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第二十一話 さあ言え


 俺は肩越しに村人たちへと振り返った。


「邪魔だ。下がれ」


 俺が小声で言うと、カタリナや村人たちは跳ねるようにそれぞれの家の中へと逃げていった。


「俺様は知ってるぞ。さっきの魔術……おまえ、金属魔術師だな?」

「だから?」

「だから、だって? あーっはっはははっ! 金属魔術師ってのは魔術師でも最底辺!

 弱い、使えない、意味もないの代名詞だろう!

 魔術師ってだけで、四大魔術師のおこぼれに預かっているクズじゃないか!」


 俺は腕を組み、商人の高説に耳を傾けた。

 何の感慨もない。

 幾度となく聞いた言葉だ。


「しかもおまえは一人! 魔術師は護衛もいない状態で『呪文』なんて唱えられない!

 さっきのは不意をついたせいで『呪文』が聞こえなかったが、今度はそうはいかないからな!

 こっちは多勢! おまえに勝ち目なんてあるはずが――」

「ぐわああああっ!」


 賊の数人が吹き飛んだ。

 それは一瞬出来事だった。

 その瞬間を認識できた者はいなかっただろう――俺以外には。

 俺の両手の銀の小手からは二本の棒が突き出ていた。

 質量を考えれば大した長さにはならないが、細くすればある程度まで伸ばせる。


「こ、殺せっ!」


 慌てて商人が指示を出し、賊が一斉に襲ってくる。

 俺は欠片も動揺せず、一歩商人に向かって踏み出した。


「おまえはいくつも勘違いしている」

「死ねっ! ぐ、ごっ!?」


 賊の一撃を銀の小手で弾くと同時に、腕を突き出した。

 鳩尾に綺麗な一打を受けた賊は、その場に倒れる。

 次いで俺は腕を振る。

 銀の鞭が賊の数人を薙ぎ払った。


「一つ。金属魔術に呪文は必要ない」


 商人に一歩近づきながら、俺は再び腕を振った。

 賊の一人が森へと吹き飛ぶ。


「二つ。金属魔術は使える。こんな風にな」


 商人に近づきながら、何度も腕を振る。

 その度に取り巻きたちは宙を舞い、あるいは地面に伏した。

 俺は商人の目の前までたどり着いた。


「三つ。金属魔術は弱くない」

「あ…ああ…あ……」


 俺が睨みつけると商人はわなわなと震えていた。

 商人はゆっくりと後ろを振り向く。

 そこにはすでに立っている人間は誰もいない。

 全員、俺の銀魔術で倒した。

 魔術師や歴戦の勇士であればまだしも、雑魚が俺に勝てるわけがない。


「な、なぜ……ま、魔術師は魔術以外の戦闘技術を持たないのが当たり前だ!

 そ、それなのに、そうして……」

「強さが必要だった。だが、それも今はどうでもいい」


 銀魔術師を認めさせるため、銀魔術を最大限活用するため。

 俺は戦闘技術でさえも身に着けた。

 だがそれはもう意味を成さない。


「グ、グロウ様! だ、大丈夫ですか!?」

「見ればわかるだろ」


 駆け寄ってきたカタリナに俺は呟くように答えた。

 老人連中も後に続き、俺のもとへとやってくる。

 ほっとした顔をしている。

 それがなぜか無性に苛立った。

 俺は商人の首を右手で掴み、持ち上げた。


「おごっ、ぎ、ぎぃっ! だ、だずげ」

「グロウ様!? い、一体何を」


 カタリナや老人たちが慌てふためく。

 俺は涼しい顔のまま商人を見上げた。

 商人は目や顔を真っ赤にして、苦しそうにうめいている。


「殺すんだよ」

「そ、そんな! やめてください!」

「なぜ? こいつはおまえたちを殺そうとしたんだぞ?」


 間違いなく俺がいなければ全員殺されていた。

 どれだけ許しを請おうが、慈悲なく惨殺されていただろう。

 自らの利益ばかりを優先し、それ以外はどうでもいい。

 そんな人間はごまんといる。


「殺さないと、こいつはまたやってくる。今度は大勢の人間を連れてな。

 それでもこいつを見逃すつもりか?」

「そ、それは」


 カタリナや老人連中は顔を見合わせていた。

 そうだ。

 理解しろ。

 人間の大半はクズであると。

 善人でいれば搾取されるだけだと。

 そして自らを守るには手を汚す必要もあるのだと。

 綺麗ごとだけでは生きていけないと。

 そして弱者は搾取されるだけであると。

 弱者は善人ではいられないと。

 さあ言え。

 そいつを殺せと。

 クズは殺すべきだと。


「こ、殺さないでください」


 カタリナが言った。

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