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中学3年生 冬

遅くなってしまい申し訳ございません。

「ふぅ……さっぶ…」


ブレザーの上にダッフルコートを着て、首にはマフラーをかけている。

前世で中学生だった時は学ランだけでも耐えられていたのに、どうして今はこんなに冬の風が冷たく感じるのだろうか。


精神が大人だからか……体は子どもなんだけどなぁ。

そんな事を思いながら息を吐く。

澄んだ夜空に白い吐息がフッと浮かんだ。


「もうすぐでクリスマスか。」


あと数日もすれば、リア充の祭典クリスマスを迎える。

俺に彼女はいないが、環境を考えればリア充と言えなくもなかった。

なにせ24日は家族でパーティーをしてプレゼント交換をし、25日は綺音とデートに行く予定だからだ。



「家族でのプレゼント交換は俺の好きな物を何か適当に買うとして……綺音へのプレゼントはどうしようかね。」


ここ最近毎日のように考えている事。

綺音が欲しがるもの……4月から高校生だし、時計とか?

でもあまり高い物は喜び辛いだろうし、逆にダサいよな。


例えば部活で使えるようなバッグとかは……使われなかったら悲しいし、無理して使われるのもそれはそれで虚しいだけだ。

綺音の好みを知ってはいるつもりだが、万が一を考えると日常的に使うバッグは微妙かもしれない。


やっぱりアクセサリーとかかな。

ネックレスやブレスレットくらいなら、選び方さえ間違えなければガチっぽくて引かれる事はないだろうし、それほど高くなくても洒落てるのがあるだろう。

あともし趣味に合わなかったとしても、全然着けてくれなくて落ち込むなんて事もないだろう。

どうせ日常的に着ける物ではないのだから。



「よし、その路線で考えてみよう。」


今日は色々あって下校がこんなに遅くなってしまった。

明日にでも買い物に行こう、と夜空を見上げながら決めた。


「………さむっ」


早く帰ろう。

学校を出る際に連絡をしたら、もう夕飯を作って待っているとの事だった。

あまり待たせ過ぎると凛のお腹がカルデラみたいにへっこんで怒りが噴火するかもしれない。






「ただいま。」


「あらぁ、おかえりなさいゆうくん。」


玄関を開けて家に入ると、ちょうど洗面所から出てきた母さんがこっちを見てにこーっと笑った。

一瞬でリラックスしてしまうような笑みだ。


「ただいま、母さん……ん?」


改めて言っていると、リビングの方からドタバタと慌ただしい足音が聞こえる。

そしてリビングの扉を開け放ち飛び出してきたのは凛であった。



「お兄ちゃん!遅いっ!」


腰に手を当てプンスカ怒っているが、ただただ愛くるしい。


「ごめん、凛。ちょっと色々話してたんだ。」


「先生に呼び出しを受けるなんて、お兄ちゃんは不良さんになっちゃったの!?」


あ、先生に呼び出されたのは知ってるんだ。

たぶん母さんから聞いたんだろうな。


「呼び出されたのは本当だけど、別にお説教されてたわけじゃないよ。進路の事で話し合ってただけ。」


「ほぇ……進路?」


凛がパチクリと瞬きをする。

母さんよ、言うならそこまでちゃんと言っておいてくれ。

と思いつつ母さんを見ると、"あっ……えへへ"みたいな顔をしている。

よし、可愛いから許す。



「後でまた話すよ。とにかく遅くなってごめん。ご飯食べようか。」


「はっ!そうだ、ご飯ご飯!」


凛が急ぎ足でリビングへ戻る。

その後に母さんが続き、俺は荷物を置きに一度部屋へ上がった。

そして荷物を置いてすぐに下りる。


既に母さんが料理を装っており、姉さんが全員のお茶を用意し、凛は垂れそうな涎を拭っていた。

俺は配膳の手伝いをする。

凛も少しは働け、将来困るぞ。




「あぁ…うめぇ……」


「ふふっ、それは良かったわぁ。」


白菜と鶏肉を一緒に口に入れて、熱くてハフハフしながら食べた俺がしみじみと呟くと、母さんがニコニコ笑いながらそう言った。

今日の夕飯は寄せ鍋、作ったのは母さんである。


「やっぱ冬は鍋だね。」


うちの寄せ鍋は魚介出汁に醤油で味付けしたスープで作る。

このさっぱりしたのが良いんだよなぁ。


「んむっ…あむ……んにゅ……うみゃい!」


「凛ちゃん、噛んでからにしなさい。」


「ぁい……んむんむ…んくっ……うまい!!」


母さんに嗜められた凛が再度声を上げる。


「……ん。」


凛の隣では、いつも通り静かな姉さんがコクリと頷いていた。







食後、皆は既に入浴を済ませているとの事で、最後に俺が風呂に入った。

そして風呂から上がってリビングへ行くと、母さんと姉さんが温かいお茶を飲みながら話している。


「ふぅ……あれ、凛は?」


「りんちゃんは部屋に上がってるわよぉ。ゆうくん、お風呂どうだった?」


「うん、気持ち良かったよ。……何を話してたの?」


「はるちゃんの進路の事よ。ゆうくんは先生とどういう話をしたのぉ?」


「俺は……やっぱり反対された。けど、とりあえず俺の希望通りに決まったと思う。」


「そっかぁ……」


母さんが複雑な表情を浮かべる。

俺の意思を尊重したいが、母さん的には先生と同じ意見なんだろうな。

それくらいはわかった。




中学3年の12月。

ほとんどの生徒は既に受験校を決めているし、スポーツ推薦の特待生などはもう進学先が決まっている者もいる。

そんな中、俺はまだ受験校が定まってはいなかった。

いや、俺自身は希望する高校は1つだけなのだが、周りに納得しない人達がいるのだ。


俺が進学先として希望しているのは、スポーツに強い私立高校である。

部活動に力を入れている学校で、あらゆる運動部が全国大会等で結果を残している。

綺音は既に、この学校への特待生進学が決定していた。


俺は空手で世界大会にも出場しているものの、それは部活ではないし、そもそもうちの中学には空手部はない。

希望している高校には空手部がある為、進学して空手部に入部する事は可能であるし、俺もそうするつもりである。


だが中学で部活に所属していたわけではない俺が高校で入部して結果を残しても、今の中学校にはそれほど旨みはない。

むしろ学力的には俺はもっと上の高校も目指せる為、先生からしたら"勿体ないじゃろがい!"という感じだろう。


母さんを呼んで三者面談した時に、母さんも俺の選択に戸惑っているというのが担任にバレてしまい、結構しつこい引き止めをされる事となってしまった。

だが今日の話が最後となったはずだ。

最終的には先生もわかってくれた……というか、諦めてくれた。




「母さんも……反対、だよね。」


「そうねぇ…空手なら今のまま道場に通ってできるんだし、部活に入る必要もないとは思うかなぁ。」


母さんが眦を下げてそう言った。

母さんとしても、スポーツよりは学力で選んで欲しいようだ。

だが、俺にはどうしてもその高校に行きたい理由があるのだ。


「やっぱり、綺音ちゃんがいるからかしら…?」


「それもある。けど、流石にそれだけで進学先を決めたりしないよ。」


俺がそこを希望する理由。

それは、ゲームで主人公が通っていた学校だからである。

綺音含むヒロイン達のNTR回避する


「そうよねぇ…ゆうくんの事だから、ちゃんと考えた上で決めてるってのはわかるんだけどぉ……深くは教えてくれないのよね?」


「うん……ごめん。」


俺にはただ謝る事しかできない。



「謝らなくて良いのよ。お母さんはゆうくんを信じてるしぃ………わかったわ、先生が認めてくれたのなら、もうお母さんから言う事はないわよ。」


「なら…?」


「ゆうくんのしたいようにしなさい。その代わり、部活も勉強もしっかり頑張るのよぉ。」


「勿論だよ。ありがとう母さん。」


嬉しくなった俺は、座る母さんの後ろに回ってぎゅっと抱きしめた。


「あ、あらあらゆうくんったら……うふふっ」


母さんは顔を赤らめて照れ笑いした。

相変わらず可愛くて綺麗な人だ。

母さんはきっと10年くらい前から時が止まっているに違いない。



「……ん。」


くいくいっと寝巻きの裾を引っ張られてそちらを見ると、ジト目の姉さんがいた。

姉さんもずっと無言で俺と母さんの会話を聞いていた。


「…私、も……ユウを応援…する。」


そう言ってすっと腕を広げる姉さん。

バチコイって感じでフンスッとしている。


「姉さんもありがとう。」


笑いつつ抱きしめると、姉さんは満足そうにムフーっとした。






「ところで、姉さんの進路についてってのは?」


2人の向かい側に座ってお茶を啜りながら問いかけた。


「学校の先生に話したら、特に反対はされなかったっらしいわぁ。良かったわね、はるちゃん。」


「……ん。」


俺と違って姉さんの希望は学校でも良い感じに受け取られたらしい。

その姉さんの希望というのは、音大への進学である。

姉さんのピアノの先生の先生がいるという、国立芸術大学の音楽学部ピアノ科に入りたいらしい。


全国級のコンクールでも入賞常連の姉さんなら入学自体は大丈夫だろうと思う。

偏差値的にも全く問題はないしな。


「姉さんはやっぱりピアニストになりたいんだね。作曲とかも学ぶの?」


「……ん、できれば。」


「そっか。いつか海外を飛び回るようになっちゃったりしてね。」


外国でピアノを演奏する姉さん……変わらず無表情なんだろうな、と思うと少し面白かった。



「……その時は、ユウも…来て。」


「え、なんで?」


「…通訳。」


まさかの通訳。

俺は姉さんの専属通訳として働くのか。


「…あと……メンタル、ケア。」


「あらあら、はるちゃんはまだ弟離れできなさそうねぇ。でもそんなのも楽しそうだわぁ。」


「ははは…なら、俺は大学で心理学でも学んどかないとね。」


「……ん。」


姉さんは何故か満足そうに頷いた。

可愛い。

そんな未来は確かに楽しそうだと俺も思った。


大人になったらどうなるのか。

今はまだ見えないけれど、楽しい未来を守る為にも、俺は俺で頑張るとしよう。

次回から高校生編に入ります。

それと不定期更新となりますが、今後とも宜しくお願い致します。

少なくとも週に一回は更新したいと思ってます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 2020年終わりから最新がないから続きがないのは見てわかってたけど、楽しいからもっとよみたかったです。
[一言] とても面白かったです!続きがとても気になります。 可能ならば、連載を再開して欲しいです!
[一言] 楽しく読ませて頂きました。 出来れば、というか何とぞこの続きを書いてもらいたいです。 執筆大変だとおもいますが、よろしくお願いします。
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