幼稚園児だけど色々頑張ってます
「ゆーくん、あそぼ!」
「良いよ。何したい?」
「おままごと!」
「え、また?」
「う……だめ?」
「いや…良いけど。」
「やったぁ!!」
ぴょんぴょんと兎のように跳ねる綺音を見ながら、俺はここ数ヶ月の事を思い返していた。
綺音がりんごクラスへと変わってから、早くも半年が経過していた。
綺音はりんごクラスに来てからというもの、俺を含めた他人と遊ぶ事が格段に増え、徐々に生来の明るさを取り戻していった。
時折女の子だけで遊んでいるのを見かけるが、そんな時には綺音がリーダーのように振る舞っているようだ。
だが基本的には綺音は俺から離れようとせず、俺が他の子と仲良くしていると不機嫌になったりもする。
この嫉妬の心を育てるのは良くないと思い、最近では俺には俺の事情や付き合いがあるという事を丁寧に教えてやったりしている。
また、綺音に関する変化で大きなものが1つ。
それは、綺音の変化を嬉しく思った親御さんが俺や俺の親にコンタクトを取ってきた事により、家族ぐるみの付き合いができた事だ。
幼稚園が休みの日に、俺と母さんと綺音と綺音の母親の4人で食事に行ったりもした。
この半年間で、幼稚園でも様々な変化があった。
入園直後は慣れない環境に混乱していた子ども達も、既に幼稚園での生活にすっかり適応している。
俺も未だに子ども達から引っ張り回される事はあるが、最初の頃に比べると随分マシになったと思う。
子ども達が俺に対して従順であるのは変わらない。
というかむしろ酷くなった。
何が酷くなったかというと、りんごクラスだけでなく他のクラスの子どもまで俺に従うようになったのだ。
子ども達が幼稚園に慣れるにつれて、クラス別ではなく合同で行動する事も増えた。
必然的に他クラスの子どもと触れる機会も出てくる。
そして身近でトラブルが起きる度に、他クラスだからと無視する事もできず、世話を焼いて回っていた結果、同い年の奴らは軒並み俺に従順になってしまった。
流石に不思議に思った俺は色々と考えたのだが、一番ありえそうだと思ったのは、主人公補正としての"カリスマ"である。
ゲームでも主人公は天性のカリスマを持っているとされていた。
持ち前の優柔不断さで台無しにしていたが、ヒロイン達が惚れる素養は持っていた訳だ。
そこに大人の精神を持った俺の行動が合わさった結果、この下僕集団が出来上がったのだろうと考えた。
真実はわからないが、前世で大して有能でもなかった俺が、ただ世話を焼いているだけでこれほど子ども達が言う事を聞くというのは不自然すぎる。
仮説にしてはファンタジーにすぎるというものだが、そもそも転生なんていうファンタジーの極みが実現している以上、この仮説も一概に切って捨てる事はできないだろう。
将来を見越した自分磨きもついに始動した。
俺は幼稚園が外部コーチを雇って行なっている課外活動の内、空手教室の受講を希望した。
この夏から年少組も受講ができるようになったのだ。
母さんは俺が武道を嗜む事にやや反対的であったが、父さんが賛成してくれた事や、俺が自分から何かを強請るのが珍しかった事もあり、最終的には認めてくれた。
更に同じく幼稚園主催の体操教室も受講した。
これは基礎的な運動能力や柔軟性を鍛える為だ。
綺音も同じく受講している。
また、幼稚園児以上を対象にしている近所の英語教室にも通い始めた。
前世での社会人生活の中で、英語が話せる事のメリットを強く感じていた為だ。
これも綺音と一緒に通っている。
ABCの歌を楽しげに歌う綺音はとにかく可愛い。
こうして俺は、幼稚園では子ども達の相手や綺音を愛でたりして、家では姉さんや凛と遊び、習い事では自らを鍛え、充実した幼稚園児生活を満喫していた。
忙しない生活だとも思うが、幼稚園児の身で暇な時間ができたところで持て余すだけだ。
母さんがやたら見せてくるテレビの子ども向け番組を見て作り笑顔を浮かべるよりもずっと楽しい。
こんな楽しい日々がずっと続いて欲しい。
そう思っていた。