あったかい
「ないね。ただ魔力が無駄になるだけ。人力で出来ないか試してみたいの?」
「無理だよー」っとナルニアが魔鉱石を渡してきたので、それを手に取り魔力を流してみる。
すると濁った紫色をしていた魔鉱石の濁りがなくなった。魔鉱石はみるみる透き通っていき、最終的には淡く発光する紫色のクリスタルのようになった。
「これでいいか?」
ナルニアは、俺の手の中にある魔鉱石を「ぽかーん」とした眼で見ながら固まった。
「ナルニア?おい、大丈夫か?」
......
「いやいやいや!なんで魔力チャージ出来るの?おかしいよ!」
「いや、まぁ、魔鉱石の魔力チャージはよくやってたしな(神界で)。」
魔法人形作成やら小道具の作成やらで魔鉱石は山ほど使ってきた素材だ。錬金術のスキルレベルが上がれば人力魔力チャージができるようになった。今はスキルレベルが下がっているが、人力魔力チャージの感覚は覚えているし、そもそも身体が魔法人形なので魔力制御のしやすさが段違いだ。
ナルニアには、言っちゃいけなさそうなところは誤魔化しつつ魔力チャージの出来る理由を教えた。
「いや...よくやってたからってそんなこと言われても...そっかぁーマッドマギティストだったね。一家に1人ファフニールだね。」
「いや、そんな理由で納得しないで??そして俺は量産品じゃないわ!」
俺の魔力チャージで思考が逸れたのか、ナルニアが少し元気になった気がした。
ナルニアが、俺から受けとった魔鉱石を魔道具に戻した後、少し操作すると
「これでお湯が湧くはず。数分したら入れるはずだよ。お先にどうぞ?」
「む。家主より先にお風呂に入るのはね」
「いいのいいの、恩人さん(ファフ)が先に入って!」
そう言ってナルニアは脱衣場から出ていこうとする。そのナルニアの横顔をちらりと見るとまた思考が戻ってしまったようで暗い顔をしていて...見るに堪えなかった。
驚かすのは、ほんの少しの間しか効果がなかったが、それでもさっきの「ぽかーん」はナルニアの素だった。
...そして、それ以外は無理をしていて、見ているだけで辛かった。夜は気分が沈む時間でもある。昼間はまだ耐えられた。でも夜は?...
--いや、言い訳はやめよう。「見るに堪えなかった。」俺がもう耐えられなかった。俺はこういうのが苦手で、だから触れないようにとか、触れられないとか、もう無理になって、だからナルニアを後ろから抱きしめてしまった。
「え?なに!?」
「えと...俺はな...まだ会って1日も経ってないけどさ。ナルニアの事を大切な仲間だと思ってる。だから、こうしなきゃ行けないって思ってさ。...なんでだろうな?」
「なにそれ、励ましてくれてるの?だとしたら下手な励まし方だなーもー。」
そう言って振り向いたナルニアのワインレッド色の瞳には、涙が光っていた。
「うっ...すまん。」
「しかたないなぁ!励まされてあげるよ!でも、その前に1度思いっきり泣きたい。」
「もう泣いてるじゃん。」
「もっとだよ。」
「もっとなのか。」
「ねぇ、やっぱり、一緒にお風呂にはいろ?いっぱい愚痴聞いてよ。全部お風呂で洗い流すの。」
「いいぞ。いくらでも聞こう。...中身男だけど?」
「今はファフに甘えたいの。だから今なら気にならないよ。」
そう言ってナルニアも俺の事をぎゅっと抱きしめた。
「まだお風呂に入ってないのに、こうするとあったかいね。これ、封印されていた私が欲しかったあたたかさだよ。」
「ナルニア...」
「別に親のあたたかさの代わりとかじゃないよ。これはファフのあたたかさ。ファフのくれる私の大切な「あったかい」。」
この後、風呂が沸くまでこのままで、沸いたら共に風呂入った。風呂の中でのナルニアについては深くは語らない。これは俺の心の中に秘めておく。
異世界系のファンタジーをメインに置いた作品って、ヒロインが主人公に惚れる描写ってあまり深く書かれることってすくない気がします。
それが悪い訳じゃないけど、私はやっぱり、胸を締め付けられるような展開と深い理由があってこそ仲良くなってイチャイチャするっていうのがいいなって。だから馴れ初め、頑張ってみたんですけど、なかなか満足いかなくて、書き足したり、消したりしてたら、収拾つかなくなってきたので妥協しました。
読み返してみると違和感を感じる作りになっちゃったかな。