「作った笑顔」
日が落ち、辺りが暗くなってくると元日本人としてはお風呂に入りたくなってくる。今日は特にジメジメした洞窟を歩いたりさっきまでナルニアに貸し与えられた部屋の掃除をしていたりしたから尚更だ。
魔法人形である俺の身体は自動洗浄機能を搭載しているため汚れることはないが気分というものは大切だと思う。
「ナルニアー!風呂ってないのか?」
ナルニアと今は別行動中だ。さっき言った部屋の掃除を俺はしていたし、ナルニアは「 今の城がどうなっているのか点検してくる」とどこかへ行ってしまった。でも、部屋の前の廊下から発した俺の声が聞こえたようで、
「今行くねー!」
っと、どこからか返事が聞こえてきた。しばらくして廊下の奥の方からトテテッと可愛い擬音がしそうな感じで走ってくるナルニア...
「お風呂はね。点検の途中で見てきたけど普通に使えそうだったよ!」
今のナルニアはリビングで話していた時よりも表情は明るく、テンションは高いが...
これは...無理してるなぁ...この感じ。
点検がてら1人になったことで気持ちの整理をしていたのかもしれない。それで誤魔化すという方向になったとか?
いや、棺桶から出れた時はその喜びがあったが今は少し時間が経った。寂しさや悲しさなんかの感情が今になって押し寄せてきている可能性もある。
そんなナルニアの「作った笑顔」をみるとデリケートな話し故に、俺も下手に触れられないと思ってしまい...
「まじか、最悪ボロボロで使えなくなってる可能性もあると思ったんだが」
触れないように普通に話を返す。
「お風呂は他の部屋と比べて痛みやすいからね。念入りに修繕の魔法をかけてたのが良かったみたい。入りたいの?」
こくんっと首を傾げながら聞いてくるナルニア。思わずナルニアの頭をぽんぽん撫でてしまう。これくらいは大丈夫のはず。
「ああ、この身体だから汚れてもすぐ洗浄されるが気分は大事だからな。」
「むー。頭ぽんぽんはダメ!ほらお風呂はこっちだよ!」
ナルニアは、顔を真っ赤にしながら風呂までの道案内をしてくれた。
ナルニアに先導されながら城の中を移動する。最初は照れた表情を見せたナルニアも、俺の先を歩いているためバレないと思ったのか時折暗い表情をする。
その表情は、ちまちま窓ガラスに写るナルニアの横顔で俺には見えていた。
だから、移動時間が結構長くて気まずかった。ナルニアがひとつの扉の前で立ち止まり、
「ここがお風呂だよ。湯沸かし機の魔鉱石の魔力が切れてなければいいんだけど。」
そう喋るナルニアの表情は「作った笑顔」に戻っていた...
そんなナルニアが扉を開くとそこは石造りの脱衣場だった。
「あれ?点検したんじゃないのか?」
やっぱり俺はそれには、触れられない。
「そんなに細かくは点検してないよ。部屋ごとの魔機を1個1個見てたらキリがないし...」
そう言ってナルニアは、脱衣場の壁に埋まるように付いている金庫のような物を開けた。そこには、濁った紫色をした魔鉱石が埋まった魔道具が取り付けられていた。この魔道具が湯沸かし機なのだろう。
「あー...やっぱり魔力切れだー。魔力をチャージする魔機どこだったかなぁ。このお城のどこかにはあるはずなんだけど。」
ナルニアは魔道具の魔鉱石を外しこちらに見せてきた。
「ん?魔鉱石の魔力チャージは人力でできないのか?」
「無理だね。魔鉱石への魔力チャージは精密な魔力操作がいるから魔機じゃないと出来ないよ。」
「ミスると魔鉱石が壊れるとかは?」
「ないね。ただ魔力が無駄になるだけ。人力で出来ないか試してみたいの?」
あと少しだけ暗い話が続くんじゃ(´・ω・`)