。

 それは徐々に大きくなり、自然的ではなく、意識的なものを感じさせ。

 そして。

 その原因が見えた。


「キャアアアアアアアアアアアア!」


 眼下から聞こえた悲鳴。

 いや、鳴き声だった。

 顔をしかめる中、俺は目を見開く。


 巨大な根、蔓、葉、幹、枝。

 それは植物に他らなず。

 それは魔物に他ならず。

 それは金属に他ならず。


 それはメタルに他ならなかった。

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